ご指名ありがとうございます続編
「ショウ!指名入ったぞ!」
「はーい!今行きますっ!」
オーナーに声をかけられ、急いで指定された席に向かう。
見慣れた姿がそこにあるのを確認して、小さく微笑んだ。
「御山さん、ご指名ありがうございます」
「こちらこそいつも相手してくれてありがとう」
綺麗な笑顔でそう言われ、照れ臭くてはにかんだ。
それを見た御山さんが、かわいいかわいいと騒ぎ始めるものだから、顔が真っ赤になってしまい、それを隠すためにあわててソファーに座った。
御山さんから初指名を受けてから、早3週間。
また今度、と言った御山さんは、その言葉通り2日後にまた俺を指名してくれた。
毎回俺を指名してくれるから、御山さんの事はわかってきたつもりだけど、俺の事を可愛いと言ってくるのは未だに理解できない。
俺かわいくないからね。
「今日はあの2人は他の客の相手してるの?」
「はい、常連のお客様なので手が離せないみたいで」
あの2人と言うのはタカさんとヨリさんだ。
いつもは御山さんが俺を指名してきたときは、何故かタカさんとヨリさんもこっちに来る。
でも2人はこの店のトップ2だから、お客様が2人を指名しないはずがない。
そんな時は、御山さんの相手は俺だけでする事になる。
やった、2人きりだと喜ぶ御山さんにはにかむと、フルーツの盛り合わせを注文してくれた。
た、高いのにいいのか?
「あの、いいんですか?その…高いのに…」
「いいんだよ、ショウくんの為だもん。なんでも食べたいの言って?」
そう言って俺の頭を優しく撫でる御山さんの腕には、シンプルだけど一目見ればとても高級な物だとわかる腕時計がついている。
社長やってるみたいだからやっぱお金持ちなのか?
御山さんが注文してくれたフルーツの盛り合わせの苺をもひもひ食べていると、御山さんが目をつむってぱかりと口を開いた。
意味が分からずぽけーっとしていると、御山さんが甘ったるい声であーんっと言った。
それはそれは語尾にハートが付くくらい甘ったるい声で。
「あ、あーん、ですか?」
「うん、ショウくんのその食べかけの苺を頂戴?」
「こ、これですか?」
「うん、それがいいな」
俺が手に持っている食べかけの苺を欲しがる御山さんを不思議に思いつつ、あーんと言いながら開けている御山さんの口に苺を入れた。
「おいしーっ」
「よかったです」
ほっぺたを両手で押さえる子供みたいな仕草に笑が溢れる。
御山さんって見た目は王子様みたいなのに中身は子供っぽいんだよなぁ。
俺が笑っていることに気づいたら御山さんが、微笑み返し頭を撫でてきた。
「ねぇショウくん、俺の秘書になる事考えてくれた?」
「あ、えと…」
優しい声で囁かれるように言われた言葉に、目を泳がせてしまう。
初指名の時から言われ続けているそれに、俺はまだ答えを出せていない。
今のホストの仕事を気に入っている。お客さんと話すのは楽しいし、従業員の皆も優しい。
何も不満なんてない。
だけど、御山さんに優しくとろけるような声で言われると、なんだか断りにくいのだ。
何も言えずにもごもごしている間も、俺の耳をくすぐるように撫でてきたりと、甘やかすような手つきで優しく俺に触ってくる。
御山さんが耳元で優しく俺の名前を呼んだとき、
「はいはいストーップ」
「タカさん!」
「ちぇ、タイムアップかぁ」
タカさんが俺達が座っているソファーの御山さんと俺の間にどすんと座り込んできた。
いくら広いソファーでも、大人の男が三人座ればきつきつだ。
せ、狭いんだけど!
「ショウはあげませんよ。俺達のなんですから」
「君達ばっかりずるいよー、ショウくんを一人占めしてさっ!」
お客様の相手が終わったのか、ここに居座る気満々のタカさんが俺の口に苺を3つ放り込んだ。
それをほっぺた一杯にしてもぐもぐ食べていると、御山さんがタカさんを押しどけて俺に頬ずりをしてきた。
「ショウくんリスみたい!かわいい!」
「お触りは禁止ですよお客様っ!」
俺に頬ずりをする御山さんと、御山さんを俺から離そうとグイグイ引っ張っているタカさん。
その最近慣れつつある光景に、いつの間にかこっちを見ていた周りのお客様やホスト達が声を上げて笑っている。
は、恥ずかしい〜っ!
恥ずかしさに真っ赤になって震えているて、こら、とどこか呆れを含んだ声がきこえてきた。
振り向けば、やはり呆れ顔のヨリさんがいた。
「ヨリさん!」
「まったく、何をしているんですか…恥ずかしい」
ヨリさんはため息を吐くと、俺に引っ付いているタカさんと御山さんを引き剥がした。
な、なんか2人の扱いが雑だ。
不満気に睨む2人を無視して、ソファーの肘掛に腰を下ろしたヨリさんは、眉を下げ心配そうに俺を見つめてくる。
「嫌な事はされませんでしたか?」
「嫌な事?されませんでしたよ」
本当ですか?と疑うヨリさんに、コクリと頷けば安心したように息を吐いた。
「あの2人に嫌な事をされたら私を呼ぶんですよ?」
「…?わかりました。」
「おい2人って俺と御山さんの事か?」
「俺はショウくんが嫌がる事はしないよ?」
そう言いながらも俺の腰を触ったり太ももを撫でたりしてくる2人にもじもじ膝を擦り合わせていると、ヨリさんの周りの空気が下がった。
あ、と思った時にはヨリさんが2人の頭にげんこつを落としていた。
ゴンッという鈍い音に、関係ない俺まで顔を顰めてしまう。
いつも思うけど絶対痛いよなあ
れ。
「いって…!」
「痛いなぁ、もう!」
「そこに正座をしなさい!」
2人の腕を引っ張りソファーから引きずり下ろし、絨毯の上に正座をさせると、ヨリさんの説教が始まった。
御山さんお客様なのにホストに説教受けてる…!
毎回来るたびにタカさんと一緒にヨリさんの説教を受けている光景は見ていて笑える。
思わず笑みを漏らすと、それに気づいた御山さんが照れたように微笑んできた。
周りのお客様も、俺と同じように笑っていて、なんだかすごく嬉しい。
御山さんが来てくれるようになってから前よりももっとホストの仕事が好きになった。
それを御山さんに言ったら、いつものように照れて微笑んでくれるかな?
そうだったら、なんか凄い嬉しいかも。
想像して赤くなってしまった頬に冷えたグラスを押し当てた。
おわり。
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