×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


青空戦争


「棘君の言葉って私達も話せないのかなあ?」

 京都校との交流会も終わり、バタバタと慌ただしい日々がようやく落ち着いたある日のこと。私はふと沸いた疑問を徐に真希ちゃんとパンダ君に告げた。そうしたら「は?」と二人揃って不思議そうな顔をされてしまったけれど。

「何だよ突然」
「今って棘君の言ってること理解できるでしょ?でもそれって本当に棘君の伝えたいことを100%理解できてるのかなあって」
「つまりおにぎりの具で会話して棘の言葉の本質を理解したいと?」
「そう!日本人だって勉強すれば英語が話せるようになるんだからできないことないよね!」

 所謂、第二言語的な立ち位置である。聞き取れるんだから話せる筈!と言い切った私に真希ちゃんは「そうか?」と首を傾げ、パンダ君は「まあ物は試しってことで」と背中を少し押してくれた。
 よーし先ずは1回やってみるぞ…!

「しゃけ、こんぶ」

 すう、と息を吸っておにぎりの具を言ってみる。どうだろう。伝わってるかなあ?

「……………腹減った?」
「ええッ違うよ!今日は良い天気ですね、だよ!」
「違ったか」
「一ミリも掠ってないじゃん…」
「も、もう一回!」
「じゃあ次俺に言ってみてよ」
「うん。ツナマヨ、高菜、すじこ、おかか!」
「長え」
「ええー」
「ふっふっふ俺には分かったね!パンダ君はパンダの中でも世界一!素敵!シビれる!愛してる!って言いたかったんだろ?」
「ほんとか?」
「…………だ、大正解です」
「ねえ何で目逸らすの」
「馬鹿、違うんだろ。ほら羽衣正解は?」
「……正解は、パンダ君の大好きなカルパスを誤って爆発させてしまいましたごめんなさい、です」
「分かるかあああ!!」
「爆発?」
「う、うん…前々からねパンダ君がカルパス好きなのは知ってたんだけどなんかもっと色んなバリエーションがあった方が楽しいんじゃないかって」

 そう考えた私はパンダ君がストックしている中から一箱拝借し、調理を始めた。先ずは何時も同じである食感から変えていこうと細かく刻みミキサーに。それから素朴な味に革命を…!をテーマに有りったけの調味料を入れ、最後こんがり焼こうとオーブンの中へGOした。するとどうだろう。何分かしてからボンッと大きな音がなったではないか。んぎゃっと悲鳴を上げた時にはもう遅い。カルパスは見るも無惨の姿になってしまった。ついでにオーブンもお釈迦である。次のお給料日が過ぎたら買わなくっちゃ。

「きっとデスソース入れたのが原因だと思う」
「……パンダお前命拾いしたぞ」
「ああ、爆発してくれて助かったわ」
「ごめんねパンダ君。カルパス駄目にして」
「いいよ別に。元は俺のためにやってくれたんだし」
「パンダ君…!」
「つーか肝心の会話全然できてねえじゃん」

 た、確かに!やっぱり習得は無理なのかなあと肩を落とす。するとひょっこり、任務に行っていた棘君が姿を見せた。私は「棘君!」と涙目ながら彼に近寄る。

「こんぶ?」
「今羽衣が棘の言葉を理解したいっておにぎりの具で会話する練習してたんだよ」
「でも全然駄目で…」
「てか棘が来たんだから棘に練習相手になってもらえば良くね?」
「なるほど…!」

 パンダ君の言う通り、おにぎり具会話の使い手は棘君だ。他の皆には伝わらなくても棘君にさえ伝われば棘君の言葉を理解していることになる筈…!
 練習相手になってもらってもいいですか、と聞けば棘君は「しゃけ」と快く頷いてくれた。

「よーし!やるぞお!」
「なるべくシンプルで行けよ」
「確かに。初心者なんだから無理しない方がいいぞ」
「うん!」

 シンプルに短く、かつ、棘君に伝えたい言葉。

「………明太子!」

 心の中で決めた想いを発し、棘君のアメジストのような瞳を見詰める。今度こそ伝わってるといいな。高鳴る胸の音を聞きながら、ごくりと唾を飲み、その時を待った。

「………」
「………」
「………………………た、高菜?」

 けれどもやっとの思いで吐き出された棘君の言葉は今までにないほど頼りなかった。あ、あれえ?

「羽衣、棘の奴困ってるぞ」
「失敗だな」
「やっぱり駄目かあ…」
「お、おかか!」
「無理すんな棘」
「羽衣も諦めろ。棘すら理解できないんだから」
「うん…」

 頑張ってはみたけれど、おにぎり具会話の会得はどうやら不可能のようだ。棘君の会話を理解するどころか今まで通りの意思疎通すらできていないんだから、寧ろ退化している。あーあ。できると思ったのに。
 はあ、と溜め息を一つ。すれば棘君が「ツナマヨ?」と緩く首を傾げた。そうだ。まだ何て言ったのか教えてなかった。

「好き、って言ったの」
「「「……………」」」

「あれ?」
「羽衣お前な、あんまそう言うこと軽率に言わない方がいいぞ」
「えっ?私棘君のこと本気で好きだよ?」
「はあ。棘の顔見てみろよ」

 真希ちゃんに言われて、棘君の顔を覗く。すると予想外の表情に思わず「えっ」と声を上げてしまった。だって棘君、びっくりするくらい真っ赤なんだもん。隣のパンダ君は「棘、やられっぱなしだな」とニヤニヤしているし。私そんなに変なこと言った?棘君だけじゃなくて真希ちゃんもパンダ君も大好きなんだけど。頭の中で沢山の疑問符を並べる。
 すると少しだけムスッとした顔の棘君が私に向かって自分の耳をトンと叩いた。え、耳?

「どういう、」

 言葉の続きはそれ以上言えなかった。
 
 そればかりか私は数分前の発言を後悔することになる。真希ちゃんの言う通り、軽率に言うべきではなかった。だって凄い破壊力だ。ドキドキと脈打つ心臓が信じられないくらい速くて煩い。
 なんて、私が軽いパニックを起こしていると棘君は先程とは違う、満足そうな、悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。ああもう!棘君の声が耳から離れないし、顔が熱くなってしょうがない!