プール開き
梅雨もようやく明け、学校ではプール開きのためのプール掃除が始まっている。掃除最中も照りつける太陽の陽射しが熱く、ツナの額には薄っすらと汗が滲んだ。そこで、体育教師の大声がプールに轟く。
「いいかお前ら!明日はプール開きだ!!中二にもなって15m泳げない奴は女子に混ざってバタ足練習だからな」
「「「ええーーッ」」」
「(嘘っ。俺、泳げないんですけど)」
ツナは夏の熱い日にもかかわらず、大量の冷や汗が湧き上がった。体育教師の榎本は去年も体育をサボった男子に同じことをやらせたという事実があるのだ。ということは、ハッタリというのは考え難く、このままでは京子の前で恥を晒すこととなる。そんなのは嫌だ、とツナは白目を向いた。
「ツナ。泳げなかっただろ」
嘆きのあまり固まっていたツナの胸に山本の言葉が胸にグサっと刺さった。いやっ、えと…っ。と、誤魔化そうと口籠もるがそれでは泳げないと言っているのも同じだ。
「やっぱりな。市民プールで練習しよーぜ。つきあっからさっ。泳ぐなんてコツさえ掴めばなんとかなるって!人間なんて浮くよーできてんだから」
「あっ、ありがとー。山本!!」
やっぱり持つべきは友達だーっ。ツナは山本の優しさに歓喜し瞳をうるうるとさせた。こうしてツナ達は次の週末に市民プールで泳ぎの特訓をすることになった。
▽ ▲ ▽
「ツナくーん。頑張って!」
訓練日当日。プールサイドでツナの応援をする舞の声が響き渡る。彼女の視線の先には、太陽の光を受けてキラキラと反射する水の中で早速泳ぎの特訓をするツナと山本がいた。
「んじゃ、取り敢えず泳いでみろよ」
「う…うん。よーし…」
意を決して水の中へ潜るツナであったが、四肢をバタつかせるだけでちっとも泳げず、鼻や口に水が入ったのか直ぐに顔を上げて「ぐはっ、げほっ」と噎せてしまった。この悲惨な泳ぎに流石の山本も苦笑いを浮かべる。
「なるほど。なんとか5mってとこだな。先ずは呼吸の練習から始めっか」
そして山本の指導が始まった。しかし、元から運動神経が良すぎるからだろうか。指導能力はあまり秀でていなかった。
「いいかツナ!グッと潜って、んーぱっ、んーぱっ、グッグッて」
「え?」
「そーすりゃ、すいーーっと行くから!」
「(意味わかんねー!!)」
「んじゃ、すっすぃすぃ〜っともう一本いってみっか?」
山本の指導は全て感覚的過ぎてツナには理解することができない。思わず「ガーン」とショックを受けた。そんな時、動揺が隠しきれないツナの背後で鬼気迫るような大きな声が耳を通り抜ける。
「助けて〜!溺れてる〜!」
ツナ達が振り返ると、そこには「助けて下さい!」と叫びながら溺れているハルの姿があった。
「ハル!?何でハルが此処に?」
「それどころじゃないです。命が!灯火ですー!!」
「……足つくだろ」
ツナが白けた表情で、そう言えばハルは動きをピタッと止めた。やはり溺れたフリをしていたようだ。でもそれはハルなりにツナを泳がせようとするための作戦だった。
「リボーンちゃんに聞きました!泳げなくなっちゃったって!」
「は!?」
「ハルもツナさんが泳げるよう協力します!きっとツナさんはハルのためだと泳げると思うんです」
ツナは以前、川に落ちたハルを泳いで助け出したことがある。泳げたのはリボーンに死ぬ気弾を撃たれたからであるが、それを知らないハルは自分がもう一度溺れれば泳げるようになると思ったのだ。作戦を告げればハルはもう一度と言うばかりに、手足をバタつかせて溺れて始めた。
「さあヘルプミー!」
「やめろって!そーゆーわけじゃないから!!」
しかしハルは直ぐにこの作戦を止めることとなった。同じくプールに入っていた知らない子供に、ツナ達は変態呼ばわりされたからである。二人はそれなりにショックを受け、一時的に放心状態となった。
▽ ▲ ▽
「いちにーぱっ。いちにー」
ハルの掛け声に合わせツナは息継ぎの練習をしていく。まだ呼吸をする際に水が口の中へ入ってしまうが少しずつは進歩しているだろう。
「だいぶ呼吸がサマになってきたな!」
「う……うんっ。ただ…やっぱり…」
山本にそう言われ嬉しいと思う反面、ツナはヒシヒシと伝わる周りの視線が痛くて堪らなかった。それはきっと今、行っているこの練習方法のせいであろう。
「ハルに手ぇひっぱってもらう練習恥ずかしいよ!」
「真心指導が上達への近道です!」
そりゃ山本の感覚指導より良い気はするけど…とツナは思うが、やはり幼い子供に教えるようなこの指導方法では己の中の羞恥心が消えることはなかった。すると、何処かで「10代目!」と叫ぶ声が聞こえツナは体を硬直させた。自分の周りで“10代目”という特殊な呼び方をするのは一人しかいない。
「10代目ーー!!ご病気ですかっ!?」
獄寺はプールを囲うフェンスをよじ登り、ツナの傍へと近寄るべくプールの中へと飛び込んだ。そして、ザボーンと水柱のような大きな水しぶきが水面に立った。顔を上げてツナを見る表情は鬼気迫るようなものであった。
「泳げない体になってしまったなんて!!」
「うわぁ!!」
ハルと同じようにリボーンに何と言われたかはわからないが、どうやら獄寺も勘違いしているようだ。どうしたらそのような勘違いをするのだろうか。それでも服を着ながらプールに飛び込む程に獄寺は本気で心配していたのだろう。
