そうだね、多分あたしとあんたは似てないようでどこか似ていて、だけど結局似ていない。
それは好きな音楽や趣味や食べ物が一緒だったりそうじゃなかったり、考え方とか受け取り方とか、ぴったり重なることもあればまるで正反対で言い合いになったりして、でもそうゆうのって、別にあたしとあんただけじゃなくてみんなそうなんだよね。だから、何が特別ってわけじゃない。

「なのに、ホンットなんでなのかなぁ‥」

ぽつり、あたしは一人ごちる。
二人で観ようと言って山本が借りて来たのは、少し前にあたしがテレビで流れたCMを見て面白そうだと零したホラー映画だった。
それは今、雰囲気を出すためにと山本が暗くした部屋の中で煌々と不気味に光を放っているテレビ画面に流れているけれど、借りてきた本人は映画が始まって三十分でグッナイベイビー。
腕を組んで口を開け、二人掛けの黒革のソファにくったりと身を預けて上を向きながら眠る様と和物ホラー特有のヒタヒタと忍び寄るようなあの独特の空気を醸し出す効果音は見事なまでに噛み合わない。

「全く‥言い出しっぺが寝てどうすんのよ、アホ」

気持ち良さそうに寝息を立てる横顔を人差し指で容赦なく突いてやる。

「んが、」

けれど山本は少しだけ向こうに頭を傾かせると、寝言をむにゃむにゃ呟くだけで目を覚ます気配は一向になかった。
まあ、映画を観るという時点でこうなることは予想出来ていたから、無理矢理起こすなんて殺生なことをあたしもするつもりはない。
だけど、これがハルだったならば問答無用でガクガクと肩を揺さぶり起こしてあの高い声でひどいと罵るところだろう。
薄気味悪く青白い手が、ヒロインの首にするりと蛇のように巻き付くのをぼんやりと眺めながらそんな想像したら、うん、本当にありそうでなんだかちょっと、おかしくて笑える。
けど、多分ハルの場合はホラー映画を観るのだとしたら、別に怖くないところでもヒィヒィとべそをかいたり悲鳴を上げたり、ともかく隣で一緒に観る彼氏は寝たくても寝られない状況を作り出すに違いない。
そうして、もしもこれが京子の場合ならば、隣で彼氏が寝ていようが寝ていまいがまるでコメディ映画を観ているような調子で笑って最後まで見終えることだろう。
ホラー映画は作り物だからと分かっているから楽しめるあたしとは違って、あの子は、実際にホラースポットに行ったりしても少しびくつくくらいでそこまで怖がったりはしないのだ。
逆に、そういう場所が苦手なのはあたしとハル。
前に、遊園地に行ってお化け屋敷に入ったらパニック状態に陥ってしまったハルを二人で必死に宥めながら出てきた、なんて話を皆の前でしたらハルは怖がりだけど二人はそうじゃないんだね、なんて確か沢田だか誰かだかに言われたけれど、別に、そんなのハルだけが怖がりなわけじゃない。
作り物だと分かっているから平気なだけで、墓場とかトンネルとか今は誰も住んでいないらしい古びた洋館だとか、そういう類の場所や噂話なんかはあたしにとっても恐怖の対象でしかないのだ。
でも、そんなの説明するのも面倒だし恐怖から守ってくれる腕が欲しいわけじゃなかったから、その時はそうね、なんて皆でハルをからかうように笑ったけど。
意外だ、とか、似合わない、とか言われるのが格好悪くて黙ったままにしていたけれど。
きぃん、きぃん。
きぃん、きぃ、ん。
和物ホラーじゃお決まりの不協和音と、黒くて長い髪がお似合いのソレが肌を粟立たせるような動きで地面を這い、画面へと濁った瞳が一気に近づいて――‥カタ、ガタガタンッ!!

「っ、!」

びくり、ぼんやり見入ってしまっていたあたしは思わず身を竦めて息を詰め。
ああ、急な音量の変化と画面の移り変わりについ驚いてしまってちょっとだけ自己嫌悪。
すうすう、横で気が抜けてしまいそうな寝息を立てる山本をじとりと横目で睨みつけ、それから零れる大きなため息。

「‥ったく、貴重な休みにあたしは何やってんだか‥」

結局、こんなの二人で居たって一人で見てるようなものだし、ホラーだし、まあ、これがホラーじゃなくラブストーリーだったらもっと気分的にアレだけど。

(なんか、虚しいっつーか淋しいっつーか、ね、)

抱えた膝に顎を埋めながら、半眼でテレビ画面を睨みつける。
誰も居ないはずの部屋、開け放されたドアを風がきぃきぃ鳴らす音、ふいに、映り込む黒い影、足音、逃げても纏わりつく、気配。


『  、』

『‥‥ぁ、』

『 、 』

『 っ』


声を殺して廃病院の一室、部屋の隅で口に手を当て目を瞑る少女の息遣いは細く荒い。
ひたり、ひたり、近づいて、けれどふとソレは少女の存在に気付かなかったかのように一度だけ足音を止めながらも数秒後には遠退いて、消える。


『‥‥よかっ、た‥‥』


恐怖による汗と緊張で青ざめた顔をくしゃくしゃにして息を吐いた少女は、ぎゅっと目を瞑りそれから目を開い、て、


『 見 い つ け た 、 』


途端、上がる音量。
いくら、作り物は怖くない、と言ってもびっくりするものはびっくりする。
次の瞬間に映ったのは小さな女の子、なのかも分からない何かの顔、顔が、画面一杯に広がり、反響する揺れた笑い声。

(けど、これは作り物、作り物、)

不気味さに少し肌を擦りながら考えて、だけどそういえばこうゆう怖い物を見ている時や話している時は、霊が寄って来るだなんて話を昔誰かに聞いた気のを思い出す。
仄かに、背筋がざわりと冷たくなった気がした。
生まれてこの方そんな類のものを見たことなんかないから、そんなの話半分でしか信じていないけれど。
それにしたって、とあたしは隣へ視線を動かし身を縮める。

「‥バカ本、さっさと起きやがれっつーの」

別に、こんなホラー映画を一人で見るのなんか怖くない。
だけど山本の肩に軽く拳をぶつけて、あたしは、一人じゃないのに味わっているひとりぼっちの感覚に少しだけ顔を歪めた。
じとり、顔を歪めたまま山本の間抜けな横顔を睨んでやる。
テレビ画面からは悲鳴と不協和音。
けれど相変わらず気持ちよさそうに眠る山本は、しばらく目を覚ましそうにはない。

(ホント、なんであたしってばあんたなんかが好きなんだろ、)

なあんて考えたって、そんなの本当に今さらすぎて嫌になっちゃう。
まったく、責任取れっつーのあほんだら。
ばか、さる、山本、あーもう、だけどそれからついでに、あいしてる、





























飽和状態です




title:ララドール


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