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息をしたがる獣


 た、確かにね頑張りたいって思ってたよ?悠仁君の暗殺だって絶対に阻止したいし、真希ちゃんのことを見限った禅院家の人達に真希ちゃんの凄さを認めて欲しいから、呪霊狩りも自分なりに率先して頑張ろうって本気で思ってたよ?
 けどごめんなさい。特級を相手する心構えまでは1ミリも出来ていませんでした。

「(ああもう、ほんと無理…!)」

 と言うか最近特級呪霊の遭遇率多くないですか?此処数ヶ月で3回?報告も入れたら更に多い。ええと、特級って滅多に現れない特別クラスの呪霊だから特級って呼ばれるんだよねこうもバンバン出現されちゃあ困るよ心臓が持たない!

「『止まれ』」
「……んッ!」

 棘君の言霊で相手の動きを止め、私が蹴るなりして攻撃。これを何回か繰り返して距離を取ろうと試みているんだけど、私の力が足りないのか直ぐに距離を詰められてしまう。しかも途中から大きな根が至る所から私達を襲い、とても攻撃どころではなくなってしまった。うう…怖いよう。森を抜け校舎側へと懸命に走る心中は情けない声で溢れている。

 すると中庭の方で対峙する恵君と加茂さんの姿を見つけた。あっと声を上げたのも束の間、呪霊も同じように彼等の存在に気付いたのか蠢く根を彼等に向かって更に伸ばす。けれどもそれらが触れる前に棘君の言霊が恵君達に届き、根は地面へと刺さった。棘君凄い!

「……何故高専に呪霊がいる。帳は誰のものだ?」
「多分その呪霊と組んでる呪詛師のです」
「ゲホッ」
「棘君大丈夫?」

 恵君達と合流し今の状況を確認し合う。分からない点はかなり多いけれど、恵君の言うように呪霊と呪詛師が組んでいることはほぼ間違いないだろう。目の前の呪霊は以前五条先生が覚えておいてねと書いた絵にそっくりであるし呪霊が特定の人物を狙うことは極めて稀であるにも関わらず今回は高専の人間を標的として定めている。明らかに異常事態だ。

「ツナマヨ」
「そうですね。五条先生に連絡しましょう」
「ちょっ…と待て。君は彼が何を言っているのか分かるのか?」
「慣れたら意外と分かりますよ」
「ちょっと今そんなことはどうでもいいでしょう。相手は「領域」を使うかもしれません。距離を取って五条先生の所まで後退ーー」

 刹那、背後に呪霊が回る。
だいぶ距離を取っていた筈なのに、なんて素早い。
そう思いつつ私達も咄嗟に動き出した。四人による総攻撃。手を休めずに次々と技を繰り出すけれど如何せん身体の表面が固い。仕留め、切れない。

「『やめなさい愚かな児等よ』」

 突然、声が聞こえた。

 鼓膜を揺らすのではなく脳に直接語り掛けるような、今まで聞いたことのない音。言葉は分からないのに意味はちゃんと理解できて、そのアンバランスさに嫌な気持ち悪さを感じた。

「呪いの戯言だ。耳を貸すな」
「低級呪霊のソレとはレベルが違いますよ」

 呪霊は私達人間に怒っているのだと言った。繰り返す環境破壊に森も海も空も泣いていると、これ以上人間との共存は不可能だと、静かな声に、強い怒りを切に感じた。

「と、兎に角逃げよう…!」

 呪霊の話が全くもって正しくないとは言えないけれど、でもだからって分かりました地球のために死にますなんて言えない。私達も私達なり必死に生きているのだ。今だってそう。死に物狂いで呪霊から逃げている。

「来るぞ!!」
「『止まれ』」
「「百斂(びゃくれん)」「穿血(せんけつ)」」

 先程と同じように、棘君の言霊で呪霊の動きを止めて恵君達が攻撃し距離を取る。この繰り返しで帳の外へ行ければ良いけど、何せこの作戦は棘君への負担が大き過ぎる。そこまで強い言霊を使っているわけじゃあないのに徐々に効き目が悪くなっているし。時折反転術式を使ってみるも、目に見えて消耗している。回復が追いついていない。

「狗巻先輩が止めてくれる。ビビらずいけ」

 恵君の鵺が呪霊に向かって一直線に羽ばたく。けれどもその攻撃が当たる瞬間、鵺の翼を貫かれてしまった。言霊が効いてない。バッと棘君の方を見れば膝をつき、血を吐いている。もう限界であった。

「棘君!!!」

 急いで近寄れば、その間にも加茂さんが呪霊に吹き飛ばされてしまう。どうしよう最悪な状況だ。二人はもう戦えない。私と恵君でやるしかと唇を結んだそのとき、棘君が私の肩をぽんと叩いた。
 え、まさか。

「棘君だめ!!!
「『ぶっ、とべ』」

 棘君がガハッと血を吐いたのと同時に、呪霊が建物に叩き付けられる。私は棘君の傍で何度も彼の名前を呼んだ。いやだいやだ棘君が死んじゃう。早く助けなきゃ。加茂さんのことも。でも呪霊が居てどうやって。恵君だって居る。呪霊を倒さなきゃ。本当に私達だけで倒せるの?頭の中がぐちゃぐちゃになってもうどうしたら良いか分からなくなる。
 早く行動しなきゃいけないのにと目頭が熱くなった瞬間、羽衣と名前を呼ばれた。

「此処は私と恵が引き受ける。羽衣は棘と憲紀を頼んだ」

 それだけ言って真希ちゃんは呪霊に向かう。私はその背中を見て、自分の両頬をぱんっと叩いた。
 何してんだ私。どうせ全部抱え切れないんだから余計なこと考えるな。私は私にできること、それを全力で全うするんだ。