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君は悲鳴すら甘い


 今日も交流会に向けて訓練に励む傍ら、晴れ渡った青空に似合わない溜め息を朝から零す。
昨日映画の途中つい寝てしまった私は起きたら虎杖君のベッドで眠っていた。飛び上がって辺りを見渡すと虎杖君がソファで寝ていてベッドを借りてしまった申し訳無い気持ちが募ったけれど、「おはよう羽衣」というその声でそんな気持ちは一瞬で吹き飛んでいった。
 幼い頃から一緒に居る所為か寝起きの頭でも充分分かるのだ。五条先生は怒っている、と。
 それからは地獄のようなお説教だった。男の部屋で寝るとか何考えてんのやら危機管理能力無さ過ぎやらそんな風に育てた覚えはありませんやら兎に角色々なことを言われた。
 私が悪いのは百も承知だけどそもそも虎杖君の特訓を頼んだのは五条先生なわけで反論の意味も込めて恐る恐るそれを口にすれば、「はあ?僕は此処に泊まれとは一言も言ってないけど」と一蹴された。もう何も言えません。
 結局虎杖君が起きるまでお説教は続き、今後絶対に虎杖君の部屋に泊まらない約束を取り付けられた。破ったらどうなるか分かってるよね?と言った五条先生の目が本気過ぎて破ったときのことなんか考えたくもない。六眼怖いよう。
 最後の最後にちょっとした抵抗で五条先生は私のお父さんですかって聞いたら、痛めのデコピンが返ってきたからお父さんは嫌らしい。だけどどうしたって年頃の娘を気にするお父さんにしか見えなかった。過保護な悟お父さん。
 まあそんなこんなで私の疲労ゲージは朝にして既にカンストしている。

「あり?一年ズは?」
「パシッた」

 パンダ君の言葉で恵君や野薔薇ちゃんが居ないことに気付く。真希ちゃんのお遣いで自動販売機に行ったらしいけど、そのことに対してパンダ君は心配の声を漏らした。何でも今日京都校の学長が交流会の打ち合わせに来ているらしいのだ。

「特級案件に一年派遣の異常事態。悟とバチバチの上層部が仕組んだって話じゃん。京都の学長なんてモロその上層部だろ。鉢合わせでもしたらさァ」
「ターゲットだった一年…虎杖は死んでんだ。恵達を今更どうこうするつもりもねぇだろ」

 そんな会話を聞きながら、虎杖君のことが秘匿事項だと言った意図はこれかと確信する。両面宿儺の器である虎杖君は千年に一人の貴重な存在であると同時に、前例がない不気味な存在でもある。もし上層部の人間が虎杖が生きてると知ればまた命を狙う可能性は大いに有り得る話で、五条先生はきっとそれを危惧したのだ。
 全く、人の命を何だと思ってるんだか。幾ら年長者だからと言ってそういうのは敬えない…!

「教員は立場があるけど生徒はそうでもないよな」
「来てるって言うのか、真依が」
「憶測だよ。打ち合わせに生徒は関係ないからな。でもなァ、アイツら嫌がらせ大好きじゃん」
「行こうみんな。後輩は先輩が守らなくっちゃ」

 私は、私の守りたい人を守る。












 急いで恵君たちの居るであろう場所に向かえば、そこには傷だらけの野薔薇ちゃんが倒れていた。慌てて、今にもトドメを刺そうとする真依ちゃんの肩を掴む。ああ、買ったばかりの可愛いジャージもぼろぼろだ。酷い。

「ごめんね真依ちゃん。この子は大切な子だからあんまり傷付けないであげて」
「あら、誰かと思えば高専の箱入り娘じゃない。世間知らずのお嬢様は出しゃばらない方が身のためよ?」

 相変わらず意地悪だなあと眉尻を下げる。
誰が言い出したかは定かじゃないけど高専の箱入り娘だとか五条悟のお気に入りだとかは昔から良く言われる言葉だ。ポンコツ呪術師である私に1級の称号が与えられていることへの皮肉だと思うけど。
 身の丈に合ってないなんて自分が一番分かってるよ…!

「それに何処かの落ちこぼれもいるじゃない。気配が薄過ぎて気付かなかったわ」
「落ちこぼれはお互い様だろ。オマエだって物に呪力を籠めるばっかりで術式もクソもねぇじゃねぇか」
「呪力がないよりましよ」

 不意に、真希ちゃんが長物を人間の急所である喉元に向ける。一瞬だけ真依ちゃんが怯んだ。
 その隙に。

「ナイスサポート真希さん…!」

 形勢逆転。背後から忍び寄った野薔薇ちゃんが真依ちゃんの身体を絞めて動きを封じたのだ。やられっぱなしじゃ終わらない野薔薇ちゃんかっこいい!
 私はこの状況にそぐわない、きらきらとした眼差しを思わず向けてしまった。

「おろしたてのジャージにばかすか穴空けやがって。テメェのその制服置いてけよ」
「次は体の穴増やしてやるわよ。あと、その足の長さじゃこれは着れないんじゃない?」

 もうバチバチ過ぎて、段々心配になってきた私は隣に居る真希ちゃんに「止めた方がいいかなあ?」と聞く。けれど「あれは放っておいて良いだろ」と言われたのでハラハラと見守っていると真依ちゃんと同じ学校の東堂君がやって来てこの状況を秒で打破した。
 何でもアイドルの握手会に行くだとかであっさり真依ちゃんを連れて行ってしまったのだ。
 嵐みたいだったなあの人たち…。

「ねえ真希さん。さっきの本当なの?呪力がないって」

 家入先生の元に向かう途中、野薔薇ちゃんが真希ちゃんに呪力のことを聞く。どうやらさっきの真依ちゃんの発言が気になるみたいだ。

「本当だよ。だからこの眼鏡がねぇと呪いも見えねぇ。私が扱うのは呪具。初めから呪いがこもってるんだ。オマエらみたいに自分の呪力を流してどうこうしてるわけじゃねぇよ」
「じゃあ何で呪術師なんか…」
「嫌がらせだよ。見下されてた私が大物術師になってみろ。家の連中どんな面すっかな」

 そう言って真希ちゃんはにやりと笑った。その姿がとっても綺麗で、強く頼もしくて、私が男の子だったら絶対好きになっちゃうだろうなって思った。
 今だって大好きなことに変わりないけどね。

「私は真希さん尊敬してますよっ」
「わたしも!」