依存するような言葉
「トシにはわからないよ。」
シーズンオフで時間に少し余裕のあるトシと久しぶりに食事をする。高校の時は専ら甲子園に熱をしていた私と甲子園を制覇しようとしたトシは机を囲み毎日お昼を食べていた。あの頃よりも食事の内容は大分豪華になった。といっても、プロ野球選手持ちで食べさせてもらっているのだけれど。
久しぶりに会って、寂しさよりも大学であった事をなすりつける位に乱暴に話した。サークルや講座での理不尽な事、嫌な事、粗方話しきった頃にトシはそれを軽く笑い飛ばした。今に至る。
「花子はなんか、結果出ないよね。」
「馬鹿にしてんの???」
「違う違う。花子が文化祭で頑張って企画出したのが、途中で熱出して仲良くもない人に奪われて賞賛されていたのも見てたし。全部やろうとして、結局全部出来なくなってたり。」
「……。」
「花子が人がやりたがらない様な事も、日の目を見ない事を嫌な顔せずにする所は僕は評価してるよ?」
なんか恥ずかしいな。
「適当でいいよ。」
「違うよ、要領が悪いだけ。タイミングも…。」
「うん。」
「こんなんじゃ、働く時に許されないよね…。」
「頑張りな、適当にさ。」
「訳分からないよ…もう。」
それから、うやむやになったその話題はシーズン中に戦った元メンバーとの再開の話しにすり替わって食事の時間は過ぎていった。
少し 陽が傾きはじめる。少し広い歩道を肩がぶつかる程の距離で歩く。
「夕食、買っていく?」
「じゃあスーパー寄ろうか。」
「トシのキッチン使いやすいから、料理が凄く楽しいんだよね。」
「食べがいがあるよ。」
「何それー。あはは。」
「あ、花子。」
いきなり止まったトシ。私は少し先を歩いてしまったが、それもトシが握った手で止まる。
「どうしたの?」
陽が眩しくて顔がよく見えない。目を細めながら聞く。
「仕事うまく行かなくてもさ」
「またその話しなの?」
「うん」
「仕事はどうにかなるよ」
「もしどうにかならなかったら?」
「え?」
「あ…いや違うな。」
「トシ。私の事、頭足りない奴って思ってる?」
「違うよ。」
「じゃあなんでそんな事言うの。」
「いや…だから、」
「馬鹿にしてんじゃん!」「違う!…あっ」握られた手を振りほどく。
しかし束の間、次はさっきよりも強い力で握られる。そして開いていた距離も近づいて、見えなかったトシの顔も明らかになる。
顔が赤い。だけど真っ直ぐ私を見つめて離れない。
「ずっと花子を支えていくから。」
それから少しの沈黙。
「結婚してください。」
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