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あの日を境に舞の奇妙な行動は続いた。ツナや山本が遊びに誘っても全て丁寧に断り、一目散に教室を駆け抜けて行く。そして休み時間は携帯を握り締め、緩んだ顔で何かを眺めている。もしくは携帯を机に置きソレ一点をじっと見つめるかのどっちかであった。ツナはそんな舞をチラリと覗いた。現在も携帯とにらめっこ状態継続中だ。雰囲気ではあるが舞の周りだけ空気が張り詰めているように見える。だからなのかツナは話し掛けられずにいた。



▽ ▲ ▽



気持ちの良い爽やかな風が吹く屋上。この場所は並盛の街一帯が見渡せ、風が街を駆け抜けていくように見える。時はお昼休み。ツナと獄寺と山本のお馴染みのメンバーでご飯を食べている最中である。本来であれば有意義な時間の筈なのだが、ツナは何か違和感を覚えた。


「10代目。何かありましたか?」
「へ?」
「あまり箸が進んでないようなので」


獄寺の言う通り、ツナはお弁当に殆ど手をつけていなかった。そんな彼に獄寺は逸早く気付き声を掛けたのだ。自分では無意識のことであったのでツナはその一声に驚き目を大きく開いた。


「なんだツナ。弁当に苦手なおかずでも入ってたのか?」
「バカっ!んなわけねーだろッ!」


10代目はオメェみたいな能天気じゃねェんだよ。獄寺が睨みながら悪態を吐くと山本は気にしていないように朗らかに笑う。それはいつも繰り広げられるやり取りだ。でもそれだけだけでは何かが足りないのだ。ツナが胸に宿す違和感の原因。それはツナ自身わかりきっていた。

獄寺は散々、山本に向かって喚き散らすと急に我に返ったように表情を裏返してツナへと視線を向けた。…で何かあったんスか?と、話の続きを聞くように疑問をぶつける。するとツナは気恥ずかしそうに頬をポリポリと掻きながら言葉を紡いだ。


「えーっと、舞ちゃんがいないって変な感じだなぁ…って思って」


アハハ、と意図的に不自然な笑みを零せば、山本も同調するように持っていた箸をツナに向け「俺もおんなじこと思ってたぜ!」と声を発した。そんな山本に対して、陽射しを浴びて煌く光を放つ銀髪の彼は表情を歪ませる。


「そーッスか?」


うるさい奴がいない方が静かでいいっスよ。そう言いながら自分の手で持っていたパンを口に含む獄寺。まるで自身は舞がいなくても気にならないと遠回しに言っているがそれを論破した者がいた。


「そんなこと言って、獄寺だって舞のこと気にしてたじゃねーか。素直じゃねーのな」
「はっ!?俺がいつアイツを気にしたって!?冗談も休み休み言いやがれッ!」
「だってほら、さっき舞を見た時」
「っ!あ、あれは…そんなんじゃねェ!」
「まーあれは気になるよな」


どうやら彼等は先程、彼女のことを見かけたらしい。でも山本の言い方だと何か不自然なものを見たというように聞こえる。ツナは、「何を見たの?」と頭の中で浮かんだ疑問を2人に問い掛けた。


「なんかよ、俺等が見たとき舞あそこの前に居たんだよ」
「バカっ!応接室って言え!!」
「えっ!応接室!?それって…」


“応接室”と聞いて次に思い浮かべるのはこの並盛中の生徒であれば口に出さずとも一致するだろう。そう。其処の教室に居座ることを許可された人物といったらあの人しかいない。もしかしたら舞が普段と違う行動を取っている原因もその人によるものなのか。ツナがグルグルと考えていると、山本が付け足すように「それにさ…」と言った。


「なんか顔、真っ青だったんだよな」
「えっ?」
「そういやそースッね。何か雲雀の野郎を怒らせるようなことしたんじゃないッスか?」


あのチビ女ですからね、と言う獄寺にツナは苦笑いを浮かべた。雲雀を怒らせたら顔色も青くなるのも頷けるが、あの舞が雲雀をそこまで怒らせるようなことをするだろうか。それに雲雀は舞を気に入っているし、もし怒らせたとしてもそこまで咎めないと思うが。結局2人に相談をしてみたが、気になることは解消されず、ますます濃くなるばかりであった。



▽ ▲ ▽



「はーあ。ついてないなぁ」


ツナは溜め息を吐きながら、それなりに重いゴミ袋を両手に携えいた。今日の彼は掃除当番であり、最後に行われるゴミ出しジャンケンで1人負けをしたのだ。今日も安定のダメライフだな…とツナは焼却炉へと向かっている最中だ。


