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ビアンキが「逃げなさい」とエンツィオのことを危険視したが実際は危険ではなかった。エンツィオは仁王立ちしたまま動かず空を仰いでいたのだ。やはりこの時期は冬眠の頃で動きが鈍くなっているのだろう。しかし、襲ってこない、と安心したの束の間。エンツィオは「ぐかーっ」と鼾(いびき)を立てその巨体を大きく傾けさせた。エンツィオの影を踏んでいる者達が慌てふためく。しかし勢いよく倒れてくるエンツィオから逃れることは難儀であった。


「うわぁあ!!」
「!」


ツナが叫んだその後、バターン…とエンツィオは地面に突っ伏した。舞は持ち前の動体視力の良さと運動神経でエンツィオが倒れる合間に抜け出し、なんとか逃れることが出来た。「危なかった」と呟き、周りを見渡すと雪合戦に参加していた人物はツナ以外残ってはいなかった。


「ツナ君!」
「あ、舞ちゃん!もしかして残ったの俺達だけーー!!?」
「そうみたいだね〜」


危機一髪で逃れたのだろう。まだ表情は恐怖で硬くなっていて周りの状況も上手く飲み込めてはいなかったツナに舞は相変わらずの軽い口調で肯定をし、ヘニャっと笑った。


「強運もボスの資質だぞ」
「あのラジコン捕まえてケリをつけてこい!」
「え!?」

「そーしてやれ。でないと皆の魂も浮かばれないぞ」
「勝手に殺すなー!!」


リボーンとツナのコントの様なやり取りに舞は声を上げて笑った。そこで背後からタイヤのスキール音が聞こえ来た。その音がした方向へと振り向き、ツナへ声を掛けた。


「ツナ君あそこ!」
「あ。いた!レオンturbo!!」
「ツナ君いってらっしゃい!!」
「え?舞ちゃんはいいの?」
「うん!やっぱりボスが勝たなきゃ」
「さっさと行きやがれ。ダメツナ」


最後はリボーンの一言によりツナは大きく地面を蹴って前進した。これで勝っていいのか。後で恨まれないだろうか。ツナはそんなことを頭で気にしながらレオンを追いかけた。どんどんと狭まる距離。あともう少しだ、とツナが手を伸ばしたその時。積もっていた雪に足をとられ、派手に転んでしまった。「痛てて」と打ち付けた箇所を摩りながらツナはゆっくりと体を起こした。そして視界に広がったものに目を大きく瞬かせた。


「何これ?後そのデカい亀」
「雲雀さん!!」


目の前にはレオンturboを片手に肩に掛けている学ランを靡かせている我が中学の風紀委員長。突然の雲雀の登場にツナは狼狽え口を吃らせた。何故、日曜にこの人がいるのだろうか。言葉にはできないがこの場にいることが不思議で堪らなかった。すると意図を汲んでくれた…とは言い難いが、雲雀の方から答えを言ってくれた。


「せっかくの雪だ。雪合戦でもしようかとね」
「(雲雀さんも〜!!?)」
「といっても群れる標的に一方的にぶつけるんだけど」
「(なんでこの人捕まんないのー!!?)」


改めて雲雀の唯我独尊な性格を知り、ツナは声にならない声で何度も叫んだ。否、声に出した途端に彼から咬み殺されてしまうだろう。すると不穏な空気を打ち破るような高い声が2人の耳に聞こえて来た。


「ツナくーん!怪我してない!?」
「え」
「……」


駆け寄って来たのは救急箱を持った舞。その表情は心配の気持ちで溢れており、その時に自分が転んだ心配で来てくれたのだとわかった。と言っても先程派手に転んだことなどツナはもう覚えていなかった。それくらいに雲雀の登場は衝撃的だったのだ。しかし舞はツナが転んだのは目撃すると、「うわぁぁ!」と自分が転んでもいないのに叫び急いで救急道具を取りに行ったため、雲雀がいることに気付きはしなかった。


「骨折とか、捻挫とか………って、………雲雀先輩…?」
「やあ。久しぶりだね、小動物」
「あ、お久しぶり…です」


舞の素振りにツナは一瞬、首を傾げた。舞の瞳には明らかに動揺が伺えたから。でもその疑問は己の中での解決で終わった。いくら舞でもあの雲雀のいきなりの登場では動揺もするだろうと考えたのだ。そして、その結論に至った理由も彼女が動揺したのが一瞬だけで直ぐにいつもと同じ笑みを浮かべたからだ。


「雲雀先輩も雪遊びですか?」
「勿論。雪を一方的に当てるだけのね」
「うわっ。それって犯罪ですよ!捕まります!」
「僕の前で群れてる方が悪い。そもそも僕が捕まるわけないだろう」
「、ああ。警察まで風紀委員の監視下なんですね…」


あの雲雀と普通に話しをしている舞の凄さにツナは感服するしかなかった。ここまで雲雀に怖気づかず物言いできる人物がこの学校にいるだろうか。否、きっとこの並盛にもいないであろう。ツナは口を挟む訳にもいかず2人のやり取りを体を小さくして聞く他なかった。


「風紀委員のお仕事はいいんですか?」
「そうだね。まだ溜まってるからそろそろ行くよ」
「手伝いましょうか?」
「ワオ。君が手伝うなんてどういう風の吹き回し?」
「気分ですよ。気分」
「…まあ、いいよ。じゃあ行こうか」
「はーい!ツナ君バイバイっ!」
「これも返すよ」
「へっ!?」


ツナに笑顔で手を振る舞と持っていたレオンを返す雲雀。いつの間にか彼等は揃ってどんどんと小さくなっていき、ツナは驚愕と動揺で挨拶を返すことはできなかった。



▽ ▲ ▽



「で、僕に言いたいことがあったんだろう?」


彼女の行動の意図が全てわかっているかのように雲雀は声を紡ぐと舞はふんわりと口元に弧を描いた。


「ねぇ、先輩。あたしはあたしのままで行きます。もう戻れない所まで来てるんだから、あたしはそれを貫く」
「ただの意地みたいに聞こえるけど?」
「はい、意地だと思います。でもそれが私の全てだから。あたしの信念です」
「ククっ。君は本当に面白いよ。他の草食動物とは違って。君がそう言うなら僕は何も口にしない」
「ありがとうございます」
「ただ…」
「?」
「潰れないでよ」


その言葉を聞いて舞は目を見開き、静かに瞳を閉じた。そして緩慢に開いた双眸には一切の揺るぎが無く、口元には柔らかい弧を描いた。


「当たり前です。あたしは闘います」


その言葉にどんな意味があったのだろうか。きっと、雲雀と舞にしか理解できないのであろう。音が他に何も聞こえない応接室はまるで2人だけの空間のようであった。自分を除いて相手しかいない。しかし、その空間がなんだか心地良く立ち去りたいとは双方、微塵を感じないのであった。



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