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お正月


空の雲が形を変えながらゆっくりと流れていくのに対し時は瞬く間に過ぎ、長いようで短かった1年も終わりを告げて新たな年を迎えた。世間では正月ともなると忙しなくなるものだが3日を迎えてしまえば次第に落ち着き始める。

舞は一人暮らしのため正月が特別に忙しいというわけではなかったが、今日は家でゆっくりしようと決め冬休みをのんびりと満喫していた。そこで携帯が、ピコンと音を鳴らす。それに反応するとキョロキョロと見渡すが目的の物を見つけ一旦行動を静止させた。


「(うーん。……遠い…)」


と言っても決して遠い場所に置いてあるのではない。精々2メートル先という程だ。だがその微妙な距離が億劫に感じられた。普段、彼女はそこまでの面倒臭がり屋ではないが、原因はきっと舞が入っている炬燵の所為であろう。冬の醍醐味と言える炬燵は人々を怠け者へと退化させる。それは彼女にとっても例外では無く、炬燵から出ないギリギリの所から携帯へ向かって手を伸ばした。


「…ぬぬ。……あと、もう……ちょい!」


後、数センチ。だがどうしても届かない。必死に腕を伸ばすが後もう少しの所で手が空回りしてしまう。さっさと炬燵から出て取ればいいのだがこうなっては最早意地だ。


「……………はぁ」


粘ってはみたものの届かないと理解した舞は力を入れていた手を脱力させ溜息を吐いた。行き場の無い手がなんとも寂しい。闘いを終え、炬燵から出ると冷たい空気に体をブルリと震わせる。そうして数歩歩き携帯を手に取ってメールの内容を確認する。


「えーっと……なんだろ?」


これで迷惑メールであったら拍子抜けだ。それは嫌だな…と思いながら見ると差出人から迷惑メールではないことに先ずホッとした。そして、内容を読み上げていくと舞は口元を緩ませ、すぐさまに返信をした。防寒具を身に纏い最小限にの荷物を繕い身だしなみを整え彼女は家を飛び出したのであった。



▽ ▲ ▽



川がせせらぎ、冷んやりとした空気が頬を刺す。舞達ボンゴレファミリーが集うのは並森の河川敷。彼女達はリボーンによって招集されたのだ。


「はひー!舞ちゃんとってもビューティフルです!大和撫子って感じです!」
「うん!とってもよく似合ってるよ!」
「…へへっ、ありがとう」


ハルと京子に褒められ舞は、はにかみながら笑った。彼女はツナの母である奈々に着付けてもらい黒地に牡丹の花が散りばめられている着物を身に纏って、いつもはおろしている髪をアップでまとめている。それだけでもいつもとは印象が全然違い周りにいる男性陣も息を呑んだ。


「舞すっげー似合ってるぜ」
「極限に綺麗だぞ!」
「武君も先輩もありがとうっ!」


たくさんのお褒めの言葉を頂き舞は花のように綻んだ。そんな舞の様子を何も言わずに横目でチラチラと見つめている1人の男がいる。それは、あの屋上の一件から舞と中々話すことができなくなった獄寺であった。何故だか彼女のことが気になってしょうがない。自分でも気にかけないようにしようと思うものの気づけば視線が彼女を追っている。そしてその所為なのか、彼女に妙な感情を抱くようになっていた。


「(あいつと前に、どこかで会ったような気がしてならねぇ)」


無論、会ったことがある記憶など微塵も無い。だが彼女を見ていると懐かしような、切ないような気持ちにさせられるのだ。そして彼女の涙している姿を見たからであろうか。今までと舞は同じように笑っているのだがそれに対して違和感を感じるようになっていた。


「(…なんで、あいつは笑ってんのに泣いてるように見えるんだよ。)」


笑ってはいるが泣いてるように見える。それは矛盾で正反対のようであるが獄寺にはそう見えて仕方が無かった。そんなことを頭で巡らせていると山本が声をかけた。


「獄寺も似合ってるって思うだろ?」
「!…はっ!?」
「だってさっきから舞のこと見てるしな!」
「な!んなわけあるか!野球馬鹿!!」


何言ってんだ、と獄寺は山本を睨みつけるが毎度同じくヘラヘラと笑うので、舌打ちをしイラつきながらタバコを咥え火を灯した。紫煙を吐き出した視線のその先に獄寺と他の者と談笑していた舞の瞳が交じり合う。舞は獄寺を目で捉えると、一瞬だけ動きを止めたがすぐに口元に弧を描いた。


「……どう?似合ってる?」


獄寺の前まで歩き、その着物を見せるようにクルリと回り袖を翻した。獄寺はそんな舞を見て、一瞬動きを止め目を見開いたが、やはりいつものように悪態しかつけなかった。


「……まぁ、孫にも衣装って感じだな」
「なによっ、それ!?褒めてないじゃんっ!」
「うっせぇ!それで充分だろ!!」


また2人の言い合いが始まったと周りは微笑むが、獄寺は話をしながらも不思議でしょうがなかった。自分と彼女の相性は悪い。普段から喧嘩ばかりであるし獄寺自身も別に気にしていなかったがそれはどうでもよいことであった。2人はその程度の関係だ。獄寺はそう考えていた。それに、この間の一件で2人の溝は深まったことなど双方がわかっている。それでも尚、自分に不自然に感じる笑顔を振りまく彼女の意思が読み取れなく彼女に対する疑念は益々濃くなるばかりであった。


