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素晴らしき世界


 ブッ殺してやる。今まで俺の口から出た言葉は全て嘘だったんじゃないかと思えるくらい、腹の底から出た本音だった。順平が殺されて、初めて、救いたかった命が手から零れ落ちる瞬間を目の当たりにして、怒りが、全てから溢れた。
 やばい。なんか分かんねえけど、何かがやばい。このままじゃ、堕ちる、

「悠仁君!!!!」

 不意に名前を呼ばれ、ハッと意識が戻る。
声の方に視線を向ければ何処か焦った様子の羽衣さんが居て、俺を認識するとその瞳に安堵の色を少し宿した。

「女の子の呪術師に会うのは初めてだよ。君は呪具を使うのかい?」
「これ?さっき廊下にあった手摺りをちょっと拝借したの」
「わあ、見た目に反して結構パワフルなんだね」

 ガキンッと金属同士がぶつかり合うような音が響く。羽衣さんの戦うとこ今まで見たことなかったけど、すげえ。降り掛かる攻撃を綺麗にいなしつつ、一瞬できた隙を的確に突いている。何よりそのパワーが桁違いだ。

「君強いね」

 けど魂の前ではどんな人間も無力だ、と継ぎ接ぎの呪霊が羽衣さんの攻撃を受ける前に姿を小さく
変える。そのことに一瞬動揺した羽衣さんにアイツはにやりと笑った。やべえ…!!

「羽衣さん駄目だ!!」
「もう遅い、よ!」

 その伸ばした手が羽衣に触れる。先程の順平の姿がリフレインし絶望で目の前が真っ黒になった。
 …………羽衣さんが、死ぬ、

「あれ?」

 どろり、と持っていた形を無くしたのは呪霊の方だった。靄のように広がっていた苦しみが払拭される。一方で呪霊は何が起きたかまるで分からないと言いたげに目を丸くして「君も魂の形を知覚しているのか?いや宿儺を受肉している器は例外にしてもそんなことは有り得ない」とぶつぶつ言葉を吐いていた。

「そんな難しいことじゃないよ」

「私の術式『泡沫夢幻』は呪力の増幅ができるの。手や足に呪力を込めることで強い力が出せる。そして今貴方が触れたのは術式反転である『現夢(うつつゆめ)』。身体の外側に現夢を纏うことで、呪霊の攻撃を止められる。人間と違って呪霊は呪力の塊そのものだから、呪力を減衰されたら形を保ってられないよね」

 建人君に貴方がどんな術式を使うか事前に聞いてたから対策はバッチリだよ。
 そう言って不敵に笑うに、あれはそういうことだったのかと納得する。五条先生が俺の特訓に羽衣さんが最適と言った意味がやっと分かった。
 ていうか羽衣さん凄くね?

「へえ。じゃあ君は僕たちの天敵ってことだ」
「どうする?観念する?」
「まさか。倒しがいがあってわくわくするよ」
「ーー悠仁君、私が呪力をなるべく減らすから悠仁君は攻撃メインで宜しく」
「うっす!」

 羽衣さんの言葉を合図に、二人して一斉にかかる。連携なんかやったことないけど、すっげえ動きやすいのはたぶん俺に動きを合わせてくれるからだ。どれだけ複雑に動いても場所が移り変わっても、羽衣さんが絶妙な隙を作ってくれる。
 ーーああ、いける。

本能的にそう思ったそのとき、羽衣さんの身体がぐらりと傾き膝を付いた。えっ?

「羽衣さん!!!!」







 ポタ、ポタと落ちた汗が地面に跡を作る。加えて浅い呼吸を繰り返しているからか頭に酸素が巡らず目の前がちかちかと真っ白になった。
 こ、これは…かなり、やばい、かも。
限界が近いことは私自身が一番良く分かっていた。
 先程の術式開示。それに一切の嘘偽りは無いけれど、一つだけ言ってないことがある。それは私が普段からオート機能で術式反転を使っているということだ。
 何故そんなことをしているのか、理由は至って簡単で私が術式反転を使わないと呪力が永遠にダダ漏れになってしまう特殊体質の持ち主だからである。
 つまり私は戦うとき、オートの術式反転で呪力を抑えつつ、力が必要な手や足や目の部分に呪力を増やす術式順転を上書きし、更に今回は継ぎ接ぎ呪霊の対策として外側に呪霊の呪力を消す術式反転を施しているのだ。身体の内側に二つ、外側に一つ、計三つの術式を同時に使うのは想像以上にしんどい。脳が、追いつかない。

「……っ、」

 だけど敵がそんな事情を考慮してくれる筈もなく寧ろ絶好のチャンスと言わんばかりにこちらに向かってくる。完璧につんだ、と思った。
 ………あーあ。まだ約束のやの字も守れていないというのに。ごめんね。……悟君、

 くるであろう攻撃に備えてギュッと目を瞑る。
けれどそんなものは一向に訪れず恐る恐るそれを開けば「何受け入れた顔しているんですか」という声と一緒に大きな背中が瞳に映った。

「……建人、君」

 そう名前を呼べば、貴女をそんな風にした覚えはありませんといつか聞いた言葉と同じようなことを言われてこんな状況にも関わらず、つい笑ってしまった。如何やら私には、素敵な家族がたくさん居るらしい。