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ありふれた奇跡のことを


 交流会1日目にしてはとてつもなくヘヴィで恐ろしい出来事を乗り越えた次の日、私達学生は皆揃って五条先生に召集された。

「っつーわけでさ、色々あったし人も死んでるけどどうする?続ける?交流会」
「うーん…どうするって言われてもなぁ…」

 五条先生の問い掛けに私も緩やかに視線を下げる。そうだよなあ。もう交流会っていう雰囲気じゃないよなあ。まだ傷が癒えていない人もいるし、何より今回の事件で亡くなってしまった人がいる。そんな状況で私達が騒いでも果たして良いのだろうか。

「当然、続けるに決まってるだろう」

 不意に発せられたそんな言葉。皆が一斉に東堂君の方へ視線を寄せる。

「その心は?」
「1つ、故人を偲ぶのは当人と縁のある者達の特権だ。俺達が立ち入る問題ではない。2つ、人死にが出たのならば尚更俺達に求められるのは強くなることだ。後天的強さとは結果の積み重ね。敗北を噛み締め勝利を味わう。そうやって俺達は成長する。結果は結果として在ることが一番重要なんだ。3つ、学生時代の不完全燃焼感は死ぬまで尾を引くものだからな」

 何だかんだとてつもなく説得力のある理由につい聞き入ってしまう。東堂君って物事を俯瞰的に見れる人なんだなあ。失礼だけどちょっぴり意外。

「俺は構わないですよ」
「どーせ勝つしね」
「屁理屈だか一理ある」

 東堂君の意見に皆異論は無いようで、交流会はこのまま続行するという形に落ち着いた。じゃあ例年通り個人戦の組み合わせをくじ引きで決めましょう。なんて、殆どの人がそう思ったけれど「僕ルーティンって嫌いなんだよね」と言った五条先生の陰謀により、私達は野球をすることに決まった。うわあ何だか普通の学校っぽい!











 
 雲ひとつない深い空の下、急遽言い渡された試合は思った以上に白熱していた。皆運動神経抜群だから、本物の野球部が試合をしているみたいだ。しかも真希ちゃんを始めとする東京校の皆は呪力無しにピッチングマシーンと成り変わったメカ丸君のボールを打てるのだから、贔屓目に見ても本当に凄い。私なんて呪力が無かったらきっと目も当てられないほどのポンコツぶりで皆の足を引っ張るだろう。

「じゃあ、次ー!ピンチヒッター羽衣!」
「えッ!!」

 突如五条先生に名前を呼ばれ、瞳をはたと開く。ぴ、ぴんちひったーってあれだよね。代わりの選手って意味だよね。え、私が…??

「こ、今回東京校の人数が多いから私は補欠って言ったのに…」
「いや、補欠だって出番くらいあんだろ」
「というか、あんな堂々と審判が打者指名して良いんですか」
「完璧に悟の私情だな」
「しゃけ」
「羽衣さん、五条先生めっちゃ呼んでますけど」
「いやだあ聞きたくない~」
「羽衣さんファイト…!」

 悠仁君に応援されても無理だ無理だと首を振り、目の前の状況から懸命に目を背ける。けれども結局真希ちゃんから「試合が進まねえから早く行け」と背を押され、重い足を引き摺りながら打席へと向かった。うう、あんなに速いメカ丸君のボールを私なんかが打てるわけじゃないか。補欠だと思ってたから安心して応援に徹していたのに。

「………先生の意地悪」
「やっぱり野球は観てるだけじゃ面白くないでしょ」
「私は充分楽しんでました!」
「まあまあ、じゃあこうしよう。この打席でヒット打ったら僕とのデート権をあげる。何処へ行くも何を食べるもお姫様の自由だ」
「……!」
「どう?やる気でた?」
「お、美味しいパフェのお店に行きたいです」
「りょーかい」
「(青春だな…)」

 自分でもゲンキンだなと思いつつ、そこまで言われたらこれは意地でも打たなくちゃとバッドを持つ手に力が入る。よ、よーし。絶対打つぞ。真っ直ぐ、メカ丸君を見据えた。気持ちはどんなに速いボールでも打てる凄腕バッターである。

「ストライク!バッターアウト!」

 まあそれで本当に打てるかは全くの別問題だけれど。

「皆ごめんね…」

 3本とも見事な空振り。あまりの無能さにただただ申し訳無くて、ベンチに帰って来ても顔も上げられない。だけど悠仁君は「ナイス!全力!」とグッドサインをくれて、その無条件の優しさに胸がきゅうと締め付けられたような気がした。どうしよう後輩が良い子過ぎて辛い。

「………真希ちゃん、私これから野球の練習しようと思う。先輩として素敵な背中を見せられるように」
「いや、話ぶっ飛び過ぎだろ」
「だってあまりにも不甲斐無いんだもん。取り敢えず、素振り一日千本から始めるのはどうかな」
「馬鹿。そんなん始めなくていいから、呪術師としての修行を優先しとけ。野球はああいう得意な奴に任せておけばいいし」
「あ、」

 カキーンと悠仁君の打った打球が空を大きく大きく横切る。ホームランを見るのは生まれて初めてで、思わず「わあっ!」と声を上げた。先輩として情け無いだとか、野球上達への道だとか色々考えていたけれど、ベンチに戻って来た悠仁君とハイタッチを交わせばそんなもの何処かへ飛んで行ってしまう。凄い凄い!かっこいい!
 兎にも角にも、色々あった交流会。その結末は東京校の勝利で幕を下ろした。