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まだ満たされないでいて


 里桜高校での事件は悠仁君に消えることの無い小さな傷と呪術師として生きることの意味や覚悟を与え、ゆっくりと幕を下ろした。
 それから数日が経ち、遂に今日は京都姉妹高交流会。朝から緊張でドキドキしていたのだけれど、野薔薇ちゃんの可愛い勘違いが発覚し気持ちがホッと緩んだ。どうやら今の今まで京都で行うものだとずっと思っていたらしい。伝えてなくてごめんね。交流会は去年勝った学校で開催するのが決まりで、去年は優太君が圧勝したから今年は東京校なんだ。

「(そう言えば悠仁君はいつ皆と合流するんだろう?)」

 何でもサプライズをするだとかで内容は詳しく教えてもらえなかった。もう始まっちゃうのにと周りをキョロキョロすると、悠仁君よりも先に京都校の皆が姿が。うわあ、なんかロボットっぽい人居る!凄い!強そう!

「あらお出迎え?気色悪い」
「うるせぇ。早く菓子折り出せコラ。八ツ橋くずきりそばぼうろ」
「しゃけ」
「腹減ってんのか?」

 一触即発とは正にこのこと。私は野薔薇ちゃんにどうどうと背中を摩り今度一緒に京都の物産展に行こうねと宥めた。すると「はーい。内輪で喧嘩しない」と庵先生が後からやって来て皆の輪に加わる。久しぶりに会えたことが嬉しくて庵先生の名前を呼ぶと笑って手を振ってくれた。んふふ相変わらず歌姫さんはとっても優しい。

「で、あの馬鹿は?」

 この場合の馬鹿とは100%五条先生のことである。昔から相性があまり良くないみたいなんだよなあ、と眉を少し垂れ下げると「お待たー!」と五条先生が荷台を押しながら賑やかな登場を見せた。

「やぁやぁ皆さんおそろいで。私出張で海外に行ってましてね」
「急に語り始めたぞ」
「はいお土産。京都の皆にはとある部族のお守りを。そして東京都の皆にはコチラ!!」

 やけにテンションの高い五条先生がくるりと私達の方へ向く。まさかサプライズって、と目を瞬かせたそのとき五条先生が高らかに宣言した。

「故人の虎杖君でーすッ!」
「はいおっぱっぴー」

 ばんっと満を辞して箱から飛び出した悠仁君の存在に皆は驚きながらも歓喜し涙する。生きていて良かった。本当に嬉しい。おかえりなさいと抱き合って喜びの言葉を伝えたーーーりといった感動の再会が起こることは一切なく、ただただ長い沈黙が続いた。え〜と。サプライズ失敗?















「あのぉ〜これは…見方によってはとてもハードなイジメなのでは…」

 東京校サイドのミーティングにて、悠仁君は正座をしながら野薔薇ちゃんの持ってきた額縁を顔の前で翳している。遺影写真のようにも見えなくないその行為に悠仁君は少し困惑した様子で「羽衣さーん」と私に助けを求めてくれたけれど私も曖昧に笑うしかなかった。だってそれは野薔薇ちゃんなりの愛情表現にも取れるんだもん。

「虎杖と随分仲良くなったんですね」
「あ、うん」
「何ですかその顔」
「いや、悠仁君のこと内緒にしてたの怒ってないのかなあって」
「さっき説明も聞きましたし別に気にしてないです。寧ろ、ありがとうございます」
「え?」
「羽衣さんのことだから俺達に色々気遣ってくれたんだろうなと。羽衣さん小心者の割に直ぐ背負い込む厄介な癖があるんで」
「えッ!!!」
「それなりに後輩やってれば性格くらい分かります」
「へえええ。そういうものかあ」

 凄いなあと目を丸くして感心する。でもそっかあ。恵君と出会ったのって真希ちゃんや棘君よりも全然前だから私達の付き合いって結構長くなるんだ。確かに初めて会ったときは私の方が身長も高かったもんね。今じゃ見下ろされる一方だけど。
 思わず、ふふと笑う。
 
「……?」
「そう言えば私も恵君の性格分かるなあって。恵君はさ一見ドライに見えがちだけど、誰よりも情に熱いっていうか優しいよね。周囲のこと良く見てるし誰かの気持ちを汲んでその人のために行動できる勇気がある。あ、あとピーマンが嫌い」
「……最後の性格じゃないですよね」
「ふふっそのくらい沢山知ってるってこと!」
「……………肝心なことは何も気付かない癖に」
「え?」

 ボソリと呟かれた恵君の言葉は私の鼓膜を震わせることなく、空気として溶けて消えた。ごめん何て言ったのと問えば何でもありませんとただそれだけで、それから直ぐに真希ちゃんが「二人共。最後の打合せすんぞ」と声を掛けてくれたことをきっかけに私達の会話はそこで終わった。
 先に皆の元へ行ってしまった恵君の背中を見て思う。本当は、何を言いたかったんだろう。