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自覚する想い


「わぁッ!」

舞は瞳を輝かせながら、無意識で声を漏らした。双眸に映るものから視線が外せず、思わず抱き上げ胸の中に収めた。力を込めすぎたのか「ぐえっ」とカエルが潰されたような切ない音が聞こえる。でも舞は気分が高揚して気づかないのかギュッとする腕を緩めようとはしなかった。そんな彼女の様子を見て隣にいたツナは慌てて止めようと声を荒げる。


「お、落ち着いてッ!舞ちゃん!!と、取り敢えず離してあげてッ!!」
「可愛い!本当に可愛いッ!ツナ君この子どーしたの?」
「せ、説明するからっ!その子を離して!」


ツナが鬼気迫るような声を上げるので、舞は「えー…」と不服そうにしながらも少しだけ腕に込めた力を緩める。すると胸に抑え込まれていた者は顔を直様上げ、「ブハっ」と勢いよく息を吸い込んだ。そして抱き上げられている為、だいぶ近くにある舞の顔をキッと睨みつけた。


「何すんだッ!殺す気か!!?」


鋭い言葉が投げられるが舞は瞳をキョトンと丸くさせた。舞が抱き上げているのはランボと同じくらいの男の子。こんな小さな男の子がこんな言葉を使うなんて。


「(最近の子はませてるな…。すっごい睨んでくるし。………けど、)」


舞はポカーンと開けていた口元に弧を描いた。そしてギュッとまた力を込める。


「可愛いから暴言も許すッ!!」
「なあ!!?」
「ええ!!!?」


ツナ達の驚愕の声が轟くが舞の耳には聞こえない。可愛い可愛い…と連呼しながら、もっちりと白い頬に自分のソレをすり寄せた。もう舞は男の子に夢中なようだ。でも大変なのは抱きしめられている男の子。抵抗するように体をジタバタさせるが子供の力が敵う筈無くせめてもの抵抗で声を荒げることしかできなかった。


「は、離せッ!チビ女、テメェ果たすぞ!!」
「えー!なんか獄寺とおんなじこと言ってる〜!でも可愛いッ!」


ツナは、あわあわと慌て出す。そう。舞が男の子を獄寺みたいというのは全然的外れでは無い。寧ろ大正解だ。獄寺はつい先程、ランボの持つ10年バズーカに当たってしまった。しかし厄介なことにその10年バズーカが故障しており、あろうことに獄寺の体だけが10年若返ってしまったのだ。だから舞が抱き締め離さないのは獄寺本人なわけで、舞がこの状況を知らないのは舞自身にとっても獄寺にとっても良く無いのである。


「いや〜。それにしても獄寺そっくりだねッ」


舞は獄寺の背中に回していた手を今度は彼の両脇に差し込み、小さな獄寺の顔をじっくり眺めた。


「ふざけんなッ!!いいから離しやがれッ!!マジぶっ殺すぞ!」
「も〜。言葉遣いまでそっくり!、なんか本物の獄寺みたい。……って、もしかして!」


ずっと獄寺を見ていた舞はあまりのそっくりさに疑問を抱き首を傾げた。まあ、そっくりも何も本人なのだから似てて当たり前なのだが。細部まで見るようにジーッと視線を向けると舞は「もしや…!」と閃いたような声を上げた。その表情にツナの顔も綻びを見せる。


「そうなんだよ!この子は獄寺君な、」
「君、獄寺の隠し子ねッ!!」
「ええッ!?」


そう。この子は獄寺君なんだよ…!ツナは理解してくれたと歓喜に舞い上がり正体を明かそうとした。しかし、舞の爆弾発言に思わず言葉は詰まらせた。反対に舞は納得といった笑みを浮かべている。


「獄寺も不良だと思ってたけど、まさか子供までいるなんて…!もう不良の極みねッ!」
「ちょ、あのッ!」
「それよりも貴方のパパどこ行っちゃったのかな?」
「だから違うんだって…」
「あたしが一緒にいてあげるから!」


ブチッ。何かが切れる音がツナの耳に届いた。ツナは恐る恐る未だ抱き上げられ言われ放題の獄寺をチラリと覗いた。彼から出るドス暗いオーラはあまりにもすごくツナは「ひぃっ」と小さな悲鳴を漏らした。この数秒後、ツナの家で過去最大の雷が舞に降りかかったのは言うまでも無い。



▽ ▲ ▽



「(なんで俺がこんなことに…)」


獄寺は声に出さずに心の中で呟いた。今日はランボの所為で体は縮み、元の姿には未だ戻れない。そして今置かれているこの状況。全くついていない。獄寺は床に座りながらチラリと前で作業をしている人物を見つめ、はあ…と溜め息を吐いた。


「獄寺。後ちょっとでご飯できるからね!」
「へーへー」


投げやりな返事。でもこの状況では致し方無いだろう。獄寺は今、舞の家に居る。当然だが、彼が此処にいるのは彼の意思ではない。此処へ来ることになったのは数十分前のやり取り故だ。


