熱は体中を巡って
「あーくそ。頭がガンガンしやがる」
夏も真っ只中のある日。獄寺は珍しくも夏風邪というものを引いて部屋で苦しんでいた。暑いような寒いような、矛盾する体温が気持ち悪い。何もする気が起きないのでベットから出られず、朦朧とする意識で天井を見上げた。
「(風邪は嫌いだ)」
幼い頃、自分の家を飛び出した獄寺は風邪を引いても看病などしてくれる人もいなく、今と同じく一人で寝ているくらいしかできなかった。風邪を引くと気が滅入るのはどうしてだろう。何故か、自分は孤独だと突きつけられ、それが異常に辛く悲しかった。
「……くそ。早く治り、やがれ」
この年になっても、幼い時と同じ風に思うなんて精神力はまるで進化してないではないか。全ては風邪の所為だ。治れば、こんな気持ちも払拭できるに決まっている。獄寺は視界が揺れるのを感じると、そのまま重力に従って緩慢に瞳を閉じるのであった。
▽ ▲ ▽
「……う」
薄目を開けて見える景色はいつもと変わらない。何の変哲も無い天井だ。一体どのくらい寝ていたのであろうか。ゆっくりと起き上がって、ガシガシと頭を掻き毟る。そこで冷たいものが手に触れた。
「…ん?何だこれ」
それは冷えピタ。でもおかしい。自分は貼った記憶など無いし、そもそも家にこんなものは無い。一体いつ貼ったのだろうか。頭の中でグルグルと考えるが答えは一向に出ない。すると、
「あ。起きたのね」
制服にエプロンを身につけ、手にはお粥を持つ舞の姿がいた。
「!な、なんで…テメェが此処に!?」
「なにって…看病しに来たの。後、家の鍵くらいちゃんと掛けといた方がいいよ」
何で此処にいるのかわからない獄寺に舞はケロリと“看病”と答え、持っていたおぼんを彼のベットの傍の床にコトンと置いた。
「俺が風邪引いてたって、なんでわかったんだよ」
獄寺は学校にすら連絡をしていない。けど、学校をずる休みする時も連絡なんてものをしないから、風邪かどうかなんてわからない筈なのに。どうして彼女はわかったのだろう。
「うーんと、勘かな」
「はっ?」
舞はシュルリとエプロンを脱ぎ、床に腰を下ろして獄寺と向かい合った。
「まぁツナ君達もサボりかなって言ってたんだけどね。けど、最近の獄寺は10代目の傍にいる為に遅刻はあったけどサボることはなかった。それなのに学校に来なかったとすると……」
学校に来られないくらいの理由があった。それも自分の意思とは関係ない理由で。そうなると動けないくらいの辛い風邪を引いてると思った。違う?まるで自分の推理を披露するような言い方で舞は喋った。獄寺は目から鱗だったが、全てを言い当てられて、なんだか気に触ったのかフイとそっぽを向いた。
「ケ。全然勘じゃねーだろ」
「うん。そーだね。でも、そのくらい獄寺のことわかっちゃってるってことでしょ」
「はぁッ!?」
「ふふッ。怒るのは後にして今はコレ食べて。先ずは元気にならなくっちゃ」
はい、と差し出すお粥を獄寺は不服そうにしながらも受け取った。だが湯気が立つお粥は美味しそうで、空腹の腹には食欲がそそられるものであった。
▽ ▲ ▽
「ごっそさん」
受け取った皿には、お粥は全て綺麗に食べられ舞は満足気に笑みを零した。薬も飲ませ、冷えピタも新しいものに変えたのだから病人は後、寝るだけだ。
「じゃあ体力を回復するためには寝るのが一番!早く寝て下さいッ」
「へーへー」
獄寺は上半身を倒し、ボフンとベットに横になった。朝に比べると体も随分楽になり、熱も下がってきた。もう寝なくてもいいのでは、と獄寺が思ったが舞が治りかけが油断大敵というので大人しくそれに従うことにしたのだ。
「早く元気になってね」
「…なんでこんなことしてくれんだよ」
「獄寺はそればっかだね〜」
それは獄寺の境遇的に仕方ないだろう。彼の周りにはこんなに自分に尽くしてくれる人なんていなかった。いや、それが当たり前だったのだ。だから、舞が、好意を抱く者が、自分に優しくてくれるのは違和感を感じるとと同時になんだか胸の辺りがくすぐったかった。
「強いて言うなら……獄寺に感謝してるからかなぁ」
「感謝?」
「私、自分のこと話したら人が離れちゃうって思ってた。捨てられるのは私が不備のある人間だから。でも獄寺は離れていかないで今、私の目の前にいる」
舞は獄寺のいつもより温かな手を両手で包み込み、自身の額に当てた。
「それが何より嬉しくて、感謝してるの」
一つ一つ紡がれる言葉は重みがあって、本気の感謝が込められていて獄寺の心の奥底からまで響くようなものだった。自分は誰からも必要とされていないと思っていた。でも自惚れても良いのだろうか。彼女にとって自分はそんな存在になれたと。そう考えると、下がった熱がまたぶり返したように体全身が熱を帯びた。
「そんな獄寺にだから私は貴方の力になりたいと思った。それだけじゃ理由不足…?」
「……」
「…って、獄寺寝てるじゃん」
舞は握っていた手を丁寧に布団の中へ仕舞うと食器を持って立ち上がった。おやすみなさい。彼女はそう言うと獄寺の傍から離れた。すると獄寺はゴロンと寝返りを打ち壁の方へと視界を移した。彼は寝たふりをしていたのだ。
「(あんな恥ずいこと言われ慣れてねーんだよ)」
そう心の中で呟いた顔は熱を帯びていて当分は冷めそうになかった。
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「あーくそ。頭がガンガンしやがる」
