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山本トレーニング


冬の澄んだ青空が広がり、雀のチュンチュンという囀りが聞こえる。まだ太陽は姿を見せ始めたばかりの早い時間だ。そんな時間にも関わらず“並盛ボール”というバッティングセンターではカキーンとボールを打つ音で響き渡っている。


「うわぁっ。武君すごい!」


舞は称賛の声を上げた。山本が打ったボールは高く高く飛び、奥のネットまでポスっと当たったのだ。それでも山本は満足せず悔しそうな笑みを浮かべている。慢心せずにさらなる高みを目指す姿に舞は口元を緩めた。努力を惜しまない人間は誰であろうと応援したくなるし、単純にそういう人間が好きなのだ。


「武君すごいね〜。全部バットに当たってる!」
「ハハっ。そんなことねーって。舞もやってみるか?」
「うん!やりたい!」
「じゃあバトンタッチな」


運動することが大好きな舞は迷わず、「やる!」と豪語した。山本と場所を入れ替え、フェンスの中へと入る。野球部の山本と同じスピードでは打てないので少しスピードを落として設定をし舞はバットを構えた。ボールの噴射口をジッと見つめ、ボールが出てくるのを待つ。そして「ボン」とボールが勢いよく投げ出された。それをちゃんと見極め、ここだ!というところでバットを振った。


「ぬおっ!」


カキーンとバットにボールがちゃんと当たった音が響いた。ボールは高い弧を描き、遠くまで飛んでいく。当たったことが嬉しくて舞はフェンス越しにいる山本に振り返り、「当たった!」とキラキラとした笑顔を見せた。そんな舞に山本も笑顔を返し「ナイス」と親指を立てた。



▽ ▲ ▽



「しかし大したもんだな。中坊のくせして130キロの球ガンガン、ネットまで運んじまってさあ」
「ハハハっ。まだまだだって」


今日は山本に誘われ為、舞は一緒に此処まで来ていた。バッティングセンターは来たことがなかったので舞は誘われると、ひとつ返事で承諾した。初めて来たバッティングセンターは思いの外楽しく舞は山本と共に終始はしゃぎっぱなしであった。2人は気が済むまでバッティングを楽しみ、今は山本と顔見知りである此処の店長と談笑している最中だ。舞はベンチに座りながらタオルで薄っすらとかいた汗を拭い、ゴクリと喉に飲み物を流した。


「変化しねー球ぐらい全部狙った所に打てねーとな」
「へっ。とんでもねーことを簡単に言ってのけやがって」
「武君は運動神経の塊だからねー」
「そーゆー嬢ちゃんだって楽々と120キロの球打ってたじゃねぇか」


女の子であの球、打ってんの見たの初めてだよ。店長が凄いと褒めると舞は照れたように「えへへ」とはにかんだ。


「そのためにトレーニングをするぞ」
「「?」」


いきなり声を発したのは、野球のユニフォームを身に纏ったリボーン。一体いつからいたんだろうか。いつもながらの神出鬼没さに舞はクスリと笑みを零した。


「ちゃおっ……ス、」
「お、小僧じゃねーか」
「おはよう。リボーン」


何故だか途切れ途切れの挨拶。そんなリボーンに舞達が話しかけると彼は、どたーっと横に倒れた。目は開いているがどうやら寝ているようだ。きっと赤ん坊にはまだきつい時間だったのであろう。自由人過ぎるリボーンの行動に山本と舞は顔を見合わせ一斉に笑った。


「無理して起きてたんだな。ハハハ。面白ぇ!」
「ははっ。こんなとこで寝ちゃうなんて…リボーンらしいっ」


そんな舞達を店長がニマニマとした様子で眺めていた。そして何を勘違いしたのか爆弾発言をかました。


「なあ。2人は付き合ってんのかい?」

「え?」
「な、!?ち、ちげぇよ。そんなんじゃねーって」


その言動に異常に反応したのは山本。不意打ちであったため心臓の音がドクンと大きく跳ねた。直様、否定をするが店長のニヤけ顔が治ることはなかった。


「ふーん。そうなのかい。じゃあこれからに期待だな。頑張れよ、兄ちゃん」
「だ、だからちげーって言ってるだろ」


これ以上余計なことは言わないでくれ。山本は背中に嫌な汗をかきながら、店長の言葉を阻止しようと前のめりで否定を続けた。だが何を言っても彼には通じないようで口元はだらしなく緩みっぱなしだ。もしかしたら自分の気持ちがばれただろうか。山本はドキドキとしながらチラリと舞を横目で見た。しかし舞はキョトンとどっちともつかぬ表情をしており、気付いたか、気付いてないかは山本にもわからなかった。


「その辺でストップ!武君とあたしが付き合ってるなんて、武君に失礼なので止めて下さい!」
「「は!?」」


店長と山本の声が見事ぴったりとハモった。山本の心配など杞憂に過ぎない。彼女は山本の気持ちなど全く気付いてはいなかった。寧ろ、自分なんかが山本と付き合っているなんて烏滸がましいとさせ思っていたのだ。気持ちがバレなくて嬉しいような、そんな風に言われ悲しような、山本はなんとも複雑な気持ちとなった。そんな山本の姿を見て、事の発端である店長が密かに山本に対して謝るのであった。



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