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夜空に堕ちていく


ツナを探しながら舞は走った。ただ、ひたすらに。移り行く景色には紅葉した色鮮やかな木々が立ち並んでいる。でも舞の瞳にそれらは留まらない。いつだって一番に考えるのは、支えるべき存在であるのは、ボスであるツナなのだから。


「……あっ」


力無くトボトボと歩いている茶色の髪をした少年を遂に見つけた。走る足を早め、舞は彼の名を呼びながら距離を詰めた。


「ツナくーん!」
「…舞ちゃん?」


ツナは驚いたように目を見開かせた。彼女はさっきまでリボーン達と共に居たはずなのに、 どうして此処にいるのだろうか。ツナの目の前に来ると舞は両膝に手をつき「ハァー」と少し乱れた息を整え、顔をツナに向けた。


「ツナ君がなんだか不安そうな顔して帰ったから…ちょっと心配で」


眉を下げながら額に汗を流す彼女を見てツナは胸が締め付けられるような気分になった。彼女の優しさが嬉しくて、痛くて。


「何も心配するな、って言うのはやっぱり無理だと思う。でもツナ君の事はあたしが出来る限り支える。不安なことも一緒に分け合お?」


ーー…だから悲しい顔しないで。


ふわっと花のように微笑む舞にツナは顔を歪ませた。何かが喉から込み上げてくるようで、目頭が熱くなった。まるで彼女が聖母のように全てを優しく包んでくれそうな気がしたのだ。


「俺…」


ツナは拳をギュッと握った。


「俺、嫌なんだ!!本当はボンゴレ10代目にだってなりたくないのに!!いっつも危険なことに巻き込まれてッ!」


ただ、普通に生きたいだけなのに…!と言う彼の心の内からの叫びに舞はいきなりのことで瞳を丸くした。でもだからといって口を挟むことはしない。


「俺はダメツナで喧嘩だって弱いし何の取り柄だってない。なのに毎回どんどん意味わかんないことに巻き込まれて…今回だってそうだ。いきなりあの男は普通に殺しにかかってくるし、怖過ぎだよ」
「ツナ君…」


ツナは力を込めていた拳を緩め、緩慢に俯いていた視線を上げた。でもその表情はいつもより頼りなくてどこか哀しそうで。思わず舞は泣きたくなった。


「でも1番怖いのは、俺の大切な人達が傷つくことなんだ」


その刹那、冷たい風が吹き地面に敷き詰められていた銀杏や紅葉がバサッと空へと舞った。幻想的で美しい光景。でも何処か儚げで、まるでツナの心を写しているようだ。


"大丈夫だよ"


そんな人並みの言葉なら簡単にかけてあげられる。でも、そんな言葉を言ったってツナにかかる重いものが軽くなるわけではないことを舞はわかっていた。だから、怖いと震える彼を抱きしめることしか彼女にはできなかった。



▽ ▲ ▽



「………はぁ」


もう辺りもすっかりと暗くなり空には星が煌めき、存在を露わにしている。舞は最近はあまり来ていなかったブランコに乗り、大きく溜息をついた。


「(…何のためにあたしはツナ君の傍にいるんだろう)」


無力の自分がとても情けなく思えた。ツナを守るため、支えるために自分はいるというのに全くと言っていいほど何の力にもなれていない。


「(ツナ君を守ることがあたしの存在意義なのに。…こんなの必要ないじゃん)」


ツナを守ることが使命だといいながら今の彼に何をしてあげたらいいかもわからない。かける言葉さえも。最低だ、と思った。自分では彼と共に過ごして来た今までの期間、少しでも役に立ってるのではないかと思っていた。でもそんなの己の過信や慢心にしか過ぎなくて、結果…苦しむ彼に何もできなかった。


「…ああ」


力無く声を漏らし、舞はギュッとブランコの鎖を持つ手に力を入れた。そしてポツリと呟き捨てる。


ーー…力が欲しい。


大切な人の心を身体を全てを守ることのできるくらいの大きな力が。そうすれば誰も傷つかない。皆で笑って幸せな毎日を過ごせるのに。


「流れ星にでも願ったら叶うのかなぁ」


夜空を見上げ、ふとそう思う。こんな他力本願なことは本来であればあまり好きではない。でも努力じゃどうにもならないのだ。苦しむツナを今助けたいのだから。


《"力"が欲しいのか?》

「え、」


突如聞こえた声に舞は驚く。周りには自分以外の人一人いないというのに。何故こんなにも近くで声が聞こえるのだろう。空耳…?と舞が不思議に思い首を傾げると再度同じ、低い声が聞こえた。


「俺はここにいるぜ」


その瞬間、舞は瞠目した。目の前にいきなり男性が現れたのだ。まるで空間を引き裂いたかのように突然。


「な、誰?」


狼狽する舞に男はニコリと笑う。すると舞の鎖を持っていた手を解き、己の手を添え跪いた。そして甲に口付けを落とす。


「初めまして、姫。ずっと前から会えることを待ち望んでたよ」
「……?」
「ごめんごめん。いきなりでわかんないよな。でも俺は姫の味方で、ずっと会いたかったんだ」


くしゃり、と笑う男性。不思議な人だが悪い人のようには思えなかった。それよりも星に照らされる瑠璃色の髪と瞳が綺麗で、思わず目を奪われた。


「それに俺は姫が欲しがっている"力"を得る方法も知ってる。だがそれには大きな代償が必要だ。それでも、」


ーー…俺の手を取って力を手に入れるか?


舞は思わずヒュッと息を呑んだ。それはまるで…悪魔との取り引き。はたまた、アダムとイブが禁断の実を口にしてしまった禁忌。それを侵した代償はどちらも大きく、その人物を谷底まで堕としていく。それがわかっていても人は醜く愚かなる存在であるが故にその手を取ってしまうのだ。目がくらむような甘美な誘いに。



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