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涙の理由を塗り替えてくれた君


 棘君と加茂さんに応急処置程度の反転術式を施した私は途中で西宮さんと遭遇し、一緒に棘君達を家入先生の元まで運んだ。家入先生の指示を受けながら治療に当たっていると、傷だらけの恵君と真希ちゃんがパンダ君に運ばれて来て思わず、ひ、と短い悲鳴を漏らしてしまった。その後直ぐに家入先生が治療してくれたから今は比較的穏やかにベッドで眠っているけれど、強い不安感はまだ拭えていない。

「あの、羽衣さん。くっつき過ぎじゃないですかね?」
「そんなこと、ないです」
「暑いんですけど」
「…私は寒いもん。パンダ君の勘違いだよ」
「いや9月のパンダの毛皮舐めんな」

 そう言われてもパンダ君の身体に回した腕を解こうとはしない。だって、解いた瞬間に何かが壊れてしまいそうだ。

「さっき帳明けたから大丈夫だって」
「……そうだけど、」

 でも悠仁君達が無事かはまだ分からないじゃん。眉を垂れ下げながら、帳が明けた森へと視線を投じる。さっき五条先生の強い呪力があの辺りを駆け抜け、一斉に弾けた。五条先生が悠仁君達を巻き込むなんてこと絶対に有り得ないけど、もし悠仁君達が特級呪霊との戦いで傷付き動けなくなっていたら。

 考えたくもない想像が頭に浮かんだ。ああもう。身体が震えてしょうがない。

「ほら、来たぞ」

 パンダ君の言葉に俯きかけていた視線をはっと上げる。瞳に映るのは元気そうに手を振る悠仁君と野薔薇ちゃん、そしてその後ろには京都校の人達。
 ……良かった。誰ひとり、欠けてはいない。

「タフだなお前等。ぴんぴんしてんじゃん」
「丈夫なことが取り柄なんで!」
「ちょっと、その言い方だと私まで脳筋みたいじゃない」
「いやそういう意味で言ったんじゃあ………って、羽衣さんが泣いてる!?」

 静かに涙を流す私を見て、悠仁君と野薔薇ちゃんは如何して良いか分からないみたいにあわあわと慌てる。パンダ君だけはもう我慢の限界だったかと薄く笑みを浮かべていたけれど確かにその通りだ。私は、ずっとずっと泣くのを堪えていた。
 姉妹校との交流会をしていた筈なのに突然特級 呪霊が現れて、それだけでも最恐なのに、次々と仲間が傷ついていくし、私が知らない所では大切な後輩達が命の危機に瀕しながら懸命に戦っている。そんなの、怖くないわけないじゃないか。
 ああでも、後輩達の前で泣くのはやっぱりみっともないなあ。

「…………なに、してるの?」
「えっと、羽衣さんの涙受け止めようと思って」

 ぼやけた視界の中で見えた光景に私は緩く首を傾げる。手でお椀のようなものを私の顎下で作る悠仁君。それが何を意味するのか分からなくて尋ねれば私の涙を受け止めるための行為だと言う。予想を反する回答に思わず、目を丸くしてしまった。

 でもそれから少しして、ふっと吹き出したように笑う。

「ふふ、そんなの初めて言われた」

 なんて優しいのだろう。その優しさが嬉しくてグッとお腹の底から想いが込み上げてきて、目元がまたじんわりと滲む。すると野薔薇ちゃんが「ちょ、虎杖!零れる!早く受け取れ!」と悠仁君を急かし悠仁君は「任せろ!」と今度は私の顎にぴったり手をくっつけるから、もうめちゃくちゃで、側から見たら少しおかしな状況なんだろうなと思いつつ、それが面白くてついつい笑い声をあげてしまった。
 きっと今私の頬に流れているとしたら笑い過ぎが原因のような気もするけれど、それでも受け止めてくれる人が傍に居て、一緒に笑ってくれるということはとても素敵なことだと、心から思った。

 皆との日々がずっとずっと続けばいいなあ。