「好き、」
「‥は?」
「って言われたんだけど、ビックリしすぎてそのまま逃げて来ちゃったのよね。どうしたらいいと思う?」
「‥‥‥‥‥知らねーよ」
「嫌われたかしら」
「‥うっせぇな、そんなもん知るか」

真面目ぶった顔で眉間に皺を寄せる私に、シャルルカンは不機嫌な顔でそっぽを向く。どうせ大方、今私がわざとらしい場所で区切った言葉に期待でもしていたんでしょう。だけどうふふ、お馬鹿さんね。驚いた顔が目に見えてむっとしたそれに変わるのがおかしくて笑いを噛み殺していると、シャルルカンは頬杖を付きながら口を開いた。

「逃げて来てなくたって、どっちにしろ上手く行ってねぇよ」
「それ、どういう意味?」
「あァ?魔法バカのお前に付き合ってられる奴なんか、そうそう居ないってことだ」

苛々して、片眉まで上げて、まるでご立腹だと言わんばかり。分かりやすいったらないわね、内心で呟きながら笑いをどうにか堪えていると、なに笑ってんだよ、目ざとく気づいたシャルルカンに怒ったように言われてしまって、私は我慢できずにとうとう噴き出してしまった。ああ、そしたらやっぱり、もっと怒った顔。だけど、それを見たいがために私がこんなことを繰り返しているのだと言ったなら、アンタはどんな顔をするかしら。ゆるゆる、頭の隅で考えながら、シャルルカンの眉間の皺をじっと見つめる。そうしていると、ぴくり、分かっていたけれどその数がまた一つ増えて、益々シャルルカンの人相が悪くなってしまった。

「ちょっと‥そんな顔じゃあモテないわよ?」
「っ、一体誰のせいだ、誰の!」
「ふ、は。さあ、誰のせいだか分かんないわね」
「とぼけんな、こうなってんのは全部お前のせいだろーが!!!」

バンッ!!――勢いよく机を叩かれて、叫ばれて。ねえ、だけどそれってどういう意味か分かってる?
興味本位で聞き返しそうになるのをぐっと喉元で抑えた私に、シャルルカンは身を乗り出して、それでも席を離れようとはしない。まあまあ、なんてコワイお顔なのかしら。だけどシャルルカンはきっと他の女の子にはそんな顔を向けないだろうし、キツい言葉を口にすることもないのだろう。

「ねえ、シャル」
「‥‥‥‥‥」
「‥うーん、」
「‥‥‥んだよ」
「あのね」
「‥‥おう」
「好き」
「、」
「‥って、言ったらどうする?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥は?」

しかめっ面。それから、困惑気味に目を何度も瞬かせて、シャルルカンは少しずつ表情を惚けたものに変えていく。思考が停止したのか、言葉の意味が理解出来ないのか、石のように固まって動かない。私は、左のてのひらで右の手首を握っては離し、また握る動作を繰り返す。もし、こんな状態のシャルルカンを指で突いたり、顔を寄せてキスを迫ったりしてみたならば、一体どんな反応が返ってくるのだろう。考えだすと非常に好奇心を擽られて、誘惑に屈してしまいそうになるけれど、今は賢く我慢する。もっともっと、忍ばせた毒がゆっくりと身体中を回るように、私のことで頭が一杯になってしまえばいい。呪文をかけるようにうっとり目を細めて瞬くと、はっと我に返ったシャルルカンの顔はみるみる赤くなり、お前、冗談も大概にしろよな、ひどく疲れた声音で吐き捨てながら、笑う私から隠すようにして大きな手の平でその顔を覆った。














待ってられなくてごめんね


title:にやり



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