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春風の訪れ


長くて寒い冬も移りゆき、気温は日に日に上昇を見せていく。梅の蕾も膨らみ始め、温かい春の訪れを感じられる。時は既に夕刻。オレンジに何かもが染まり、世界がまるで包まれていくようにも見える。それは世界の一分である並森も同じことでその町にある公園も然り。公園にはブランコに乗って黄昏れる一つの影が伸びていた。


「はぁ」


溜息を吐きながら、その少年は浮かない顔で地面を眺めていた。何故、落ち込んでいるのかというとその原因は先程の出来事の所為であった。彼は今日、10代目であるツナの右腕に相応しい男になるべくリボーンによって指導を受けていた。彼は真剣そのものであったが、それが全て裏目に出てしまい挙げ句の果てに敬愛すべきボスにラーメンをぶちまけてしまうという失態するという始末。そして最後に10代目が放った言葉。それが獄寺の心に引っかかってしまったのだ。


「山本ォ!助かったー!!」


涙を浮かべて心底、山本の登場を喜ぶツナ。あれはきっと心からの言葉であったのであろう。それで獄寺は落ち込んでいたのだ。


「(10代目が頼りにしてるのは、俺じゃなくて山本ーー……)」


自分では10代目の為に全力を尽くしている自信はあった。それでもツナが求めたのは自分ではなく山本。まるで誰にも必要とされなかった幼少の頃と同じようだ。獄寺はタバコをふかしながら過去のことを思い出した。


「ファミリーに入りたい?ピアノ弾くようなナヨナヨしたヤローはファミリーになれねーんだよ。チビ!!」

「東洋人とのハーフなんかにボスの命を預けられっか!他を当たるんだな!」

「何睨んでやがる悪童が!てめーを雇うファミリーなんてイタリア中探してもありゃしねーよ!!」



何処に行っても誰にも認めて貰えなかった。それが悲しくて辛くて自分に価値の無い人間だと思えた。だが日本に来てツナに出会って過去の自分から変われたと思っていた。でもそれは気のせいだったのであろうか。


「やっぱ俺、1人が向いてんのかな」


もう10代目のお側を離れた方がいいのか…獄寺の中で暗い気持ちがどんどんと増殖していくみたいだ。その時、場違いなような高い声が耳に聞こえた。


「なーにやってんの?獄寺」


獄寺が顔を上げるといつものようにニカッと笑う舞。彼女はブランコを囲むパイプに腰を下ろし、獄寺と向かい合うようにして話を続けた。


「学校サボった癖にこんなとこいていいんですか?」
「………うっせ」
「ありゃ?」


オメェには関係ねーだろ。チビ女。くらいの言葉が返ってくると思っていた舞にとって獄寺の返答は意外で堪らなかった。明らかに落ち込んでいるのが伺え、舞は獄寺らしくないと首を傾げた。


「どーしたの?何かあった?」
「…別にねーよ」
「…そう?顔に書いてあるよ。何かあったって」


顔を逸らしていたが、舞がフッと笑うのがわかった。うっせ。黙ってろ。口に出したかったが何故かそれも今は獄寺にとって億劫に感じられた。舞は彼が何も言わないのを良い事に一人で話し出す。


「辛気臭い顔だね〜。そんな顔してたらツナ君に心配かけちゃうよ」
「!」
「ツナ君の右腕だったら無駄な心配は…」
「おい」


思わず口を噤んだ。言葉の続きは言えなかった。否、言うことが許されなかった。そのくらい獄寺の顔は今までにない程、眉間に皺が深く深く刻まれ狂気のようなものが醸し出されていた。でもその瞳は少し憂いが見えて、張り詰めた空気に舞は、何よ…と反抗をした。


「テメェに何がわかる。人のことに首突っ込みやがってうぜぇんだよ。オメェは10代目の心配だけしてろ!」


獄寺は逸らさずに舞をじっと睨んだ。睨まずにはいられなかった。こんなの唯の八つ当たりだ。それもわかってる。でも今は10代目のことなんて聞きたく無かったのだ。


「……」
「……」


沈黙が続いた。舞は少し俯いた所為で顔に前髪がかかり、その表情は獄寺にはわかんなかった。…するといきなりなんの前触れも無く舞がバッと顔を上げた。その表情に驚く。てっきり泣いていると思ったからだ。でも正反対に舞の顔はーー満面の笑みに溢れていた。


「ハハハっ。獄寺ってわかりやすいね」


予想外のことで獄寺は目を丸くしてしまう。でもすかさず睨みを聞かせ、「なに笑ってやがる」とドスの効いた声を吐いた。


「ツナ君のことで悩んでるのがバレバレだよ。獄寺は絶対に嘘吐くの向かないね」


正直すぎる!とゲラゲラ笑う舞に獄寺は眉間に青筋を立てた。口元を引き攣らせて、ワナワナと震えている。今にも怒鳴りそうだ。


「ふざけんな」
「「馬鹿か、テメェは」」


2人してピッタリとハモった声。舞は、してやったりと目を細めて声を上げて笑った。獄寺は少し恥ずかしそうにキッと睨みをきかすがもう表情には怒気が無いように思えた。その笑顔に毒気を吸い取られたようにどうでもいいように感じてしまったからだ。獄寺は馬鹿らしくなり、横を向いて紫煙をフーと吐いた。



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