「でも吃驚ッ!この小ちゃな子が獄寺だなんて」

舞はツナの家の玄関に腰を下ろしながら、自分より遥かに小さな背丈の獄寺の頭を撫でた。しかし、その手を獄寺は凄い剣幕で「触んなッ」と振り払う。どうやら怒りはまだ治ってないようだ。それでも舞は懲りずに何度も獄寺にちょっかいを掛ける。それに獄寺が怒る。その何度も繰り返されるやり取りをツナは苦笑しながら横目で見ていた。


「そうだ。舞ちゃんは何で俺ん家に?」
「あたしはねリボーンに呼ばれて来たの」
「えっ!?リボーンが!?」
「そうだぞ。舞に頼みがあったからな」


声の主を探せば舞を呼び出した張本人が居て、ツナ達を見上げるように佇んでいる。舞はリボーンの言った言葉に「頼み…?」と首を傾げれば彼は意味深にニヤリとほくそ笑んだ。


「舞。今日は獄寺を泊めてやれ」
「「え」」



小さな体のままでは何かと不憫であるし、ツナの家には獄寺と犬猿の仲であるランボがいるから無理。そうすれば必然的に残りは舞の家しかない。リボーンにそう言われれば、いくら獄寺でも拒否の言葉を述べることはできなかった。こうして彼は舞の家に来たのだ。
獄寺は、ソファに凭れ掛かりながら自分の家とは違う天井を眺める。そして、普段とは違う香りが鼻腔を擽った。この家は当然だが自分の家のように煙草の香りはしない。だからといって甘ったるいような鼻につく香りではなく、どこか安心するような匂いで思いの外、居心地の悪いものではなかった。だからといってこの場にいることは不本意だが。


「さぁ、召し上がれ」


食器をコトンと置く音と舞の声に視線を天井からテーブルに移せば、美味しそうな香りが漂う夕食が用意されていた。今晩のメニューはオムライスとオニオンスープ。完全に舞は、子供を意識して作ったようだ。舞は向かい合う形で獄寺の前に腰を下ろし、彼に向かってニッコリと笑った。


「食べさせてあげよっか。隼人君」
「うっせ。体が戻ったら覚えとけよ。ぜってー果たす」
「はいはい。さ、食べよッ」


獄寺が小さな口でオムライスを頬張る姿が舞は可愛くて仕方がなかった。フフっと声を漏らしながら笑うと、目の前の獄寺に怪訝そうな視線を這わされたがそんなものは彼女は気にしない。舞の表情は終始緩みっぱなしだ。それは獄寺が可愛いというのも原因だが、単に嬉しかったのだ。家には常に自分しかいないのが当然の事。だが今日は1人では無いし、自分が作った料理を誰かが食べてくれる人がいる。普通の人には当たり前のことだが舞にとっては幸せな時間であった。


「ご馳走様でした」


夕食の時間はあっという間に過ぎ、舞は手を合わせる。獄寺は「ご馳走様」とは言わなかったが、料理は全て失くなりお皿が綺麗になっていたので舞は嬉しそうに笑みを零した。それから片付け、お風呂と何かと口論にはなったが着々と済ませ、後はもう寝床で体を休めるだけとなっていた。体の小さな獄寺であるが一応お客様なわけで自分のベットを彼に譲り、舞はその隣に敷布団を敷き、其処に横となった。部屋には小さな豆電球だけを灯す。気分はすっかり修学旅行のお泊まりだ。


「早く元の姿に戻れるといいね。それとも気に入っちゃった?」
「んなわけねーだろ。とっとと戻ってアホ牛の馬鹿をしばく」


獄寺が淡々と言葉を吐き出せば舞はつい可笑しくてクスクスと笑った。今まで目を閉じていた獄寺であるが、緩慢に翡翠色の瞳を開き薄暗い天井が視界に広がった。獄寺自身も1人暮らしであるため他の者と夜を過ごすというのは慣れておらず中々眠りにつけなかったのだ。右隣にいる舞からは寝息が聞こえない。きっとまだ寝付けていないのだろう。その推測は当たりのようで舞はポツリと言葉を吐いた。その声はいつもよりも優しく聞こえ獄寺の耳にスッと通り抜けた。


「獄寺、」
「んだよ」
「……おやすみなさい」


その言葉は唯の寝る際の挨拶に過ぎない。だが、獄寺にとっても舞にとっても言われ言い慣れてない言葉だ。だからこそ獄寺は何だかフワフワと浮かぶような上手く言い表せない気持ちとなった。後に直ぐ、舞の規則正しい寝息が聞こえてきた。彼はチラリと彼女を覗くように見ると、カーテンの間から僅かに月の光が差し込み、舞の寝顔を照らしていた。その表情はまるで子供のように幼く見え、心地良さそうなとても穏やかなものだった。



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