青駆ける春
京都姉妹校交流会に1・2年で参加することになった私たち。ただいま絶賛、訓練中だ。
今は新一年生の野薔薇ちゃんがパンダ君に追いかけられ投げ飛ばされ主に近接戦闘と体力面の強化を図っている。パ、パンダ君凄い飛ばしてるなあ…。しかしそれに食らい付く野薔薇ちゃんのフィジカルも充分素晴らしい。校庭の端に座りながら激しい二人の攻防を見て、凄いなあと改めて感心した。
「おっせぇよ恵」
「こんぶ」
「……何してんですかアレ」
少しだけ遅れてやってきた恵君にあれは近接戦闘の強化訓練だよと教える。端から見たらパンダ君が野薔薇ちゃんで遊んでいるように見えるけど、何せ交流会まであまり時間がない。一年生が私たちから一本取れるようになる最低限の目標をクリアすべく、私たちも奮闘しているのだ。
「羽衣さんって近接戦強いんですか」
パンダ君との訓練を終えた野薔薇ちゃんにそう尋ねられ私は「う〜ん…」と返答に困る。単純に力的な意味では決して弱くはない、と思う。でもそれで近接戦闘が強いかと聞かれれば全くもってそうではない。私は近接戦闘に必要な身体運びだとかこう自分が動いたら相手がこう動くだろうといった予測センスが人よりも劣っているのだ。
「羽衣はゴリゴリのパワー系だよ」
「マジですか…!」
「鉄とか簡単に折れるし」
「えっ!羽衣さん隠れ筋肉ダルマじゃん!」
「い、いや普段から筋肉ダルマなわけじゃあ」
「筋肉ダルマは否定しないんですか」
「自覚あるんだな」
「しゃけしゃけ」
だって怪力になれるのは否定できない…!
「野薔薇ちゃん手合わせでもする?」
「いや、私まだ鉄片になりたくないんで」
て、鉄片…。流石の私でも訓練中にそこまではしないもん。何だか野薔薇ちゃんの私に対するイメージがどんどん悪くなっているような気がしてならない。
「それよりも羽衣さん今日一緒に買い物に行きません?可愛いジャージが欲しくて」
「あっごめん野薔薇ちゃん。私今日用事があって」
ええ〜と残念そうに眉を垂れ下げる野薔薇ちゃんにごめんねともう一度謝る。次までに野薔薇ちゃんに似合いそうなお店探しておくから今度一緒に行こう。そう言えば「約束ですからね」と今回のところは許してもらえた。指切りは子供っぽいって理由で断られてしまったけれど。
*
「お待たせ羽衣」
訓練後の用事というのは五条先生からの呼び出しであった。五条先生に会うのはあの時以来で、もう居ない彼のことが思い浮かび、ぎゅっと噛み締めた唇をそのままにしていると目隠しをずらした五条先生がちらりと私の顔を覗く。
嗚呼、相変わらず空をそのまま映したように蒼く澄んだ瞳は酷く幻想的だ。
「うん、やっぱり泣いてないね」
「……一番悲しい筈の恵君や野薔薇ちゃんが泣いてないのに、私が泣けませんよ」
「難儀だねえ。器用っていうか不器用っていうか」
でもそんな羽衣に一つ朗報だ、と五条先生はにやりと笑いながら人差し指を立てる。
ん、朗報?何だか嫌な予感が頭をよぎり私は眉根を寄せた。朗報とか言って全部祓うまで帰れない呪霊狩りとかだったら五条先生のこと流石に嫌いになりますからね。羽衣は僕のこと何だと思ってんの。それはちょっと本人の前では。えっ。
「まあ羽衣の想像とは全然違うから安心してよ。それに」
間に合うかもよ、我慢してた涙。
「………うそ」
事態が上手く飲み込めず、はたと目を見開く。
何だか喉も震えてやっとの思いで絞り出した声は自分が思ったよりも小さく掠れていた。
だって、信じられない。まさか。ほんとうに?
「あーごめん羽衣さん。俺生きてる」
その言葉を皮切りに今まで張っていた膜のようなものがぱんっと弾ける。一瞬にして涙がはらはらと零れた。
「馬鹿、虎杖君の馬鹿」
ぽかぽかと彼のお腹辺りを殴る。呪力は込めてないから痛くはないだろうけど、ちょっとだけ力を込めてもいいかなって内心思った。だって、ごめんなんか言って欲しくなかった。
「ごめんって言わないでよ。私は…っ、私は虎杖君が生きてくれるだけで、それだけで、嬉しい」
頬を緩めながら虎杖君の目を見てそう言えば、虎杖君は少し驚いたような顔をしたけれど直ぐに「ありがとう羽衣さん」ってはにかんだように笑った。
その時、ぱんぱんと手の叩く音が響く。
「はーい。感動の再会も果たしたところで早速次のことに行こっか」
「あっ恵君や野薔薇ちゃんも虎杖君のこと知ったらきっと喜ぶよ!早く会いに」
「今回悠仁が生きてることは秘匿事項だから恵達に報告はできないよ」
駄目だというその想定外の言葉に驚きから「え?」と短い声を漏らす。
ひ、秘匿事項…?それって虎杖君が生きていることを隠してるってことだよね。……でもあれ?じゃあ何で私に教えたの?考えれば考えるほど疑問符が浮かび、目をきょとんとさせる。
「羽衣は呪力の気配を読むのに長けてるからさ僕と会えば悠仁の気配にいずれ気付くと思ったんだよ」
「な、なるほど」
「あと悠仁の特訓に羽衣は打って付けだし」
「特訓…?」
「詳しいことは言えないけど悠二には一日も早く力を付けて欲しいんだよね。だから可愛い後輩のために人肌脱いでもらうよ」
「なんか良く分かんないけどお願いしゃす!」
「え、は、はい」
私で大丈夫かなあと不安を抱かざるを得ないけれど、虎杖君の成長に少しでも役に立てるのなら一生懸命頑張らなくっちゃ。と、特訓ばっちこーい!