世界に必要とされているのだと信じていたかった。
世界に祝福されて生まれて来たのだと信じていたかった。

「でも、世界はあたし一人が死んだところで痛くも痒くもありゃしないの」

誰もが同じ。何人死のうが何十人死のうが何百何千何万人、どれくらいも死んだって世界は巡る地球は回る。
はびこる善悪、生も死も、いくらか歯車の噛み合いをスムーズにするかしないか程度の価値しかないのだ、きっと。
だけどそんなのだって結局は、必要とされてもいないのにのうのうと生きている私たちの観点からでしかないからそう、詰まるところ私たちは世界の排泄物。そうとでも言った方がお似合いでしょう、

「‥飲み過ぎよ、あんたもうその辺でやめときなさい」
「うるさいわね‥放っておいてよ」
「あのねぇ、放っておいたとして酔ったあんたの面倒見なきゃいけないのはあたしなの。いい加減にしてちょうだい」
「‥はっ、オカマのくせに」
「今そんなのは関係ないでしょうよこの強欲女」
「‥‥‥」
「‥何よ、しおらしく黙り込むなんてらしくない」
「‥‥ねえルッス、あたしらしいって何?わかんない、」
「わかんないって‥そりゃ一言えば十返すくらい毒吐きで可愛くないってとこじゃない?」
「‥そっか。じゃあ確かにらしくないわね。なんだかそうゆう気分じゃなくて」
「‥ああもう、調子狂うわね。ない頭で無駄なこと考えるのはよしなさい」
「そうね。下らないこと考えてるのは分かってるんだけど、なんだか急に自分の存在意義がわかんなくなっちゃって。‥まあ、そんなもの初めから無いんだろうけど、」

そう笑い、空になったグラスに液体を注ぐ。
濃い酒の匂いはまだ口を侵してもいないのに鼻の奥で密やかに熱を促して、なんだか痛かった。
あたしは、夜が嫌い。
追い掛けてくる月が嫌い。
逃げ切れない不条理。
煽る酒はただ淡々と喉を焼く。

「意義なんざ無くて当たり前でしょうよ。逆にそんなもん持って生まれてきてたら死にたくなるわ。吐き気がする」
「あはは、吐き気ね。確かにするわ。今にも吐きそう」
「あんたのは飲み過ぎて吐きそうなだけでしょうよ」
「ふふ、そうね。ちょっと今日は飲み過ぎたかもしんない」
「‥馬鹿ね。頭悪いくせに考え事なんかするからよ」
「はいはい、馬鹿、に、頭悪い。いつも言われてるけど散々ね」
「事実でしょ」
「うふふ、そうね」

逃げ切れない不条理。
追い掛けてくる月は嫌い。
夜も嫌い。
(それから、一人はもっと嫌い、)

「とゆうか存在意義なんてね、考えるだけ無駄よ。適当に理由作って意味を与えときゃいいの。‥ほら、あたしが居なきゃ酔っぱらったあんたの面倒見る人が居ないからとか、そうゆうのみたいにね」
「‥なあに、それがルッスの存在意義?」
「そうよ。そんであんたはあたしに面倒掛けたお詫びにあたしの明日の買い物にでも付き合わなきゃいけないの。ね、こんなの簡単でしょ?」
「‥は。ホント、笑えるくらい簡単ね」
「なら分かったらお酒はもうストップよ。薬飲んでさっさと寝なさい」
「ははっ、あんた、なんだかあたしのお母さんみたいね」
「あーらやだ、こんな手のかかる子鬱陶しくて適わないわ。‥まあ、悔しいけど、その分愛着も沸いちゃうんだけどね、」


(あ あ、)
逃げ切れない、不条理。
けれど、世界に必要とされているのだと信じていたかった。
世界に祝福されて生まれて来たのだと、あたしは信じていたかった。

(だけど、けれど、)

髪に触れるのは男の指。
頬には親愛の口付けを。
それだけなのに、不思議と虚無感はふっと打ち消されて、

(そうだ)
(あたしが必要としていたのは世界ではなく、きっと、ずっとこの手だった)

酒に浮かされた頭は宙を飛び、ふわふわひどく気持ちいい。
明日は買い物。
ねえ、なんだか泣きそう。
こじつけた存在意義を愛しいと思うよ。
















ノ ン ノ ン

ナ ン セ ン ス






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