「みったん先輩ってさ」
「うん」
「顔、怖いよね」
「‥‥よく言われる」
「でもそれが可愛いよね」
「‥‥‥ごめん小夜ちゃん、おれ、言ってる意味が分かんない‥」

困ったような顔をして、ひくりと口の端を動かした先輩はどうにもやっぱり目付きが悪い。でも真っ赤っか。可愛いって言われて、多分恥ずかしいんだろうな。みんなが「三田先輩って怖そうに見えるけどなんかちょっと可愛いよね」なんて言ったりするのは、そういうところがあるからなんだと思う。かく言うわたしも、例に漏れずそのみんなという人たちの一人なわけで、背が高いし目付きは悪いし一見可愛いなんて言葉よりは格好いいという言葉が似合いそうな先輩が可愛く思えてしまう部類の人間だ。でも、こういうどこか困惑した顔で赤くなる先輩を見られるのは、先輩を可愛いと思うみんなの中でも、絶対的に私だけの特権だと思っている。

「ふふ、先輩は林檎ちゃんだね」
「‥怒るよ小夜ちゃん」
「別にいーよ。怒っても怖くないもん」
「っ、うるせー!」
「あ。先輩が怒った」
「な、んか、もっと怖がってよ!」
「ええ?無理だよー」

けらけら笑って、私は先輩をじっと見つめる。怒っても怒らなくても、先輩の顔は赤い。本人はそれを気にしているようだけど、心底可愛いのだからそれはそれで別にいいと思うのだ。私は。‥とは言え。まあ、実際のところ、私以外の人たちが赤い顔の先輩を簡単に見られるというのは、少しばかり面白くなかったりもするのだけれど。

「あ、みったん先輩」
「‥‥‥‥」
「‥拗ねちゃった?」
「‥‥別に、拗ねてないし」

眉間に皺を寄せて、ふいっとあっちの方なんかむいたりしちゃったりして。でもきっと、耳まで赤いのは気づいてないんだろうね。ホント、どうしてこの人はこんなにも可愛いんだろう。拗ねても長続きなんかしないくせに、小さい子みたいに一喜一憂して、私の言葉にびっくりするほど素直に反応してくれる。だけど他の子たちはこんな先輩を知らないし、ふざけて怒った時にちょっと涙目になるのだって知らないはずなのだ。だから、少しくらいなら先輩を可愛いと思っても許容できるかな、なんて思う。まあ、本当にほんのちょっぴりだけ、ほんの少しくらいなんだけどね。

「先輩、こっち向いて」
「‥‥向きません」
「みったん先輩」
「向かないって、」
「好き」
「絶対に向かな‥‥って、ええっ!?」
「ふっ、あははは!こっち向いたー」

驚いた顔の先輩の頬をぷすりと指で突いて、私はふわふわと幸せな気分に包まれる。そうして、やっぱり先輩のこういうところが好きだなあって気持ちの再確認。今だって、うぐぐだとかよく分からない声で呻いて相変わらず怖い顔をしているけれど、先輩がとても優しいのだと知っている私には、そんなの怖くもなんともないしただただ可愛いだけなのだ。誰にも見せたくないし、渡したくない。だからいつも思うし、思っている。
(叶うならばずっとずっと、私の前でだけ一等可愛い貴方でいてね、)
そんな魔法をかけるように、キスを一つ。だってそうしたら、石みたいに固まる先輩が見られるから。なんて、考えてしまう私は先輩にだけ、少しばかり意地悪になってしまうみたい。小さく笑って先輩の頬をまた突くと、脱力した先輩はどこか嗜めるように、けれど優しく私をそっと腕の中へ抱き寄せて、赤い顔のまま「おれで遊ぶのは止めようよ」とふにゃふにゃ力なく呟いた。













いつまでも気づかないままの貴方でいてね






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