足の裏が地面をふみしめた、ふみにじった。
じゃりじゃりとうるさく喚いているのは地面だってゆうのに、血が出て痛がるのはあたしだけ。

「フラン、アンタ一体この靴どうしてくれんのよ」
「知りませんよ、大体それってミーがやったわけじゃないですし。勝手に転んで折れたんじゃないですか」
「ああもううるさいわね!なんでもいいからどうにかしなさいよ!これじゃあ骸ちゃんの様子も見に行けやしないじゃない、」
「なら、最初からそんなヒールの高い靴なんて履かなきゃよかったんじゃないですかー」
「うるっさいこの無能ガエル!」
「好きでカエルなわけじゃないんですけどー」
「ってゆうか、前から思ってたけど大概その話し方もムカつくのよ!」
「じゃあ、ミーにどうしろってゆうんですか」
「しゃべるな。で、今すぐ靴をどうにかしなさいよ」
「ムリですー」
「っだからしゃべるな!即答するな!ああ‥もうホントムカつく!!」
「あ、それミーも右に同じですー」
「っ‥!だ、か、ら、アンタはしゃべるなっつってんでしょ!!?」

足元に転がったままのヒールが折れた不細工な片靴を思いきりなげつけてやったけど、なんでもないふうによけるからやっぱりムカついた。

「なんでよけるのよ!!」
「だって痛そうじゃないですかー」
「死ね!!!」
「わあー‥みんなしてミーに死ね死ねと‥あ、皺みっけ」
「はあっ!!?」

頭の中がすっからかんみたいなぼんやり顔でフランはあたしの顔を指差す。
そしてその指は音もなくあたしの眉間に軽く触れて皮膚をぐいと持ち上げた。 

「あんまり怒ってると増えますよー」
「っ‥‥!!うるっ、さい!!!このバカエルがぁぁぁあ!!!!」
「おっと、あぶないあぶない」
「だからよけないでっつってんでしょ!!」
「ええ、なんですかそれ‥理不尽すぎますー」

特注の鞄を投げつけて、体勢を崩したところに上着のポケットにいつもひそませているナイフを慣れた動きで突き出した。
一度よけられても直ぐ様連続的に刃先を繰り出す。
しかしフランは無表情にそれを軽々とかわしていく。
暗殺部隊所属の相手にむだなことをしている自覚はあったけれど、あたしの憤りは増すばかりだ。
行き場がない。
じゃりじゃりと鳴るあたしの足元を時たまちらりと見るフランは、それを数回繰り返すとふいに盛大なため息を吐いて身をかがめた。

「血、出てますけどー」
「‥っはあ、はあ、だから何!?」
「何って、痛いんじゃないですかー?」
「痛いわよ!決まってんじゃない!だからどうにかしろって言ってんでしょ!!」
「はあ、どうにかですか‥‥仕方ないですね、分かりましたー」
「って、きゃあああ!?」

いきなり視界がひっくり返って、その瞬間にフランの顔が近くなる。
表情筋をぴくりとも動かさないその無愛想な顔は、あたしに瞳を向けるとやっぱりいつものムカつく声音で言った。

「大人しくしててくださいねー、暴れられると面倒なんで」
「ちょっ‥!あっ、あんたねぇ‥!!」

言われたそばから暴れてやろうとしたら、予想外にも強い力で動きを押さえられてしまった。
ナイフを持つ手も器用に封じられている。
無表情、動揺なんてしてやしない。
(だからますます腹立たしい、)

「あーあ、全く、そんなに早く会いたいんですかー?」
「んなの当たり前でしょ!?」
「へー、そうですかー、当たり前なんですかあ」
「‥なによ。文句あるわけ?」
「あーそうですねー、まあ、いろいろ。いい感じにムカついちゃいますよねー」

仕方なく、といった形でフランの両腕に支えられながら睨んでいたら再び何か言いたげに視線を戻されて困惑する。
それがちょっとばかし拗ねた子供みたいに見えるのはあたしの気のせいだったのかしら。
まあ、けれどそんなのどうでもいいことだ。
足は痛いし靴はダメになったけど、一先ずあたしの今の最優先事項は彼の眠る隠れ家へ向かうことなのである。

「‥ま、形はどうであれ今は妥協するしかないわね。てわけでさっさと骸ちゃんのとこ行くわよ」
「あのー‥ミーの言葉はスルーですか?」
「はあ?今アンタ何か言ったっけ?」
「言いましたよー、けっこう、ミー的には重要な感じのことをですねー」
「はいはい、まあそんなことはどうでもいいからちゃきちゃき足を動かしなさい」
「‥あー、もう、ホントやだなこの人でなしー」
「なんか言った?」
「いえいえ何もー」
「なら、黙って前に進みなさいよね」

未だナイフを片手に片眉をあげて言ってやる。
そしたら、小さな声でずるいなあとフランは呟いて少しだけ足を速めた。
僅かに苦いものを含んで彼が薄く笑う。
あたしは、横目でそれをちらりと盗み見てしまっていたのだけれど知らぬふりをしておいた。

「とりあえず、着いたら足の消毒しなきゃですねー」
「あら、珍しく気が回るじゃない」
「、たしかに。自分でもびっくりですー」

前を見つめたままぼそぼそと零す声は、それでもこの位置に居るあたしにはとてもよく聞こえた。
それは、ちょっとだけ、なんだかホントに驚いているみたいな声で。
(あ、また、さっきみたいな顔、)

「ねえ、あとどのくらいで着く?3分くらい?」
「‥それどんだけミーにがんばれって言ってんですかー」
「だから、死ぬ気で走れってことよ」
「はあ‥なんでミーはどうしたってこうアレな人にアレなんですかねー‥」
「何わけわかんないこと言ってんのよ」
「やー、別にこっちの話ですー」
「ほら、あと2分よ。急ぎなさいよね」
「おにーあくまー」
「あんたねぇ‥いい加減、殺すわよ!!?」
「わー、それは困りますー」

眉を吊り上げて吠えたあたしに、不思議とフランは楽しげに笑った。
(でも、ねえちょっとアンタ、)
(困るんならなんでそんなふうににやにや笑ってんのよ)
(意味、わかんない、)
ぼんやり心中で突っ込みながら、じんじんと足の裏が痛くって、奇妙な心地に陥っているのはあたしだけ。
それに、フランはそれきり黙り込む。
どうやらやっと目的地へ向かうことに集中したようだ。
視線をちらりとやっても、そのことに気付いてはいるのだろうが反応は返ってこない。
だからあたしもそうすることにしておいた。
今しがたのもやつきは脳内削除、目的達成前の邪魔な思考は、早急に排除するに限る。



















げ ぼ く ご っ こ




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