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秒速を歌え


 昨日も任務今日も任務。私はどうやら気付かない間に学生ではなくブラック企業に籍を置いていたみたいだ。すみません退職希望の社員は此処です。

「大丈夫ですか?」
「あっ、大丈夫。ごめんね辛気臭くて」

 隣で魂が抜けたような顔をしていた所為か気遣い力100%の恵君はすかさず心配の声を掛けてくれる。なんて素晴らしい後輩なんだ。

「いや、平気ならいいですけど。辛くなったら言ってくださいよ。倒れられても困るんで」
「毎回ご迷惑をお掛けして申し訳ない」

 反射的にずいと頭を下げる。恵君はとっても優秀な呪術師だから一緒に任務をすることは少ないけれどそれでも同行する機会がゼロなわけではない。しかもその数少ない中で私に刻まれている記憶はどれも彼に手を引いて助けてもらったものばかりだ。これじゃあどっちが先輩か後輩か分かったもんじゃない。もっと頑張ってよ私。











 一時間前の反省も何処へやら。今じゃそんなもの完全に鳴りを潜めて、恵君の後ろに隠れている。先輩後輩以前にまず呪術師としてアウトだ。

「こ、このラグビー場絶対何か埋まってるよね」
「はい。たぶん死体かと」
「ひえ、普通の学校って物騒…」

 二級相当の呪霊がまるで主のようにラグビー場を見下ろしていて、私は目が合わないよう逸らす。幾ら非呪術師が呪霊を認識できないとしてもこの状況はあまりにも気の毒だ。私だったら死体が埋まっている場所で運動なんか絶対にしたくない。

「其れにしても気配がデカ過ぎる」
「うん…全体に漂ってる感じ。特定できない」

 あくまで呪霊は見ないよう目元に力を込める。けれども特級呪物の残穢はあちらこちらに散乱していて根源を見極めるのが難しい。嗚呼これは骨が折れる何時になったら帰れるだろうかと少し落胆しかけたとき、何やら周りに居る生徒たちが騒がしくなった。

「わっ、凄い」

 皆が注目する場所、私も同じところを見る。すれば一人の男の子が投げた砲丸が空を切りサッカーゴールのポストに直撃したではないか。なんて怪力。

「ねえ恵君見た?あの子凄いパワフル」
「禪院先輩と同じタイプですかね」
「確かに!」

 真希ちゃんパワーの塊だもんなあ。何時もの訓練を思い出して、ふっと口元が緩む。

「「……!」」

 瞬間、二人して勢いよく振り返った。今すれ違った先程砲丸を投げた男の子。間違いない。呪物の気配が明らかに強くなった。彼は、持っている。

「おいオマエ!!って速すぎんだろ!!」
「運動神経抜群だなあ」

 恵君が声を掛けるも目当ての人物の背中は既にうんと小さい。周りの情報によると何でも彼は50m走を3秒で走る超人らしくて、私は落ち込みよりも先に感心の方が勝ってしまった。3秒って世界最速のウサイン・ボルトより早いよね。凄すぎ。

「虎杖悠仁だな」

 一瞬だったけど虎杖君の呪力はすれ違ったときに感知していたから見つけ出すのにそんな苦労はしなかった。ただ彼が居たのが病院だったのは少し驚いたけれど。

「呪術高専の伏黒だ」
「咲下です」
「悪いがあまり時間がない。オマエが持っている呪物はとても危険なものだ。今すぐこっちに渡せ」

 突然の申し出にあまりピンときていない虎杖君。それは至極当然なことだけれどもこちらも何せ時間が無い。虎杖君が持っている呪物が如何に危険なものかかいつまんで説明させてもらった。

「人死にが出ないうちに渡せ」
「いやだから俺は別にいいんだって先輩に言えよ」

 ぽん、と虎杖君が特級呪物が眠る箱を投げる。嗚呼そんな適当な扱い!思わず声が出そうになったけれど箱の中見を覗いて息を呑んでしまった。私達が追ってきたのは箱にこびりついた呪力の残穢。特級呪物である両面宿儺の指が、無い。

「中見は!?」
「だァから先輩が持ってるって!!」
「ソイツの家は!?」
「知らねえよ確か泉区の方…………」
「何だ?」
「そういや今日の夜学校でアレのお札剥がすって言ってたな。え………もしかしてヤバイ?」

 なんてことだ。サアアア、と顔が冷たくなっていくのを感じた。