気にしてもらいたい、好かれたい、嫌われたくない、私だけを特別な女の子にして欲しい、貴方に触れたい、ふれたい、そっと、この指先でその頬に。
(そうして、今よりもう少しだけ、わたしはあなたに近づいてゆきたいよ、)






「獄寺さん、ハル、なんだか彼氏さんが出来そうです」
「ふぅん、そうかよ」
「はい。実はこの間ハルは告白されてしまったんですよね。で、今は保留期間なんです」
「へぇ、」
「けれど残念なことにハルはその人のことが好きなわけではないので、どうしようかと悩んでいる次第でして」
「‥あ?なんだそれ、好きじゃねぇなら付き合わなくていいだろ。悩む意味がわかんねぇよ」
「はあ、分かってませんね獄寺さん。これは揺れる乙女心なんですよ」
「は。余計分かるかアホ」
「アホじゃないです。で、まあ、とにかく、付き合ってみないと始まる前から何も分からないだろとかなんとか、そうゆうことを言われまして、だからもうオッケーしてもいいかなぁなんてハルは思っていたりするんですよね」
「‥‥‥‥。んじゃあ、付き合えばいいんじゃねぇの?つーか、オレに言われても知らねぇよ」
「はひ、そうですね」
「‥まあ、決めるのはお前なんだからオレが付き合えばとかなんとか、言っても仕方ねぇことだしな」
「、はひ。ええ、確かに、そうですね」

ずきん、ずきん。ずきずくずきん、
それは、音もなく熱をもって、わたしの身体の真ん中を傷めつけながら、意識下へとゆっくりゆっくり沈んでいった。
だって、会話の終わりと一緒に逸らされた視線がわたしの心臓から熱をどんどん奪ってゆくから、急速に、思考を鈍らせてしまうから、ああ、どうして、なんで、どうして、どうして?
関係ない、仕方ない、知らない、どうでもいい、なんて。
何を言われても別に痛くも痒くもないはずなのに、痛くも痒くもなかったはずなのに、はずなのに、はず、なのに、どうしてこんなに胸が痛くて、砂嵐。
さっきまで鮮明だった画面はザァザァ何も映してはくれない。
ずくずくいたい。胸が痛い。痛いけど、居たい、わたしは、ここに居たい。
それから少し切なくて、言葉にしたら、しょんぼり、しゅん、ぽかん、がっかり、そこまで考えてみてはっと驚いたわたしの頭には、きっと期待していたからなんだか裏切られたみたいな心地を味わっているのではないかとゆう仮説、いや、事実?
では、わたしは一体何を期待していたのかということで。

「‥っは、ハル、本当にその人とお付き合いしちゃいますよ、いいんですか?」
「あ?知らねぇよ。んなもん勝手にすりゃいいだろーが」
「っ、ご、獄寺さんのアホ、不良、乙女の敵!」
「だっれがアホで不良で乙女の敵だこのアホ女!!」
「うっ、ば、バカ!!!」
「っ!いって‥!!クソッ‥バカはテメェだ!!!」
「はっ、はひっ!!?なっ、い、いたあ!!女の子に物を投げつけるなんて最低ですよ獄寺さん!!!」
「はあ!?人にペットボトル投げつけといて何ほざいてんだテメェ!!つーか煙草の箱なんざ大していたくねぇだろアホ!!」
「おっ、女の子に物を投げつけるって行為自体が最低なんですよ!!いたいいたくないは問題じゃなくて、」
「っだぁー!!うっせぇ!つかもう知るか!!なんでお前の恋愛相談に巻き込まれてオレが被害被らなきゃなんねぇんだ!!他のやつ巻き込めよ!!」
「‥っ、な、んで、」
「、あ?」
「‥‥うっ、うえ、っ、う」
「‥‥‥‥‥は?‥‥え、おまっ、ハル、な、泣いて、」
「‥っな、いてないで、す、っ」
「‥‥‥いや、ないてないって‥‥」
「う、な、ないっ、て、ない、ですっ、」
「‥‥‥‥」
「‥っ、ぅ」
「‥‥‥ハル」
「、」
「‥‥んだよ、そんな痛かったのかよ」
「、ちがっ」
「‥あー、つか、うぜぇ」
「っ、」
「‥‥どうすりゃいいっつーんだよ、アホ」
「す、みま、せ、」
「‥ったく、不細工な面しやがって」

面倒臭そうに言いながら、けれど彼は優しく服の袖を押しつけて涙を拭ってくれる。
だからなんだかたまらなくなって余計に涙が溢れてきた。
涙のフィルターがかかった瞳には、彼の困ったような顔が映っている。

「‥ご、くでら、さん、ごめ、っなさ、」
「‥‥そう思うんならさっさと泣き止めっつーの」
「ぐす、はひ、が、がんばりま、す」
「‥てゆうか、がんばって泣き止めるもんなのか?」
「う、‥が、がんばりま、」
「‥‥‥‥‥。あー‥‥やっぱ、もういーや。なんか、まあ、よくわかんねーけど」
「、は、ひ?」
「‥‥‥ぶっ。つーかお前、今の顔を告って来たとかゆうヤツに見せたらフラれるな、最高に間抜けな顔してたぞ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥っ、ムキーッ!!!!ごっ、ごくでらさんの、っ、アホー!!!」
「や、アホはお前だろ」
「ひっ、ひどすぎる‥ぐすっ、そ、それなんてアウトローですかバカタコオタンコナスビ!!」
「ああ!?なんだその聞いたことねぇ野菜は!!」
「っ、野菜名なんかじゃないですよ!この意地悪高圧鈍感大王!!」
「なっ‥!意味がわからんわどアホ!!」
「バカ!!」
「っ、だから‥‥‥なんで、そこでお前は泣くんだよ、」

あ、あ。
鼻水が出ているのも構わないで泣きながら、握った両手をだだっ子のようにぶんぶん上下に振っていたら獄寺さんの弱ったような声が降ってくる。
(いい気味だ、)
毎日毎日ハルばかりがやられっぱなしなのだから、たまにはそんな思いを味わえばいいと思う。
そんな意地の悪いことを考えながら、ハルはぐすぐすうるさく鼻を鳴らした。
戸惑ったような彼の袖は、再びおそるおそるハルの涙を拭いはじめる。
(ああ、だけど、もういい加減に認めよう、)
しかめっ面、苦い顔。
でも、この優しさにハルはずっと甘えてきた。
腹が立つのも泣きたくなるのも、結局そういうことだったのだ。
気にしてもらいたい、好かれたい、嫌われたくない、私だけを特別な女の子にして欲しい、貴方に触れられたい、触れたい、そっと、この指先でその頬に。
今なら、分かる。
(わたしは、その拙さに恋をした)
だから今よりもう少しだけ、あなたに近づいてゆきたかったのだ、























そ の 拙 さ に

恋 を し た 。





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