「(一体、何を考えてやがる…)」



▽ ▲ ▽



そして何故、呼び出されたかというと"ボンゴレ式ファミリー対抗正月合戦"を行うためだ。これは、同盟ファミリー同士が戦いその年のファミリーの意気込みを表明するボンゴレ年始行事。各ファミリーの代表が正月にちなんだ種目を競い合いその総得点で勝敗を決め、勝ったファミリーには豪華賞品が、負けたファミリーは罰金1億円というなんとも無茶苦茶な伝統行事だ。


「勝っても負けてもうらみっこなしだぜ、ツナ」
「審判は俺だぞ」
「なんでこんな状況になってんの〜〜!!?」


ツナの抵抗の叫び声も虚しく消え、遂にファミリー対抗戦の火蓋が切られた。ちなみに相手はディーノ率いるキャバッローネファミリーである。

一回戦目はおみくじ。それぞれに点数がついており、高いおみくじを引いた方の勝利だ。この木が抜けるような勝負をすると名乗り出たのは常時死ぬ気男の笹川了平だ。


「俺に任せろ!俺は占いなんて信じぬ。なぜなら運命は自分で切り開くものだからな」
「お兄さん!!」
「そしてこれが俺の!!やり方だぁああ!!」


気合いたっぷりな了平はなんと片手で引けるだけのおみくじを大量に掴んだ。大量得点を狙い一気に引き離す算段であったのだが、今年の運気は最悪なのであろうか。引いたおみくじはどれも大凶や凶ばかりで−17点という最初からピンチのスタートだ。相手のキャッバローネは中吉を一枚引き、点数は1対−17となった。


「何やってんだお前は!」
「わぁ…こりゃ大変だぁ」
「(いきなりピンチだ〜っ)」


第2試合目は羽根つき。勝てば20点という逆転のチャンスだ。どうしてもこの勝負は勝たなければならないツナはスポーツ万能の山本に泣きつきながら頼んだ。


「バトミントンみたいなもんだろ?」
「キャッバローネなんてぶっとばしてこい」
「武君ファイトっ!」


獄寺や舞に激励を受け、山本の試合が始まった。彼の相手は元プロテニスプレーヤーで最初から強烈なスマッシュが放たれツナは口をあんぐりとさせた。だが、山本は焦ることなく冷静に羽を見極めお得意の野球フォームでばっちり打ち返した。ボンゴレファミリー達は、わぁ!と歓喜したがこれは野球ではなく羽根つきである。それに気づいた頃には山本が打った羽は遥か彼方遠くの方まで飛んでいた。


「アウト」
「わりーー」


勿論、山本の負けである。点数の差は更にひらき21対−17。着々と1億を支払う道を辿っていた。その後もボンゴレファミリーの失態は続き、両ファミリーの点差を開くばかりでツナの精神的疲労は絶えなかった。


「あーー。どーしよー!このままじゃ1億円借金だ〜〜!一生、借金地獄だ〜!!」
「ツナ君落ち着いてっ!」


頭を抱えて狼狽えるツナを舞は必死に慰めた。しかし今のツナにはそんな言葉は届かず、彼に助け舟を出したのは対戦相手であるディーノだった。


「考えてみたらちょっとシビアすぎるな。大人対子供だ。少しハンデをやってもいいぜ。可愛い舞の着物姿も見れたし、オマケでな」
「「ディーノ(さん)!」」
「それもそーだな。じゃあ今までのはチャラってことで」
「おい!」
「うそーーー!!!」


今までの勝負の意味はあったんだろうか…?と舞は苦笑するが、リボーンの独断と偏見でルールは改変され次の勝負で勝ったファミリーが優勝となり負けてしまえば10倍の10億円を支払わなければならないこととなった。最後の勝負はファミリー全員参加のもちつきだ。リボーンに美味しいあんころ餅を食べさせた方の勝ちっ。これはボンゴレファミリーにとって大きなチャンスだ。


「10代目!ここらで1発大逆転といきましょう!」
「この勝負いけるぞ〜〜っ!」
「ハルちゃん、舞ちゃん。私達も」
「はい!」
「頑張って餡子作ろうねっ!」


皆の今までにはないやる気と本気にツナは、これなら勝てるかもしれない…と希望を胸に宿した。
時間は終了となり、作った物を差し出す。最初はキャッバローネからだが、イタリア育ちのディーノ達は餅の作り方がわからずお世辞でも上手とはいえないあんころ餅でリボーンの評価もイマイチであった。


「(やった!この勝負もらったぞ!)」
「次ボンゴレだぞ」
「うん、これ」


餅が入っているお重の蓋を開けツナは驚愕した。なんと作ったあんころ餅がビアンキの手によってポイズンクッキングとなっていたのだ。途中から参加していたらしく、ビアンキの姿を見た獄寺は苦しみながら倒れた。


「これで逆転負けだー!!」
「どうしてそうなるのよ。料理は愛よ。愛があれば毒ぐらい中和されるわよ」
「な?」
「ビアンキさん…なんて深い言葉なの…!」
「舞はわかってくれるのね。どうぞ、リボーン」


リボーンの危機に両ボスは顔を青くするが、舞だけは目を輝かせてビアンキの言葉は胸に浸透させた。そして、審判であるリボーンはというとーーかつてないほど寝た。それによりビアンキは標的をツナとディーノに移し、両ボス逃亡により勝敗はevenとなった。



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