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バレンタインデー


今日は1年に1度、女の子が自分の好きな男の子にチョコレートを渡して気持ちを伝える聖バレンタインデー。この日の為に女の子は数日前から準備を施し、想いが届くことを祈りながら一生懸命にチョコレートを作る。バレンタインデーとは女の子にとって決戦の日とも言えるだろう。そんな女の子の闘いを舞は今、目の当たりにしていた。


「山本君チョコ貰って〜」
「頑張って作って来たの!」
「獄寺くーん!」
「チョコ食べてよ〜」
「貰ってくださーい!」


教室の2箇所に群がる女の子達。その中心となる人物が山本と獄寺である。朝、この光景を見た時には流石に驚きが隠せなかったが時は既に放課後。休み時間の度に女子が波の様に押し寄せるので今では最早、呆れしか感じられなかった。


「(よくこんなに女子が集まるな)」


全校の女子全てがこの教室に訪れているのではないかと思わせるくらいに女子の数は凄まじいものであった。それにしても対照的な2人だ。舞は、この集まりの渦中となっている人物を眺めていた。山本は全ての女子から嫌な顔一つせず爽やかな笑顔でチョコを受け取っていた。対する獄寺は全ての女子を邪険にし、「てめーらついてくんじゃねえ!」と悪態を吐いている。この正反対の2人が何故同じくらいの人気があるのか舞にはわからなかったが、帰り支度をしながらバックの中に入っている物をチラリと見た。


「(あんなに貰ってるから、いらない…かな)」


舞も一応チョコは用意して来たのだ。勿論手作りで。周りの女子達のように特別な感情を抱いているわけではないがいつものお礼も兼ねてだ。朝から渡すチャンスを伺っているが今日は1日中、女子がひっきりなしであったので未だ渡せずにいたのである。だが、ここまで来るとこんなにチョコを貰っているのだから自分のはいらないのではないかと考え、この際ボスであるツナと渡せる人だけに渡そうと教室に残って帰り支度をしているツナへと歩み寄った。


「ツナ君!」
「ん?どうしたの?」
「これ、はい!」
「ええ!これって!?」
「チョコだよ。いつもお世話になってるお礼!受け取って貰えるかな?」
「も、勿論だよ!ありがとう!!すっごく嬉しいよ!(うわぁ。母さん以外で初めてチョコ貰った!!)」


ツナが喜んでくれ舞も嬉しそうに口元を緩ませた。そして、もう一つチョコを渡した。これはリボーンにあげるものでツナから渡して欲しいと頼むとツナは快く引き受けてくれた。舞はお礼を言うとツナに別れを告げて教室を後にした。彼女が真っ直ぐ向かうのはある一室だ。肩にはバックを掛け、中にはチョコレート。言わなくてもわかるだろうが今から彼女はチョコを渡しに行こうとする最中なのだ。目的の場所に辿り着くまでにすれ違う生徒はやはりいつもより覇気が漲っているように思える。バレンタインデーとは凄い日だと、少し感心させられながら舞は歩く足を少し早めた。

辿り着くと目の前には普通の教室とは違う重々しく立派な扉。目的の人物はきっと此処にいる筈だ。舞は扉をトントンと軽く叩き、「星野舞です」と述べた。すると直ぐに「入りなよ」と許可を貰ったので閉ざされた思い扉を舞は開けるのであった。


「急に来てすみません」
「構わないよ。今日は何の用だい?」
「これを渡しに来たんです」
「?」


雲雀はソファに腰掛けており、立っている舞を見上げるような視線で此方を見た。そんな雲雀に挨拶すると、彼女はゴソっとバックから物を取り出しそのまま雲雀に差し出した。それを受け取ると彼は、それが何だかわからないと言った風に首を傾げた。その様子に舞はキョトンと目を丸くした。もしかしてバレンタインを知らないのだろうか。


「今日はバレンタインなんです」
「バレンタイン?」
「はい。女の子が男の子にチョコを渡す日のことですよ」
「へえ。じゃあこれはチョコなのかい?」
「雲雀先輩にも日頃お世話になっているので」


