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はーあ…と笑い過ぎて溜めた涙を拭う舞。もう勝手にしやがれ、と獄寺は既に気にしてはいなかった。もう舞の笑い声はBGMとして考えることにしたのだ。


「ねえ」
「あ?」
「少しは軽くなった?」


は?素っ頓狂な声が獄寺の口から漏れる。一体何言ってんだ、コイツは。と獄寺は怪訝そうに舞を見つめた。そんな舞は口元を緩め「そこ」と獄寺の胸を指差した。


「落ち込んでる時は誰かと一緒の方がいいし、うじうじ溜め込むよりも言いたいことを思い切り吐き出した方が胸がスッキリするんだよ」


さっきよりはマシでしょ、と言う舞に獄寺は何も言い返すことができなかった。確かにさっきまで黒いものが胸の中でグルグルと渦巻くようで苦しかった。でも今は悩み本来は解決してないものの幾分最初より気持ちは軽くなっていたのだ。獄寺は目から鱗のように驚き、緩慢に口を開いた。


「…テメェは、態とあんなこと言ったのかよ」


俺が10代目のことで悩んでるいるうえで、絶対に言い返すって。それがわかったから態と怒らせるようなことを言ったのか。思ったことは全ては言わずに獄寺は問う。すると舞はクスリと笑みを零した。


「さあ?」
「はぁ!?」


ふざけてんのか、テメェは。またも沸々と湧き上がる感情を必死に胸に留め、獄寺は視線で問いただすように真っ直ぐ舞の瞳を捉えた。


「んー。まぁ悩んでるより、怒った方が獄寺らしいなって思っただけ。それに獄寺が元気ないとツナ君、絶対に心配するもん」


また10代目のことかよ。そう思ったが獄寺自身も10代目命であるため口にすることは止めた。それよりもまた同じことを述べた舞に獄寺は恐る恐る気になることを聞いてみた。


「なんで…10代目が俺を心配なさるってわかんだよ」


自分よりも山本を必要としているツナが自分が元気がないくらいで心配する筈が無い。なのに、何度も「心配するんだから」と豪語する舞の意図が気になったのだ。舞は一瞬キョトンと目を丸くしたが、直ぐにフフっと笑みを零した。


「そんなの決まってるじゃん。ツナ君が獄寺を大切だって思ってるからだよ」
「だからなんでだよ!俺が10代目に大切だって思われてるかなんてわかんねーだろ!!」
「……獄寺?」


鬼気迫るような表情で力強く言葉を発する獄寺に舞は首を傾げた。すると、獄寺は下を俯きながらポツリポツリと言葉を紡ぎ始めた。それは先程の10代目にしてしまったことと、10代目が言った言葉についてのことだった。



▽ ▲ ▽



「…だから、俺は10代目に必要とされてねーんだよ」


何でコイツに全て言っちまったんだろう。でも何故かコイツに聞いて欲しくて、平気だよって言って欲しくて話してしまったんだ。いつもは茶化してばっかりのコイツも今回ばかりは真剣に何も言わずに聞いててなんか少し調子が狂う。獄寺は思ったことは口に出さずただ、舞の返答を待った。きっと舞なら自分の気持ちを理解してくれるようなそんな淡い気持ちを込めて。


「うーん」


舞は少し考えているような声を漏らして、浮いている足をパタパタと動かした。


「そうだね。ツナ君は獄寺の言う通り、獄寺を必要としてないと思う」
「はっ!?」


思わずブランコからずり落ちそうになった。舞は良い意味でも悪い意味でも人の予想を跳ね除けるのだ。


「てんめー調子良いことばっか抜かしやがって!じゃあさっき言ったことはなんなんだよ!」
「あたしが必要じゃないって言ったのは“右腕”としてだよ」
「ああ"!?俺は右腕として10代目に仕えてんだよ!そうじゃなきゃお側にいる意味がねーんだ!」


右腕として必要ない。それは獄寺にとって致命的な言葉で彼は立ち上がり、すごい剣幕で舞の胸ぐらを掴んで引き寄せた。2人の顔はとても近い。でも甘い雰囲気は一切無く、2人の双眸は重なり合った。舞も怖がらず堂々と獄寺を見て言い放つ。


「獄寺はそう思っててもツナ君にとってそうじゃないってことなの」
「なっ!?じゃあ俺は10代目のなんだってんだよ!!」
「“友だち”でしょ」


獄寺が目を見開く。2人の間を流れる空気が変わったような気がした。ゆっくりと重力に従うように獄寺が掴みかかった手を下ろす。その手に舞は優しく自分の手を添え、ふわっと微笑んだ。


「今のツナ君は獄寺を友達として大切なんだよ。あたしはずっとツナ君を見て来たからわかる。他の人と獄寺が違うって」
「でも、俺は10代目の…」
「うん。だからこれから必要とされる右腕になればいい。だって…ツナ君とこれからずっと一緒にいるんだったら、右腕となってからの未来の方が長いと思うから」


違う…?そんな風に不敵に微笑みながら首を傾ける彼女に獄寺は何故か目を奪われた。柄にも無く綺麗だと思ってしまったのだ。自分を見る瞳が、表情が、全てが。思わず、ひゅっと息を呑んだ。そして顔が熱くなっていくことが自分でもわかった。自分の熱が指先から伝わってしまうのではないかと慌てて手を離す。


「あ、あたりめーだ!俺は一生10代目についてくって決めてんだ」


その言葉を聞くと舞は可笑しそうに、ハハっと声を上げた。それでこそ獄寺だ…というと彼はいつものように、うっせ…と眉間に皺を寄せるのであった。



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