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夏祭り


日本の夏の風物詩である夏祭りは、毎年沢山の人で賑わいさせる。此処、並盛で催させる夏祭りも多くの出店が立ち並び、多くの人が楽し気に行き交っていた。舞もその一人で夏祭りを満喫している、筈であった。


「なんで、あたしがバナナ売らなきゃいけないの!?」
「あの野球馬鹿が公民館の壁、壊しやがったからだ」
「今日楽しみで、折角浴衣着て来たのに!」


楽しめないじゃない、と舞はガルル…と獄寺に噛みつきそうな勢いで睨みつけた。本当であれば京子とハルに誘われていたから三人で祭りを回る予定だったのに、獄寺に強制召喚されてしまったのだ。公民館で壊した壁の修理費を稼ぐ為に。しかも、そのことに関しては舞は無関係であるから尚のこと巻き込まれたのが腹立たしいのだ。


「ごめんな舞。手伝わせちまって」
「あ、武君は別に気にしないで。怒ってるのは獄寺にだから」
「んだとテメェ!山本が壊したって言ってんだろ!」
「じゃあ、とっとと売ろっか」
「無視すんな!」
「アハハ。相変わらず仲が良いのな」
「「良くない/ねぇ」」


そんなこんなで三人はチョコバナナを売り始めた。その間も獄寺と舞の口論は何回か飛び交った。何故今日はこんなにもぶつかり合うのかと言うと単にお互い恥ずかしかったのだ。意識すればするだけ何故か口が先に出てしまい、顔を見合わせては二人が頬を赤く染め口喧嘩へと発展する。これの繰り返しであった。しかし、そんな中でも舞は真面目にチョコバナナも売っていたのだ。


「チョコバナナ下さ〜い」
「はーい。400円になります。落とさずに気を付け下さいね」
「は、はい!」


舞からチョコバナナを受け取った男は、緊張した面持ちで顔を赤らめた。舞の周りの男達はあまり考えたことがなかったが、彼女は並盛中のマドンナ的存在なのだ。あの可愛らしい顔つきで微笑まれたら、男は簡単に目を奪われてしまうだろう。だがそんな男達とは反対に獄寺の顔は徐々に険しくなっていった。


「一本下さい」
「あいよ!うちは頼まれてからフランス製のチョコを塗るからね!」
「ベルギー製つってんだろ!」
「お待たせしました!どうぞ……って、」
「獄寺君と山本と舞ちゃんー!!!」


舞達は皆で目を丸くして驚いた。店員側も客側もどちらもよく見知った人物であったからだ。


「じゅっ、10代目〜!」
「よぉツナ!」
「ツナ君!」


舞達はツナにそれぞれ挨拶を告げるとツナは「何してんの!?」と驚きながら声を荒げた。そしてこの店の趣旨を聞くと、彼も店の手伝いをすることになった。リボーンの策略で壊した公民館の壁の請求書がツナあてになっていて、やらざるおえない状況になったのだ。こうしてツナも加わり、彼らのバナナ500本の道がスタートした。


「あれは!」
「関わらない方がいいわ」
「?」


何やら周りの屋台を経営している人達が騒めき出したのでツナは首を傾げた。聞けば、「ショバ代を用意しとけ」という。どうやら、ここ一帯を取り締まっている者が来たらしい。その者に金を払うのが並盛の伝統でツナ達も払わなくてはならなく、彼らは金を受け取りに来る人物を待った。そして暫くすると客ではない雰囲気を纏う者が足を踏み入れ、ツナは「来た!」と声を上げた。


「5万」
「ヒバリさんー!!?」


目の前に現れた雲雀に仰天し思わず叫んでしまう。獄寺も眉間に皺を寄せ「てめー何しに来やがった!」と目くじらを立てた。なんと、ここ一帯を取り締まるのは並中の風紀委員だったのだ。集めた金は活動費にするようで、それを聞いたツナ達は益々驚愕の表情を浮かべた。


「払えない人なら、屋台を潰す」


妖しく口元を上げる雲雀はなんとも物騒なことを言い放った。しかしそれは虚言で無いのだ。実際に隣の屋台ではショバ代を支払うのを躊躇ったために、風紀委員が遠慮なしに潰していた。それを見てしまえば払わないという選択肢は無い。ツナはキチンとと5万を雲雀に支払った。


「ねー。チョコスプレーってこの箱?」


すると、今まで姿を現さなかった彼女が箱を持ちながらやって来た。どうやら屋台裏で追加の食材を探していたらしい。当然、彼女は雲雀が来ていたことなど知らなかったので彼を双眸に映すと「え?」と小さな驚きの声を漏らした。


「雲雀先輩?先輩もバナナ買いに来たんですか?」
「違うよ。僕は集金に来たんだ。風紀委員の仕事でね」
「そうだったんですか。じゃあこれを先輩にあげます」


私の奢りですよ、と舞は笑顔でチョコバナナを差し出す。しかし雲雀は何故…?と言った風に目に丸みを帯びさせ彼女に視線を這わせた。


「先輩はいつも並盛の風紀を守ってくれるから感謝の気持ちです」


そう言われると雲雀はソッと舞からチョコバナナを受け取った。そして何とも言えない気持ちになった。並盛の風紀を守ることで感謝されたのは初めてのことだったからだ。自分は風紀を守ることで他人から恐れられていることを重々承知しており自分に向けられるのは感謝とは程遠かった。だからこそ、初めての感謝の言葉になんだか胸がじんわりと温かくなっていくようだった。雲雀は笑った。先程の妖しい笑みではなく柔らかな笑みで。


「有難く貰っとくよ。じゃあ、僕は仕事が残ってるから」
「はい。頑張って下さい」


そして雲雀は颯爽とこの場を去って行った。小さくなっていく彼の背中を見て、ほぼ空気と化していた三人はヒソヒソと話し合った。


「やっぱ舞ってすげーのな」
「うん。雲雀さんのあんな笑顔初めて見たよ」
「そうっスね。いつもは仏頂面してますし」


そう。雲雀があんな柔らかい笑みを見せるなんてツナ達には衝撃的なことだった。獄寺の言う通り、いつもの彼はほぼ無表情を貫いており、時折見せる笑顔も闘いの時の好戦的な笑みしか見たことがなかった。雲雀の貴重な顔を見た三人は呆然としたまま固まっていたが、舞に声を掛けられ本来の目的を思い出しチョコバナナを売るのであった。



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