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君が傍にいるのは自然なことで


可愛らしいピンク色の桜も散り行き、新しく誕生した葉が緑緑と茂る。爽やかで心地の良い風が木々をザワザワと揺らし、その風が間から吹き抜けている。この季節を舞は好きであった。昼間は太陽の熱で温かく、夜は比較的過ごしやすい。その為、学校へ行く足取りもいつもよりは幾分軽かった。


「(気持ち良い日だな〜。なんか良いことありそう)」


鼻歌を交えながら彼女は学校へと向かう。気分が良い所為か周りの景色がいつも以上に輝いて見えた。舞は携帯を取り出し、時間を確認した。よし。朝のホームルームまでまだ時間はありそうだ。すると本来なら真っ直ぐ行くべきの道のところを態と右に曲がった。こんなに良い日なのだ。遠回りしていつもとは違う道を辿るのも一興だと思い、舞は少し学校から遠ざかって行った。


「(今まで通ったことない道だとドキドキするなぁ)」


別れ道がある度にどちらに曲がろうか。真っ直ぐ行こうか、と考えるだけで楽しいしどんどんと繰り広げられる新しい景色に舞は胸踊った。


「 」


ん?ピタッと歩む足を止めた。何処からか音がしたのだ。だがあまりにも小さかったために何の音だったかはわからない。キョロキョロと周りを見渡し、耳をたてた。


「 」


やはり聞こえる。僅かな音だが、その音を頼りにそろりそろりと移動を始めた。音が段々と大きくなっていく。どうやらちゃんと近づいているようだ。


「あ」


音を出している正体を見つけ舞は目を見開く。刹那、舞の長い黒髪が乱れる程の強風が吹き荒れた。だが目を離すことはできなかった。顔に掛かった髪をかき上げ、彼女はゆっくりと足を前に踏み出すのであった。



▽ ▲ ▽



「おい星野!」
「………」
「星野、おい!聞こえんのか!?」
「………」


3時間目の数学の授業。教室には教師の怒声に似た声が響き渡っていた。何度も何度も舞の苗字を呼びつける。が、肘をつきながら窓を見ている舞には全く聞こえていないのか反応を一切見せない。そんな舞の様子に教師は益々怒りを募らせ、周りにいる生徒達は視線を舞一点に絞った。


「星野っ!」


教師も我慢の限界であったのだろう。遂には教壇を降り、舞の元まで行って教科書をバンと机に叩きつけた。その音でやっと気がついたのか舞は、ゆっくりと視線を前に向けた。


「星野、何か弁解はあるか?」
「先生…」
「なんだ?」
「今日も素敵ですね」
「なっ、!」


地を這うような低い声を轟かせていた教師であるが、舞がヘニャっと笑うと今度は声にならない声を戸惑いながら発した。だが直ぐに我に返り、「先生をからかうな!」という怒声がまた響き渡った。


「(何やってんだか。チビ女)」


獄寺は頬杖をつきながら、舞のことを眺めていた。獄寺からすれば彼女はいつも変だと思うが今日はまた格別に様子がおかしく、それは不可解なことであり呆れたような表情を浮かべた。


▽ ▲ ▽



……結論から言おう。今日、舞はやはり普通ではなかった。それはクラスメイトが満場一致で言えることである。体育の授業ではバレーボールを顔面にくらい、移動中では足元を見ていないのか転ぶこと数回。話しかけてもほぼ上の空で教師に怒鳴られること数回。昼食も喉を通さない。その異常さにクラスメイトが全員唖然としヒソヒソと舞に何があったのか…と話し合った。それはツナ達も同じである。


「舞ちゃん、どうしたんだろう?」
「まー、今日の舞はいつもと違うよな」
「アホさに益々磨きがかかってますからね。何か変なモンでも食ったんじゃないっスか?」


ツナは獄寺の言葉にアハハ…と苦笑いを零しながら、話の的となっている舞をチラリと覗いた。肘をつきながら窓の外を眺めている。その姿は何故か儚げで舞の周りだけ時間が止まったようにツナには思えた。



▽ ▲ ▽



「気をつけ、礼」


日直の声に合わせクラスメイトが「さようなら」と挨拶をする。授業も終わり時計の針は放課後を示し、教室は生徒の移動や話し声でザワザワとしている。ツナは部活には所属していない為、帰り支度を済ますと帰宅するべく席を立った。


「10代目!帰り支度ができたのでしたら帰りましょう!」
「あ、うん。もう帰れるよ」


そうツナが言うと、彼の視界には艶やかな黒髪が映り込んだ。しかしそれは一瞬で颯爽と過ぎさろうとしている。ツナは慌てて声をかけた。


「あっ……舞ちゃん!」


ピタっ。その一声により舞は動きを止め、ツナへと振り返る。でもその表情はいつもより焦っているように見えて、


「な、何かなっ?ツナ君」
「あ、あの…、一緒に帰らないかなって」


今日は様子が変であったし、もし何かあったのであれば力になりたい…とツナは舞を誘ったのだ。ボスであるツナからのお誘い。普段の舞であれば迷いなく速攻で頷くのだが、何度も言うが今日の舞はいつもとは違うのだ。彼女は眉を八の字に下げながら瞳を泳がせた。


「ご、ごめんね。嬉しいんだけど今日は予定があって…行かなきゃいけない所があるの」
「おい、チビ女。10代目の誘いを断るとはテメェ果たすぞ!」
「い、いや。いいんだ獄寺君」
「しかし10代目…」
「舞ちゃんもごめんね。予定あるのに引き止めちゃって、」
「……ツナ君」


舞はギュッと心臓を掴まれるような感覚に陥る。できることであれば一緒に帰りたい。けど……舞の頭にフッと何かが過る。彼女は唇をキュっと噛みしめた。


「ツナ君ごめんね!この埋め合わせは今度するから!」


バイバイ!ついでに獄寺も!舞はそう告げるとスカートの裾を翻し、風のようなスピードで走り去って行った。残された2人はポツンと佇み、顔を合わせ揃って首を傾げた。そしてやけに今日は教室の騒めきが耳に残るのであった。



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