付き合い始めて三ヶ月。 
特に用事がなければメールや電話が来ることもなく、こちらから連絡をとろうと試みても反応がないため努力するだけ無駄か、と怒るのを通り越して諦めてしまったのはハルの記憶に新しく、そして苦い経験だ。
それになかなかお互い都合が合わず、週に一回会えればいい方で、しかも自分には門限があるからあんまりずっと一緒にも居られない。
会ったら会ったで、付き合う前よりかはマシになったものの相変わらずの口の悪さや態度の悪さにむかむかしたりくらくらするから、もう本当にたまったものではないし会話だって近況報告を軽く済ませば沈黙してしまうのなんて毎度のこと。
ファミレスや街中でいちゃつく世のカップルたちのように手をつないだり寄り添い合ったりなんて論外で、なによりハルは付き合う前にも、付き合うことになった時にも、付き合い始めて今日の日まで一回だってすきだと言われたことはなかった。
いや、はっきりとその言葉を口にはしなくとも、そうと匂わせる台詞や言い回しで伝わったものがあるからこそ自分たちは交際暦三ヶ月目を迎えているのだけれども――果たして、その、今まで自分が受けとめてきた彼の言葉のニュアンスとゆうものは、彼の意図するそれとして正しく自分に伝わっていたのだろうか、と。
考え出すと不安ばかりが胸に根を張るから、あまりよくないとは分かっていてもついつい思考を放棄してしまう。
だって、そうすると最終的に彼は自分のことを恋愛感情どころかむしろどうでもいい存在だと思っているんじゃないかとか、実はその時の流れで付き合うと言ってしまって後悔しているんじゃないかとか、本当は、ハルを振るとかわいそうだから『おままごと』に付き合ってやってるつもりなんじゃないか、とか。
だって、会えば淡々としていながらも、二人きりになれた時は自然とキスだってするし少し口に出すのははばかられるような破廉恥なことだって、自分でも予想外だけど口喧嘩をしながらでもなんだかとてもしあわせな気持ちで受け入れていて、彼だってそんな表情で、雰囲気で、でも、そんなのだって目の前に彼が居なければ途端に何も分からなくなってしまうのだ。
自分だけがすきなのではないだろうか、もう、きらわれてしまったんだろうか、ああ、そんなことを考えてしまう自分はそれだけ彼をすきなことになるのだろうか、獄寺さん、ハルは、あなたにいつか捨てられてしまう日が来るのでしょうか?
馬鹿な堂々巡りに陥っていることなんか自分でもよくわかっているけど、握りしめた携帯が彼からの着信音で鳴ることがない不安をどうしたら打ち消すことができるのだろう。
約束も取り付けずに唐突に会いに行ったところでどうせ、彼は周りに人が居ると冷たい反応だし自分だって思っているのと反対のことを言ってしまうから嫌な結果におわるのは目に見えている。

「‥花ちゃん、ハルは、一体どうしたらいいんでしょうか?」

そんな自分の考えをぶちまけて、沈んだ声で聞いてみると彼女は難しくひとつ唸って小さく笑った。

「まあ、とりあえずハルがあの不良のことをすごい好きってのはよくわかったけど、」

「ちっ、ちが!別にハルはあんな人のことそれなりに好きなだけで!」

「はいはい分かった分かった。で、ハル、だからあんたはとにかくそのそれなりに好きなだけのアイツにどうして欲しいの?」

「、それは‥‥」

口をもごつかせながら視線を彷徨わせるハルに花は苦笑う。

「まあ、てゆうか好きじゃなきゃわざわざ忙しかったりなんだった言ってるくせにそんな中、今から会うかとか連絡して来ないと思うけどね、あの沢田綱吉至上主義のアイツが」

「‥‥‥でも、」

「うん?でも何よ。アイツの気持ちがわかんないって?」

「‥全然、わからないです」

「そ。けどそれ、アイツも同じじゃん」

「、」

確かに、その通りだ。
自分は彼に自分がどう感じているかなんて伝えてもいない。わかるわけがない。

「いつもみたくアンタが爆弾みたいになれないのは、相手がアイツだからってのもでかいだろうけど‥要は傷つきたくないからなんじゃないの。それか、嫌われたくないからとかそうゆうの」

「‥‥そ、れは、」

もごついて続きを口に出来ないハルに花は苦笑をこぼした。

「ま、あたしはハルをいじめに来たわけじゃないから。一回、ちゃんと話してみなよ」

ふわふわとしたウェーブを揺らして、花ちゃんが笑う。
やさしい。
(獄寺さんだって、これくらいやさしければよかったのに)
むっと、唇を突き出してむくれた顔になりながらハルは甘くないアイスティーに口をつけた。
大人になれない舌先と思考が、苦く痺れる。
それでもやはり鳴らない携帯に憤りを感じてはさみしくもなってしまうハルは、やっぱりどうしたって獄寺さんを、。

「‥はあ、」

なんて、ため息。
結局、そういうことになるのだろうか。
しかしそれを認めてしまいたくない自分がいる。
ああ、それにしても甘味のないアイスティー。
少しばかり苦い口内は、まるで獄寺さんへの自分の気持ちのようだとハルは再び小さくため息を吐いた。
















わたしの中の苦い虫




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