(‥ああ、そろそろコーヒーを、)

そう、思いかけた矢先に理想的な匂いが鼻先をくすぐって、ジョーリィは誘われるように読み耽っていた資料からゆっくりと顔を持ち上げた。そうして視界に映り込んできたのは、呆れたような顔のフェリチータと、彼女が手に持つトレイに乗った二人分の白いカップである。記憶とこの薫りから推測するに、カップの中身は言うまでもなくちょうど今自分が求めていたものに違いなどないのは明白で、なんとも絶妙なタイミングだな、と、自分にしては珍しく感心してしまいそうになる。それと言うのも、昨日、一昨日、その前の日と、ジョーリィの意識がふっと浮上するタイミングを狙いすましていたかのように彼女がこの部屋へと訪れていたからなのだが――いよいよ己の行動サイクルを把握されつつあるのだろうかと、探るようにジョーリィはフェリチータをじっと見つめた。しかし、それを気にも留めず、こちらの方までやって来たフェリチータは慣れた手つきでコトリとジョーリィの目の前へカップ置いて、淡々と口を開く。

「ジョーリィ。読書はいいけど、ちゃんと休憩しなきゃ」

言って、すすめてもいないのに革のソファに腰を下ろし、フェリチータは自分の分であろうカップにフウ、と息を吹きかける。

「‥ちょうどそう思ったところへ、君がやって来たんだが?」

まるで子供を諭すような彼女の言いぶりに、何となく反論じみた気分になって言い返してしまったが――口にすると妙に言い訳めいているように聞こえてしまい、ジョーリィは己の気分が一気に下降するのを感じた。まったく、叱られた子供でもあるまいし。そう思う裏で、何故彼女に注意をされねばならないのか納得できないという考えに捉われる。
なんだか、非常に面白くない。

「‥ねえ、ジョーリィ。面白くないなら、言われる前に休憩してね?」
「‥‥‥‥‥‥。お嬢様、随分とアルカナ能力に磨きがかかってきたようで何よりだよ」
「読まなくっても、顔に書いてる」
「‥私が、面白くない顔をしていたと?」
「うん。だってちょっとだけ、眉間に皺が出来てたから」

そう事も無げに言ってのけるフェリチータは、こちらを見もしないで返すと素知らぬ顔でカッフェを静かに味わっている。何を考えているか分からない、などと館中から不気味がられている人間を相手になんとも危機感のないことだ。そう思うがしかしすぐさま、血の繋がる彼女の父親の顔が頭を過れば、妙にそれらしいとも思えるのがどうにもこうにも憎らしい。
考えながら、ため息混じりにフェリチータの用意したカッフェへジョーリィはそろりと手を伸ばす。
するとそれに気づいたらしい彼女は顔を上げ、ジョーリィの心を見透かしたのか、どこか満足げに目を細めてにっこりと微笑んで見せるのだった。

















野性の女の子

title:にやり

20120920


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