夏も真っ只中のある日。獄寺は珍しくも夏風邪というものを引いて部屋で苦しんでいた。暑いような寒いような、矛盾する体温が気持ち悪い。何もする気が起きないのでベットから出られず、朦朧とする意識で天井を見上げた。
「(風邪は嫌いだ)」
幼い頃、自分の家を飛び出した獄寺は風邪を引いても看病などしてくれる人もいなく、今と同じく一人で寝ているくらいしかできなかった。風邪を引くと気が滅入るのはどうしてだろう。何故か、自分は孤独だと突きつけられ、それが異常に辛く悲しかった。
「……くそ。早く治り、やがれ」
この年になっても、幼い時と同じ風に思うなんて精神力はまるで進化してないではないか。全ては風邪の所為だ。治れば、こんな気持ちも払拭できるに決まっている。獄寺は視界が揺れるのを感じると、そのまま重力に従って緩慢に瞳を閉じるのであった。
「……う」
薄目を開けて見える景色はいつもと変わらない。何の変哲も無い天井だ。一体どのくらい寝ていたのであろうか。ゆっくりと起き上がって、ガシガシと頭を掻き毟る。そこで冷たいものが手に触れた。
「…ん?何だこれ」
それは冷えピタ。でもおかしい。自分は貼った記憶など無いし、そもそも家にこんなものは無い。一体いつ貼ったのだろうか。頭の中でグルグルと考えるが答えは一向に出ない。すると、
「あ。起きたのね」
制服にエプロンを身につけ、手にはお粥を持つ舞の姿がいた。
「!な、なんで…テメェが此処に!?」
「なにって…看病しに来たの。後、家の鍵くらいちゃんと掛けといた方がいいよ」
何で此処にいるのかわからない獄寺に舞はケロリと“看病”と答え、持っていたおぼんを彼のベットの傍の床にコトンと置いた。
「俺が風邪引いてたって、なんでわかったんだよ」
獄寺は学校にすら連絡をしていない。けど、学校をずる休みする時も連絡なんてものをしないから、風邪かどうかなんてわからない筈なのに。どうして彼女はわかったのだろう。
「うーんと、勘かな」
「はっ?」
舞はシュルリとエプロンを脱ぎ、床に腰を下ろして獄寺と向かい合った。
「まぁツナ君達もサボりかなって言ってたんだけどね。けど、最近の獄寺は10代目の傍にいる為に遅刻はあったけどサボることはなかった。それなのに学校に来なかったとすると……」
学校に来られないくらいの理由があった。それも自分の意思とは関係ない理由で。そうなると動けないくらいの辛い風邪を引いてると思った。違う?まるで自分の推理を披露するような言い方で舞は喋った。獄寺は目から鱗だったが、全てを言い当てられて、なんだか気に触ったのかフイとそっぽを向いた。
「ケ。全然勘じゃねーだろ」
「うん。そーだね。でも、そのくらい獄寺のことわかっちゃってるってことでしょ」
「はぁッ!?」
「ふふッ。怒るのは後にして今はコレ食べて。先ずは元気にならなくっちゃ」
はい、と差し出すお粥を獄寺は不服そうにしながらも受け取った。だが湯気が立つお粥は美味しそうで、空腹の腹には食欲がそそられるものであった。
「ごっそさん」
受け取った皿には、お粥は全て綺麗に食べられ舞は満足気に笑みを零した。薬も飲ませ、冷えピタも新しいものに変えたのだから病人は後、寝るだけだ。
「じゃあ体力を回復するためには寝るのが一番!早く寝て下さいッ」
「へーへー」
獄寺は上半身を倒し、ボフンとベットに横になった。朝に比べると体も随分楽になり、熱も下がってきた。もう寝なくてもいいのでは、と獄寺が思ったが舞が治りかけが油断大敵というので大人しくそれに従うことにしたのだ。
「早く元気になってね」
「…なんでこんなことしてくれんだよ」
「獄寺はそればっかだね〜」
それは獄寺の境遇的に仕方ないだろう。彼の周りにはこんなに自分に尽くしてくれる人なんていなかった。いや、それが当たり前だったのだ。だから、舞が、好意を抱く者が、自分に優しくてくれるのは違和感を感じるとと同時になんだか胸の辺りがくすぐったかった。
「強いて言うなら……獄寺に感謝してるからかなぁ」
「感謝?」
「私、自分のこと話したら人が離れちゃうって思ってた。捨てられるのは私が不備のある人間だから。でも獄寺は離れていかないで今、私の目の前にいる」
舞は獄寺のいつもより温かな手を両手で包み込み、自身の額に当てた。
「それが何より嬉しくて、感謝してるの」
一つ一つ紡がれる言葉は重みがあって、本気の感謝が込められていて獄寺の心の奥底からまで響くようなものだった。自分は誰からも必要とされていないと思っていた。でも自惚れても良いのだろうか。彼女にとって自分はそんな存在になれたと。そう考えると、下がった熱がまたぶり返したように体全身が熱を帯びた。
「そんな獄寺にだから私は貴方の力になりたいと思った。それだけじゃ理由不足…?」
「……」
「…って、獄寺寝てるじゃん」
舞は握っていた手を丁寧に布団の中へ仕舞うと食器を持って立ち上がった。おやすみなさい。彼女はそう言うと獄寺の傍から離れた。すると獄寺はゴロンと寝返りを打ち壁の方へと視界を移した。彼は寝たふりをしていたのだ。
「(あんな恥ずいこと言われ慣れてねーんだよ)」
そう心の中で呟いた顔は熱を帯びていて当分は冷めそうになかった。
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