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貴方が奏でる音で在りたい


 よーいどん。ぱあんっ。
なんて、運動会のような軽やかなスタートは一切なく五条先生と庵先生の漫才のような掛け合いを合図に皆一斉に走る。団体戦の勝利条件は如何に早く二級呪霊を祓えるかどうか。もし両校が祓えなかったとしても複数放たれた三級以下の呪霊の討伐数が多いチームに軍配が上がる。一見単純なルールに見えるけど、妨害行為ガンガンあり。相手を殺したり再起不能の怪我を負わせること以外はルール無しの総当たり戦がこの団体戦のメインなのだ。つまり、京都校随一の強さを誇る東堂君をどう抑えるかが勝利の鍵となる訳で。

「う、うぎゃッ蜘蛛みたいな呪霊」
「雑魚だな」
「ああ。羽衣は三級程度でビビんな」
「ーー先輩ストップ!!」

 呪霊を祓おうと真希ちゃんパンダ君が構えを取ったそのとき、恵君が叫ぶ。呪霊がぶら下がっていた木ごと薙ぎ倒した東堂君が現れたのだ。彼は私達の存在を確認し不敵に笑む。

「いよぉーし!!全員いるな!!まとめて掛かってこい!!」

 全部、計算通りだ。「散れ!!」と言う真希ちゃんの言葉と共に二手に別れて走る。東堂君の相手をする悠仁君をただ一人残して。一秒でも長く東堂君の足止めをしてもらうことが目的だ。その間に私達が他の京都校の人と戦い、呪霊を祓う。

「東堂君最初から飛ばすなあ」
「分かっちゃいたけど化物ね」
「そっ、だから無視無視」
「ツナ」

 

















 如何やら今回の交流会、親睦とはかけ離れたどろどろの悪意が蔓延っているらしい。
 悠仁君の存在が明らかになって風当たりが一切無いとは思っていなかったけど、まさか交流会に乗じて殺しに掛かってくるとは。何処までも上層部の人間は悠仁君を呪いとしてしか認識しないようで、そのことに嫌悪感が沸き、怒りを通り越して悲しみの方が勝ってしまった。何で、悠仁君のことを知りもしない癖に殺すことばかりを考えるの。
 兎にも角にも悠仁君を守らなくてはと私達は元来た道を引き返すことに決めた。しかし私と棘君だけは呪霊狩り続行だとパンダ君に言われ、何で!と直ぐ様に言い返す。私だって悠仁君が心配だもん!
 だけどパンダ君に京都校の人達は交流会に乗じて暗殺しようとしているから交流会が終われば企みもそこまでだろうと、真希ちゃんのこともあるし交流会は絶対に勝たなくてはならないと伝えられ、私も棘君も分かったと首を縦に振った。

「(絶対に偉い人の思い通りになんかさせない!)」

 それから棘君と数体の低級呪霊を祓いつつ、二級の呪霊を探した。けれども簡単には見つからず少し難航していると恵君の玉犬がメカ丸君の腕と携帯を咥えて持ってきてくれた。わあ、なんて良い子なんだ!ありがとうと頭を撫でて受け取った携帯を棘君に渡す。棘君の言霊は対象となる人物が離れていても音が届きさえすれば効果を発揮できるから本当に凄い。

「……寝た?」
「しゃけ」

 棘君が携帯を耳に傾けてくれたからそのまま通話中の音を聞くと三輪さんの寝息がバッチリ確認できて、流石だねと笑う。棘君はグッと親指を立てた。

「じゃあ、次に行こうか」
「……明太子?」
「あっごめん。ペース早い?」
「おかか。高菜。すじこ」
「……ありがとう。でもやっぱり皆で勝ちたいから。普段迷惑かけてる分頑張りたいの。それに呪霊が沢山居ても棘君が傍に居てくれるから、とっても心強いよ」

 心配してくれた棘君に大丈夫だよと告げる。何時も何時も皆の優しさに甘えている私だけどやっぱりそれだけじゃあ自分は皆の仲間だと胸を張って言えないから、もっともっと頑張りたいと。
 すれば棘君が頭をよしよしと撫でてくれて、胸の内がふんわり温かくなった。これも一つの甘えなのかもしれないけど、これだけは強くなってもやめてほしくないなあ、なんて。

「「……ッ!」」

 ぴんと張り巡らせた糸に何かが引っ掛かったような感覚が突如襲い、視線をその方へ向ける。瞳が捉えたのは今回一番の強敵である二級呪霊。ごくり、と生唾を飲み込む。これを倒せば私達の勝ち、と手に呪力を込め、棘君は首元のジッパーを下ろした、その時だった。

 二級呪霊より、更に強い呪力を纏った呪霊が現れたのは。二級呪霊を軽々しく倒しているところから判断して、たぶん特級。

「(どうして、特級がここに…)」

 上手く飲み込めない展開にどくんと心臓が大きく脈打つ一方で、何処かの誰かがこの状況をほくそ笑んで見ているような気がした。