「アハハっ。くすぐったいよ」
「ん?」


聞き覚えのある高い声がツナの耳に通り抜けた。それは焼却炉があるツナが向かっている方角からで、ツナは首を傾げた。焼却炉は校舎の裏の端にあって、人はあまりいない筈なのにと思ったからだ。誰だろう…?と恐る恐る声がする方へ近づく。そして瞳に映った光景に目を見開き声を上げた。


「舞ちゃん!?」


呼ばれた彼女はその声に焦ったようにバッと勢い良くツナを振り返った。そして、「なんで此処に…?」と困った風に瞳を泳がせる。まるで親に内緒で悪戯をしていたことがバレた子供のようだ。


「あ、俺はゴミを捨てに…」


ほら…という具合にツナは両手に持っていたゴミ袋を持ち上げた。それを見て舞は納得したように「あー、なるほど」と呟いた。


「舞ちゃんはなんで此処に?」
「えっと、あたしはね…」


ツナの質問に舞は引き攣った笑みを浮かべながらチラリと自分の背後を覗いた。するとタイミング良く「ニャー」という声が2人しかいない場所に響く。彼女は、しまった…!という風に目を見開き、音を遮断しようとするがもうそれは既に遅かった。


「猫…?」
「あはは…」


もうバレてはしょうがない、と舞は背中で隠していた猫が入っているダンボールをツナに見せるように目の前に出す。それを覗くようにツナはゴミ袋を地面に置きしゃがみ込み、思わず口元を緩ませた。


「うわッ」
「可愛いでしょ?この子ね、3日前に拾ったんだ」
「ええっ!」


舞の言葉にツナは驚いた。彼女が可笑しな行動をするようになったのも3日前。そしてこの猫を拾ったのも同じ3日前。これでわかった。彼女の不可思議な行動の理由が。舞曰く、この数日ツナ達の誘いを断っていたのはこの猫の為で、休み時間も携帯を眺めていたのは舞が貼った飼い主募集ポスターを見て電話を掛けて来る人を待っていたからであった。それを訊いてツナは「そうだったんだ〜」と安堵したように体の力を抜いて地面に座り込んだ。


「ごめんね。内緒にしてて。ツナ君達に迷惑かけたくなかったんだ」
「迷惑なんかじゃないっ!!」
「え?」


舞は「ツナ君…?」と首を傾げた。ツナの橙色の瞳に真剣味が帯びていたからだ。彼自身もそこまで強く言うつもりは無かったのか、我に返ると少し焦ったように「ち、違うんだ!」と言った。そして考えが纏まらないのか俯きながら頭を抱えた。


「(あ〜〜。俺、結局何が言いたいんだよ。)」


こんな意味わかんない俺じゃ舞ちゃんも引いてるよ…と心の中で喚いているとクスっという小さな笑い声が聞こえた。「えっ、」と驚き顔を上げるとツナは、ひゅっと息を呑んだ。優しく微笑む舞の姿に目を奪われたからだ。


「いいよツナ君。ゆっくりで」


その瞬間、柔らかな風が髪を揺らした。もういいよ…と止めさせるわけでもなく、早く言え…と急かすわけでも無い。ただ、ツナ自身のペースで良いと言う彼女が綺麗で周りの時間が止まったように思えた。何故か心音が速くなった気がして胸の奥が熱くなるような感覚を覚えた。ツナはドクンドクンと体全身が脈打つなかで緩慢に口を開いた。


「め、迷惑とかそう言うんじゃなくて…た、頼って欲しいんだ。困った時は舞ちゃんの役に立ちたい。だって……」


“友達”だから!その言葉を聞くと舞は大きな目を益々見開き、次に花のように綻んで笑った。「ありがとう」とお礼も加えて。


いつも傍にいる君が傍にいないと違和感を感じる程、君が近くにいるのは当たり前のことなんだ。そんな大切な友達の君だから、力になりたいと強く思うよ。


▽ ▲ ▽



その何日か後、ツナの協力あって猫の飼い主は見つかり舞は再度ツナにお礼を告げた。そしてツナが思い出したように「そういえば…」と声を発した。


「どうして舞ちゃん応接室にいたの…?」
「ああ、あの時ッ!雲雀先輩に呼び出されてたの。並中で猫飼ってたのバレて咬み殺されるかと思ったからビクビクしたよ〜」
「流石の舞ちゃんでも雲雀さんは怖いんだね」


そりゃあそうだよ。先輩は並中のこととなると人格変わるからね、と答える舞にツナは同意した。やはり並中最強の雲雀は誰であろうと恐れるに値する対象なのだな、と心の中で思う。すると舞は「あ、でも」と楽し気に目を細めた。


「あの時はお茶のお誘いだけでバレてなかったから命拾いしちゃった!」
「(ええっ!雲雀さんとお茶ーー!!?)」


そう訊いてツナは思った。もしかして最強なのは雲雀ではなく天真爛漫に笑う舞ではないかと。



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