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星に願いを託すような


 悠仁君と映画をひたすら見続け1ヶ月。これはもう趣味は映画鑑賞ですと言っても良いのではないだろうか。許されるくらいには詳しくなったよ!
 それにそれに悠仁君はだいぶ呪力の出力が上手になったと思う。最初は感情が揺れ動く度に呪骸の攻撃を喰らっていたけど、今じゃ私が呪力を乱したって上手くバランスを取れているし。
 良く頑張りましたってことで遂に今日、第二段階へ突入である。


「な、なんで…久しぶりに会ったのにっ、傷だらけ、なんですかあ」

 ぐすん、ぐすんと啜り泣く。如何して貴女が泣くんですかと呆れられてしまったけれどだってしょうがないじゃないか。建人君が血だらけなんだもん。そりゃあ泣くよ泣くに決まってる。

「全く、相変わらずですね」

 ぽんと建人君が私の頭に手を置く。
ああ、怪我している人に慰められるなんて私はとんだ駄目人間だ。唇をギュッと噛み締め、震える目元に力を入れる。
 先ずは傷口を塞がないと。

「建人君、私…まだまだ家入先生より劣ってるけど昔よりは上達したんです。傷治させてくれますか?」
「……お願いします」

 手を握りながらふつふつと呪力を流す。反転術式を行いながらもっともっと精度を上げなくてはと思った。じゃないと、皆をちゃんと助けられない。

「虎杖君はどうしたんですか」
「最初は悠二君のところに行こうとしてたんですけど、既に吉野順平と接触していると伊地知さんから聞いたので私は会わない方がいいかなと」

 私は昼間学校のため、放課後から悠仁君と合流する算段であった。だけど悠仁君はもう事件の関係者とされる吉野順平と接触していたし、万が一彼が内通者で、呪術師が何人も押し掛ければ不審に思われる可能性も高いと考え合流を踏みとどまったのだ。
 代わりに建人君の大まかな場所を聞いて此処まで来ましたと言えば、そうでしたね。貴女は昔から人探しが上手かったとほんの少しだけ目を細めた。

「私、たくさん泣いてたよね。建人君が高専から離れる時」
「ええ。五条さんに良いから早く行けと言われましたがなかなか行きづらかったです」
「えっそうなんですか?」
「そりゃあそうでしょう。あれだけ一緒に居れば情も移る」
「す、すみませんご迷惑を」
「別に迷惑だとは思ってません。最後は涙ながらにちゃんと見送ってくれましたし………って駄目ですね。歳を取るとつい過去ばかり振り返ってしまう。忘れてください」

 そう言って建人君はふいと視線を逸らしたけれど私はなんだか嬉しい気持ちで胸がいっぱいなった。建人君の思い出のなかに少しでも私が居て、それが決して悪いものじゃないということが降り注ぐ優しい眼差しから分かって、思わずえへへと笑みが零れた。















「………え、」

 伊地知さんの口から吐かれた言葉に私はただただ愕然とした。
悠仁君が映画館で三人の不審死が見付かった事件を調査し始めた次の日である今日、里桜高校に帳が降ろされたという報せが届いた。里桜高校というのは事件の被害者目撃者が全員通っていた学校で、事件との繋がり、建人君が戦った呪霊との繋がりを考えざるを得ない。
 何か危険なことが起きようとしているのは明白であった。ーーなのに、どうして。

「虎杖君は吉野順平のことが気かがりだったみたいで」
「…………っ、」

 不安が胸中を燻り、溢れそうになった何かを必死に堪えて飲み込む。駄目だ、このままじゃあ。
 気付いた時にはもう走り出していた。けれど「羽衣さん!」とすれ違う私の手を伊地知さんが掴む。

「行かせません。幾ら貴女でも危険過ぎる」

 その声色からどんなに心配してくれているか嫌という程伝わり、きゅっと胸が音を鳴らす。
 分かっているのだ。建人君と互角に戦った呪霊に私なんかが勝てるはずないことも、行ったってどうせ足手纏いになる可能性が高いことも全部。
 だけど……。
視線を落としたまま、ポツリポツリと言葉を紡ぐ。

「……まだ、恵君や野薔薇ちゃんに悠仁君を会わせられてないんです」
「え、」
「悠仁君の死を一番悲しんでいたのは二人なのに私だけが悠仁君のことを知ってるのがずっと引っかかって……だから、一つ決めてたんです。二人に会わすまで絶対に悠仁君を守ると」

 何時も何時も迷惑を掛けてごめんなさい。我が儘ばかり言ってごめんなさい。そんな気持ちを込めてジッと伊地知さんの優しさが滲んだ瞳を見詰める。
 すると何かを思索したように眉を顰めた伊地知さんは掴んでいた私の手をゆっくり離した。

「必ず、帰ってきます」

 必ずなんて言葉が存在しないことは私達が一番分かっているけど、それでも。