「おしっ。今日は小僧にトレーナーまかすからな」
「(山本ぜってー野球の練習のトレーニングごっこだと思ってる)」
「武君頑張って!」
有言実行。リボーンによって招集されたツナも含め彼等は並盛中のグラウンドへとやって来ていた。今日は開校記念日で学校は休み。トレーニングするにはもってこいの日だ。
「…というよりリボーン。なんで、あたしこんな格好なの?」
舞は自分の姿を再度見直しながら問うた。今の舞はチアダンスの短い丈のワンピースを身に纏い、手には応援用のポンポンを持っているのだ。そして、いつもは降ろしている髪をポニーテールにしている。これは全てリボーンからの指示であった。
「ファミリーのためにしっかりそれで応援するんだぞ。今回は過酷なトレーニングだからな」
「で、でも…少し恥ずかしい」
舞の中でこの服に対する羞恥心があった。デザインは兎も角、スカートの長さだ。少し激しめに動けば下着が見えてしまうだろう。頬をピンクに染め、手に持つポンポンで顔を埋めた。
「ちゃんと似合ってるから安心しろ。お前もそう思うだろ?ツナ」
「ええっ!俺!?」
「ツナ。マフィアは女を大切にするもんだぞ」
「俺は似合ってると思うぜ。その格好」
「お、俺だって…!そう思ってるよ!」
「!」
この服を着るのも恥ずかしいが、正面切って褒められるのもなんとも擽ったいものだ。舞は俯きながら、「あ、ありがとう」とゴニョゴニョ呟いた。そしてなんとかこの服を着て応援する覚悟を固めた。
「さーて。何すっか?」
「先ずはピッチングだ。あの柱の所目掛けて投げてみろ」
「ハハハ。可愛いボールだな。オッケー」
リボーンが山本に渡したのは手にすっぽりと収まるサイズのボール。それを柱に書いてある罰印に向かって投げろと指示をした。ツナはトレーニングの内容がちゃんと野球の練習であったことに思わず拍子抜けした。リボーンのことであるからもっと突拍子のないことをやると思っていたのだ。
「行くぜ」
小さな玩具のようなボールでも真剣なのは変わりない。ボールを構えるとスッと目付きを変え、思い切り腕を振り翳す。
ーー…ガァンっ。
柱が粉砕した音が校庭で鳴った。ツナは開いた口が中々閉じない。投げた山本も不思議そうに首を傾げ舞は、すごっ!と目を輝かせた。リボーンだけはニッと口角を上げる。そう。リボーンが山本に渡したのはただのボールではなく、ボンゴレ企画開発部に発注していた岩も砕く「投の武器」マイクロハンマーだったのだ。
「んなーーっ!?お前、山本に武器持たせよーとしてんのーー!!?」
顔を青ざめさせながら焦るツナ。彼はリボーンが山本をマフィアの世界に引きづり込もうとするのをどうしても阻止したいのだ。必死にリボーンに訴えるが、そのツナの肩を山本がポンと叩き、ヒソヒソと耳打ちをした。
「おいツナ。よく見ろって」
「えっ」
「あの柱。発泡スチロールだって。あーやって、俺に自信を持たせよーとしてくれてんのかもな」
次行くぞ。よーし頼むぜ、トレーナー。リボーンと山本が和気藹々でトレーニングを励もうとするなか、ツナはとたとたと粉砕した柱に近付いた。
「………」
柱の破片の傍でしゃがみ一つそれを手に取る。そして、何とも言えない表情を浮かべた。
「(ちがうよ山本……めっさ、コンクリートだって!)」
やはり山本は超の付く天然だった。否、これは天然という言葉で括ってもいいのかと思うくらいだ。すると、背後から「10代目ーーっ!」と叫ぶ声が。ツナをその呼び名で呼ぶのは1人しかいない。
「あ、獄寺」
「ゲ。お前もいんのかよ、チビ女」
明らかに自分を見て表情を変えた獄寺に舞は頭にカチンときた。何よ。あたしが居たっていいでしょ、と舞が眉を吊り上げる。すると獄寺は何かに気付いたようにフッと鼻で笑った。
「つかテメェ。なんだそのふざけた格好。ククっ」
「うっ」
「幼稚園のお遊戯会でもやんのか。チビだから混じってもバレねーよ。良かったな」
「!」
馬鹿にしたように笑う獄寺に舞は眉間に青筋をたてた。顔を俯かせながらスっと懐の自身の武器に手が伸びる。しかし、それを目撃したツナが2人の間に「ストップストップ!」と慌てて入った。
「ツナ君!」
「10代目!」
「2人共!仲良く…ねっ!」
ボスがそう言うのであれば止めざる終えない。舞は苦虫を潰したような顔をしながら懐に伸ばした手を止めた。舞からの恨みのような視線を無視し獄寺は、それよりも…とツナに話し掛けた。
「とうとう山本クビっスか?」
「(話作ってきてるーー)」
此処へ来たのもそれを聞くためだったのか、獄寺は今まで見たことの無いほどの輝かしいばかりの笑顔をツナへと向けた。
「ち…ちがうんだよ。リボーンが山本に武器持たせよーとしてて…」
「なっ」
「よぉ」
「ちゃおっス」
10代目とリボーンさんが2人で山本のために…そう考えると獄寺は眉間に皺を寄せワナワナと震え出した。きっと山本の為にツナ達が何かするのが気に食わないのだろう。
「俺は…」
獄寺は明らかに覇気がなくなった声を発しながら、その場でしゃがみ込んだ。
「山本は生えてる草を投げる攻撃とか良いと思います」
「(獄寺君…)」
そこまで山本が嫌いなのか。なんとも適当なトレーニング内容にツナは呆れるしかなかった。ぷちっ。生えてる草をむしり取る獄寺。そんな彼の姿を見て舞も口元を引き攣らせた。
「次の武器はこいつだ」
「な!」
「バット!」
「わぁ。かっこいい!」
リボーンが次の武器として出したのはバット。それを山本は受け取ると、リボーンがグリップの先を見てみろ…と言った。言われた通りに覗いて見ると、バットの先がカパっと開いた。
「なんだ望遠鏡かー」
「(納得しちゃうのー!!)」
「流石リボーンさん。山本にぴったりだ!」
「いつでも遠くが見えて便利かもっ」
「どうやって戦うんだよ!!」
リボーンが差し出したバットが望遠鏡だと知り戸惑い見せるツナ。すると何処から発砲音が。その音と共に山本が一歩、後ずさりギリギリ交わすのであった。
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