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梅雨もようやく明け、学校ではプール開きのためのプール掃除が始まっている。掃除最中も照りつける太陽の陽射しが熱く、ツナの額には薄っすらと汗が滲んだ。そこで、体育教師の大声がプールに轟く。
「いいかお前ら!明日はプール開きだ!!中二にもなって15m泳げない奴は女子に混ざってバタ足練習だからな」
「「「ええーーッ」」」
「(嘘っ。俺、泳げないんですけど)」
ツナは夏の熱い日にもかかわらず、大量の冷や汗が湧き上がった。体育教師の榎本は去年も体育をサボった男子に同じことをやらせたという事実があるのだ。ということは、ハッタリというのは考え難く、このままでは京子の前で恥を晒すこととなる。そんなのは嫌だ、とツナは白目を向いた。
「ツナ。泳げなかっただろ」
嘆きのあまり固まっていたツナの胸に山本の言葉が胸にグサっと刺さった。いやっ、えと…っ。と、誤魔化そうと口籠もるがそれでは泳げないと言っているのも同じだ。
「やっぱりな。市民プールで練習しよーぜ。つきあっからさっ。泳ぐなんてコツさえ掴めばなんとかなるって!人間なんて浮くよーできてんだから」
「あっ、ありがとー。山本!!」
やっぱり持つべきは友達だーっ。ツナは山本の優しさに歓喜し瞳をうるうるとさせた。こうしてツナ達は次の週末に市民プールで泳ぎの特訓をすることになった。
「ツナくーん。頑張って!」
訓練日当日。プールサイドでツナの応援をする舞の声が響き渡る。彼女の視線の先には、太陽の光を受けてキラキラと反射する水の中で早速泳ぎの特訓をするツナと山本がいた。
「んじゃ、取り敢えず泳いでみろよ」
「う…うん。よーし…」
意を決して水の中へ潜るツナであったが、四肢をバタつかせるだけでちっとも泳げず、鼻や口に水が入ったのか直ぐに顔を上げて「ぐはっ、げほっ」と噎せてしまった。この悲惨な泳ぎに流石の山本も苦笑いを浮かべる。
「なるほど。なんとか5mってとこだな。先ずは呼吸の練習から始めっか」
そして山本の指導が始まった。しかし、元から運動神経が良すぎるからだろうか。指導能力はあまり秀でていなかった。
「いいかツナ!グッと潜って、んーぱっ、んーぱっ、グッグッて」
「え?」
「そーすりゃ、すいーーっと行くから!」
「(意味わかんねー!!)」
「んじゃ、すっすぃすぃ〜っともう一本いってみっか?」
山本の指導は全て感覚的過ぎてツナには理解することができない。思わず「ガーン」とショックを受けた。そんな時、動揺が隠しきれないツナの背後で鬼気迫るような大きな声が耳を通り抜ける。
「助けて〜!溺れてる〜!」
ツナ達が振り返ると、そこには「助けて下さい!」と叫びながら溺れているハルの姿があった。
「ハル!?何でハルが此処に?」
「それどころじゃないです。命が!灯火ですー!!」
「……足つくだろ」
ツナが白けた表情で、そう言えばハルは動きをピタッと止めた。やはり溺れたフリをしていたようだ。でもそれはハルなりにツナを泳がせようとするための作戦だった。
「リボーンちゃんに聞きました!泳げなくなっちゃったって!」
「は!?」
「ハルもツナさんが泳げるよう協力します!きっとツナさんはハルのためだと泳げると思うんです」
ツナは以前、川に落ちたハルを泳いで助け出したことがある。泳げたのはリボーンに死ぬ気弾を撃たれたからであるが、それを知らないハルは自分がもう一度溺れれば泳げるようになると思ったのだ。作戦を告げればハルはもう一度と言うばかりに、手足をバタつかせて溺れて始めた。
「さあヘルプミー!」
「やめろって!そーゆーわけじゃないから!!」
しかしハルは直ぐにこの作戦を止めることとなった。同じくプールに入っていた知らない子供に、ツナ達は変態呼ばわりされたからである。二人はそれなりにショックを受け、一時的に放心状態となった。
「いちにーぱっ。いちにー」
ハルの掛け声に合わせツナは息継ぎの練習をしていく。まだ呼吸をする際に水が口の中へ入ってしまうが少しずつは進歩しているだろう。
「だいぶ呼吸がサマになってきたな!」
「う……うんっ。ただ…やっぱり…」
山本にそう言われ嬉しいと思う反面、ツナはヒシヒシと伝わる周りの視線が痛くて堪らなかった。それはきっと今、行っているこの練習方法のせいであろう。
「ハルに手ぇひっぱってもらう練習恥ずかしいよ!」
「真心指導が上達への近道です!」
そりゃ山本の感覚指導より良い気はするけど…とツナは思うが、やはり幼い子供に教えるようなこの指導方法では己の中の羞恥心が消えることはなかった。すると、何処かで「10代目!」と叫ぶ声が聞こえツナは体を硬直させた。自分の周りで“10代目”という特殊な呼び方をするのは一人しかいない。
「10代目ーー!!ご病気ですかっ!?」
獄寺はプールを囲うフェンスをよじ登り、ツナの傍へと近寄るべくプールの中へと飛び込んだ。そして、ザボーンと水柱のような大きな水しぶきが水面に立った。顔を上げてツナを見る表情は鬼気迫るようなものであった。
「泳げない体になってしまったなんて!!」
「うわぁ!!」
ハルと同じようにリボーンに何と言われたかはわからないが、どうやら獄寺も勘違いしているようだ。どうしたらそのような勘違いをするのだろうか。それでも服を着ながらプールに飛び込む程に獄寺は本気で心配していたのだろう。
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