息を、殺した。
彼女のくちびるは予想外にひどくあつくて、
けれどそれ以上に自分のくちびるがあつい。
気づいたのは、触れ合った瞬間ではなくはなれていく数秒間、
緊張にふるえたまぶたをそっと持ち上げて彼女の瞳と目が合った時だった、けれど。
(わ、あ、)
(ちか、い)

思わず、動きがとまってしまった。
マスカラを乗せたながい睫毛が、
少しだけ肌をくすぐりながらこちらを見上げている。
部屋の照明を反射させてきらめくその目がまるで宝石のようにきれいだ、と思ったけれど、しかしそれはすぐにまちがいだと気づく。
そんなものにたとえるのもおこがましいほど、
彼女の瞳はどこか暗く、けれど鮮やかな色でもってこの世界を映し出していて、
ああ。
(一体、どうしたら、?)
額の少しあいた距離ばかりが、途端にもどかしくてたまらなくなった。

「‥あ、」
(目元が、あかい、)

「‥ん、なに」
(さわりたい、な)

「‥も、一回」
(ふるえる、)

「‥‥‥‥ん、」
(あ、。かし、ぐ、)

からめた視線を外して伏したまぶたが、淡く視覚を刺激する。
くちびるだけではなく、
じりじりと、少しずつ焼かれているような感覚の喉元は、なんだか今にもとけだしてしまいそうな気がした。
彼女の頬がほんのりと赤い。
(、きれい、だ、)
指の背でそれをなぞると、触れた場所すべてから彼女の存在を思い知らされて、からだのどこかがじんとしびれた。
そうして、ゆっくりとまたくちびるを合わせてそっと息を止める。
やり方を知らない子供ではなかったけれど、
儀式めいたそれは少しはなれては近づいて、
またはなれては近づくのを何度もくりかえしながら呼吸の仕方を忘れさせた。
味のしないキス、
けれどそれはひたすらに彼女の熱だった。
くちびるから頬に、まぶたに、額に、鼻、顎、こめかみ、それからまたくちびるに。
確かめるように口づけては彼女を見つめて、
しんと、ひびく鼓動。
くるしくなって、合間に少し酸素を取り込むと彼女のにおいがした。

「‥‥‥ねえ、」

「ん」

「‥いいんですか」

「なに、」

「‥‥‥‥‥いや」

「うん」

「‥‥すき、で、」


ひそり、
吐息のようなつたなさでつぶやくと、
ふわり、数度まばたいた彼女は小さく笑った。
そして何も口にすることなく目をとじる。
色づいたくちびるにはゆるやかな下弦の月が浮かんでいて、
かわされた、
そう、渋い顔をしそうになるのに、
けれど蠱惑的なしぐさにはめまいがする。
これが、男のさがとゆう?
それか、もしくは惚れた弱みとでも?
苦虫を噛み潰した気分で、今度は彼女のくちびるに噛みついてみた。
這わす舌に、溶け出す体温。
(この、口づけだけでいっそ彼女のすべてをうばってしまえたら、)
息の仕方も止め方も、
わからなく、ないまぜな二人分の口先の熱はさまよいながら着地点をさがしている。

「‥もう、知りませんよ、」

余裕をなくして思わずこぼしていた。
息があがって、何のせいかも分からぬまま。
それを知ってか知らずか、彼女は沈黙をつらぬいたまま目を細めて手を伸ばした、
この、頬に。
誘われて、口づける。
味はしない。
けれど、それはやはり、ひたすらに彼女の熱だった。
うすらと開かれた目はどこか赤い。
しかし、はた、と。
そこではじめて、
彼女の角膜は泣きそうに濡れているのではないか、と。
(、いや)
(でもそれは、願望もはいってる、よなあ、)
短息して笑うと、彼女が少しばかり怪訝そうな顔をした。
なんだか、愉快な気分になる。
そうだ、
だってこちらばかりが振り回されるなんて不公平。

「‥なに、にやにやしてんのよ」

「‥‥あ。やっとしゃべりましたねー、」

したり顔で笑うと、彼女は顔をしかめた。
だから、まあ、まあ、と誤魔化して、そんな彼女に再びキスをする。
無味、
やはり、味はしない。
(けれど、熱い、)
重なる睫毛はひとつの影になる。
(あ、あ、)
(この、くちびるのすべて、)
どうしようもないほどの熱。
それは、二人分。
ただ、
静かに混ざり合うだけの温度だった、



























































く ち び る



す べ て



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