食べて下さいね、と舞が笑えば雲雀は「ああ」と頷きを見せた。受け取って貰えたことに満足すると長々居座っては迷惑になると思い、この場から直ぐに退散をすることに決めた。そして、舞が出て行った後に応接室へ入って来た草壁が風紀委員長の雲雀を見て今日は機嫌が良いなと思ったのは誰も知る由がなかった。



▽ ▲ ▽



「(ツナ君にも先輩にも渡せたし…もう帰ろっかなぁ)」


チョコは手元に後2個あるが渡す手段が無い。やはりあの2人には渡すことはできないと諦め舞は帰宅するべく靴箱へと向かって行った。すると背後から「舞!」と自分の名を呼ぶ声が聞こえ彼女は後ろへ振り返るとそこには先程諦めた人物の1人が佇んでいた。


「武君!」
「よお!もう帰んのか?」
「うん。武君は?」
「俺はもう少ししたら帰るぜ」
「そっか」
「ああ」
「「……」」
「武君…?」


まだ帰らないのであれば舞は先に帰ろうと思ったのだが山本が此方を見て中々立ち去らないので舞は、何かあるのだろうか…?と不思議に思い彼の名を呼んだ。すると彼は少し言いづらそうに頬をポリボリと掻きゆっくりと言葉を紡いだ。


「いや〜。舞はチョコ作ってねぇのかなって思って」
「チョコ……?、、あっ!」


先程までそのことを考えていたのに本人を見てすっかりと忘れていた。山本の言葉に舞は思い出し急いでチョコを取り出すと「はい!」と彼に差し出した。


「遅れてごめんね。渡すチャンス見つからなくて」
「舞から貰えねぇかって少し期待してた。まじサンキューな。すっげぇ嬉しい」
「えへへ。喜んで貰えて良かった」


チョコ沢山貰ってたみたいだから渡すの迷ってたんだよね、と舞が言うと山本は急に焦った様な表情になり慌てて舞との距離を詰め両肩を掴んだ。一体どうしたのだろうか。何故か近くなった山本との距離に彼女はドキンと心臓を高鳴らせ、掴まれている肩から温かさが伝わってきた。


「そんなわけねぇだろ!」
「え……」
「俺はお前から貰ったやつが一番…」
「武…君、?」


いつもとは違う真剣で熱っぽい表情。初めて見る山本の顔に舞は戸惑いながら彼の名を呼んだ。すると山本は正気になったのかハッと我に返り、今更に2人の距離の近さに慌てて掴んでいた手を放し後ずさった。そして「わ、悪ぃ」と短く謝るのであった。きっと無意識だったのであろう。口元を手の甲で押さえ自分が何故こんなにも感情的になってしまったかわからないと戸惑いの表情を見せていた。そんな先程と違う子供の様な山本に舞はキョトンとしたが直ぐにクスリと笑みを溢した。


「ありがとう。後、ごめんね?武君があたしのはいらないんじゃないかって卑屈になってたんだ。きっと、素直に渡せる女子達に嫉妬してたんだと思う。だ、だってあたしも武君の友達…だから」


段々と話している内に恥ずかしいことを言っているような気がして舞はどんどんと顔を俯かせ、それに比例するように声も小さくなっていった。だから、"友達"という言葉を聞いて、山本が少し反応したことには気づかなかった。


「じゃあ、あたし行くね!武君バイバイっ!」


と言いながら舞は足早に去って行った。残された山本は舞から貰ったチョコを見つめ、彼女の先程の言葉を思い出した。


「友達か…」


そう。今の2人の関係はそれ以下でもそれ以上でも無い。それなのに、山本はその"友達"が自分の中で引っかかったことに気付いた。そして先程、自分が意識してもいないのに感情的になってしまった。これらのことから導かれる答えはひとつ。天然な山本でも己の気持ちに気付いたようだ。再度チョコを見て、山本はまるで自分が野球でホームランを狙うような好戦的な表情をするのであった。


「(先ずは友達から脱出しねぇとな)」



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