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「やーっぱり獄寺君と舞ちゃんだ」


2人の間に流れる空気が軽くなり始めた頃、彼等の名前を呼ぶ人物が現れた。2人揃ってその人物を見ると、その人は笑顔で手を振っていた。


「あ、奈々さん」
「お母様」


ツナのお母さんの奈々は買い物の帰りらしく荷物を肩に掛け、優しい微笑みを見せた。


「ん?2人だけ?ツナ達は?」
「いや…自分達はそろそろ帰ろうかと…」


獄寺の言葉に舞も頷く。すると奈々は、「2人とも仲が良いのね〜」と呟く。それに獄寺と舞が素早い反応を見せた。


「「え、」」
「だって、とっても仲が良さそうに話してたもの。2人は付き合ってるのかしら?」


フフっとまるで少女のように笑う奈々に対し、獄寺は思ってもみない台詞に口をあんぐりとし顔を硬直させた。そして枷が外れたように一気に顔を赤く染めた。


「(お、俺がコイツと…!?ぜってーありえねぇ。お母様っ、なんて誤解を…)」
「(最近、こーゆー間違い多いなぁ)」


心の中で各々が思いを馳せた。舞はチラっと獄寺の顔を覗く。白い肌が驚くべきほど真っ赤だ。別にあたし達は付き合ってるわけじゃないからそこまで過敏に反応しなくてもいいのに…と舞は困ったように笑った。きっと獄寺はこういう話に慣れていないのだろう。仕方ない。自分がフォローをしてやろう。えっへん!とお姉さん気取りをしようとするが、その時…頭の中で妙な悪戯心が舞に芽生えた。


「ねぇ、いつから付き合ってるの?」


奈々は瞳を輝かせながら、ズイズイと迫って来た。その姿は本当に若い。獄寺はこれ以上、誤解されるのは嫌だと思い否定しようと口を開いた。


「ち、違います!決してそのようなことは…!」
「あら、そーなの?」
「当然です!おい、オメェも少しは否定を…」


何も言わない舞を獄寺は睨み、少しは否定の言葉でも…と彼女に促す。そう言われると舞は不自然に口元に弧を描いた。その表情に獄寺は違和感を覚える。


「お似合いだと思うのに…。つまらないわ」
「フフっ。獄寺は素直じゃないんです」
「は!?」
「え!それじゃあ、」


今日の1日で何度、舞の言動に振り回されただろうか。舞の意味不明な発言に獄寺は、今までに無い程の短く大きい声を漏らした。それに引き換え奈々はより瞳をキラキラとさせた。


「肯定はしませんけど、奈々さんのご想像にお任せしまっす!」
「あらぁ。フフっ。お熱いのね」
「お、おい!」
「隼人!」


舞の意味深な言葉に益々、奈々の誤解が深まっていく。何言ってんだ、テメェ…と獄寺が声を発しようとするが舞に「隼人!」と初めて下の名で呼ばれたことに驚き、つい口を噤んでしまった。固まった獄寺に舞は微笑みながら自分の口元に人差し指を当てて、「しっ」と言った。


「隼人が恥ずかしがり屋なの知ってるけど、そこまで否定するとあたし悲しいな」
「ラブラブでいいわね〜」
「えへへ」

「(何が「えへへ」だ。完璧な誤解されたじゃねぇか。10代目のお母様、信じこんでらっしゃるし)」
「(うわー。獄寺めっちゃ睨んでるー)」


獄寺に思い切り睨まれている舞であったが、敢えて気づかないフリをして笑顔を張り付けた。この方が面白いと考えたのだ。案外、彼女はSっ気があるのかもしれない。獄寺はまるで舞の掌で転がされているみたいだ。


「あら。そのブレスレットじゃない?」


奈々は話を変え、獄寺が左手首に付けているブレスレットを思い出したように指差した。


「高校生の不良の方達が上納品として持って来たっていうのは」
「え!何故それを…?」


獄寺は奈々にその話をしたことがなかった。だから何故か知っていることに疑問を抱いた。すると奈々は口元に手を当て、目を細めて笑った。


「獄寺君のことはツナがよく話すもの」
「!!」


奈々の発言に獄寺はあきら様に表情を変えた。眉間の皺をなくし目を見開いた。その姿に舞も嬉しそうに口元を緩ます。


「10代目が俺の話を?」
「ええ。ツナの口から獄寺君の名前が出ない日はないわ」
「良かったね、獄寺」


獄寺は嬉しさから唇を噛み締めた。知らなかった。そこまでして俺のことを…。なのに俺はーー!彼は勢い良く立ち上がった。その表情はとても晴れ晴れとしている。


「すいません10代目!俺間違ってました」
「獄寺君?」


今の彼には奈々の言葉は聞こえない。今すぐ10代目の所へ向かおう。そして1日も早く必要とされる右腕になるとボスに誓おう。それだけを考え、獄寺は大きく地面を蹴って走り出した。


「獄寺!」


公園を抜けようとした時に聞こえた自分の名前を呼ぶ大きな声。前に踏み出す足を止め、獄寺は振り返る。瞳に映ったのは、先ほど自分が綺麗だと思った不敵な笑顔。それにはいつも感じる悲しみなんて微塵も感じられない。


「頑張れ!」


彼女が拳をグイっと前に出す。ニカっと白い歯を見せて。なんだその体育会系のノリは…と獄寺は一瞬固まる。それでも、自分がこうやって今、前を向いていられるのは…


「(あいつはいつも馬鹿だし、うぜぇし、さっきだって意味わかんねーことばっか言って誤解されるし…恋人とかぜってーお断りだ。けど、)」


曇りなき翡翠色の瞳で真っ直ぐな眼差しを向ける。そして同じように拳を突き出した。スゥと息を吸い込む。


「あんがとな!…………舞!」
「!」


舞は思わず目を見開いた。獄寺と出会ってから数ヶ月が経った。それでも彼が舞の名前を呼んだことは一度も無かったのだ。獄寺はそれだけ言うと気恥ずかしかったのかまた走り出した。ツナの家へと真っ直ぐに向かって。瞳に映る変わりゆく景色。獄寺の頭によぎるのは10代目の右腕として精進する決意と、自分の背中を押してくれた自分より小さな彼女の笑顔であった。


「(良い奴だってことだけは認めてやる)」


舞と獄寺の間には春の訪れと共に確かに新しい風が通り抜けた。時間が流れて行けば、周りの景色も少しずつ変わり変化しないなどありえない。そんな季節の変わり目。気持ちも季節と共に移り行く。彼等はどのように変わっていくのだろうか。皆が待ち望んだ温かく優しい春はもうすぐそこまでーー。



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