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永遠をほどくひと


 それは本当に偶然だった。半年前に東京へ引っ越して、もう二度と会うことはないだろうと思った虎杖君を見付けたのは。
 中学卒業式のあの日、一生分の勇気を振り絞って虎杖君と写真を撮ったけれど、彼を見つけた瞬間、思い出にした筈だったあの頃の気持ちが一気にぶり返して。もう一度。もう一度だけ、残ってるありったけの勇気を押し出して声を掛けようと思った。脳裏に浮かんだ、運命という何とも自分本位で身勝手な言葉に賭けて。

「あのっ、スミマセン……さっき虎杖君と一緒に居ませんでした?」









 結局、情けないことに虎杖君を途中で見失ってしまった私は藁にもすがる想いであの時虎杖君と一緒に居た釘崎さんという女性に声を掛けた。突然話しかけたにも関わらず、釘崎さんはとても優しくて、近くにあるファミレスで話すことに。
 初対面の人に自分の想いを打ち明けるのは恥ずかしかったけれど、一つ一つ零れ落ちる言葉の数々は、自分でも驚くくらい嘘偽りのない本音で、嗚呼私まだ虎杖君のこと全然諦めきれて無かったのだと再認識した。

「おい、なんなんだよ」
「オッス伏黒ォ!!虎杖って彼女いるー??」
「は?」

 釘崎さんは自分よりも虎杖君に詳しい人がいるからと同級生の男の子を呼び出してくれた。伏黒君にも事情を話し、一番知りたかった虎杖君のタイプを聞く。アンサーは背の高い子で、これは勝算アリ!!と背中を押してくれた釘崎さんは虎杖君もこの場に来るよう連絡を取ってくれた。うう、緊張してお腹痛い。

「あれ?伏黒もいんじゃん」
「ほんとだ、皆お疲れ様ー」
「はやっ!!!って、何でアンタが羽衣さんと一緒に居んのよ!!!」
「何でって、羽衣さんと映画見る約束してたからだけど。なんか怒ってる?」
「私達これからゴジラvs.パンダを見に行くの」
「何ですか、そのいかにもB級映画っぽいタイトルは」

 虎杖君だ、と胸が高鳴ったのと同時に目に飛び込んで来たのは可愛らしい小柄な女性。彼女はいないってさっき伏黒君が言っていたけれど、二人はどういう関係なのだろう。映画を一緒に観に行く仲、

「あれ、小沢じゃん。なにしてんの?」

 見た目はかなり変わった筈なのに、私だって直ぐに気付いてくれた虎杖君。思い出した。私が彼を意識するようになったきっかけ。

「悠仁君のお友達?」
「あ、中学ん時の同級生っス」
「わあ、じゃあ宮城の時の。あの、初めまして。悠仁君達と同じ学校に通ってます咲下です」
「は、初めまして、小沢と言います」

 二言三言話して、お手洗いに立つ。
 鏡に映る自分は酷く情けない顔をしていた。

「馬鹿だな、私」

 幾ら痩せても、髪型を変えても。
 私は私のままで、昔からずっと私の嫌いな人達と同じ尺度で生きている。虎杖君は私が知らない私を見てくれたのに。そんなもので、虎杖君の気持ちが手に入るわけないのに。

「優子」

 声がした方へ振り向けば釘崎さんの姿があって、その表情から心配で来てくれたのだと分かった。今日初めて会ったのに人が良過ぎるほど優しい。

「一応言っとくけどあの二人なら別に付き合ってるとかじゃないわよ」
「………そう、なんですね。でも咲下さんは関係無いです。いや、ちょっとはモヤッとしたけどこれは自分の問題で」

 私は虎杖君に相応しい人間じゃなかった。なんて、口に出したなら此処で思い切り泣いてしまいそうだ。子供みたいに。声を出して。

「あ、羽衣さん」
「え、」
「ごめんね今ジュース零しちゃって洋服の袖洗いに来たの」

 咲下さんもやって来て、私はどうしたら良いか分からなくなった。会話はたぶん聞かれていないと思うけど、今咲下さんと話せるメンタルは持ち合わせていない。ーーーだけど。

「…………あの、咲下さん。一つだけ聞いてもいいですか」
「ん?なあに?」
「咲下さんから見て虎杖君はどういう人ですか」

 純粋に知りたくなった。咲下さんは虎杖君の隣に居れる人なのかどうか。

「うーん、そうだなあ、どういう人って直ぐに答えを出すのは難しいけど、」

 突然の質問にぱちぱちと瞬きを繰り返す咲下さん。けれど面倒くさがる素振りは一切見せず、少し考えて、ひとつずつ丁寧に言葉を紡いだ。

「私から見て悠仁君はとっても温かい子」

「悠仁君が居るとねそれだけで周りの人達が明るい気持ちや前向きな気持ちになれるの。それはたぶん悠仁君の持ってる人柄もあるんだけど、彼が普段から周りの人達を気遣って、寄り添うような優しさを分け隔てなくくれるから、物凄く温かくて、太陽みたいな子だなって思う」

 そう言いながら柔和に細められた瞳の奥で、虎杖君を想う、充分過ぎるほどの愛が確かに見えたような気がした。
 その気持ちが恋なのかそうでないのかは私には分からないけれど、咲下さんはきっと虎杖君と同じ尺度で生きている人。虎杖君と共に肩を並べて歩いていける人だ。