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八神家の執事さまっ!(平凡長身執事総受け)
〜八神家次男の場合〜
「あ、葵様弁当忘れてる…」
玄関先にポツンと置いてあるお弁当箱に気づいたのは、葵様が学校に登校してから、1時間と45分を過ぎた頃だった。
「ではお通りください」
「ありがとうございます」
葵様が通われる飛鳥山学園の門番さんに八神家専属執事である証のカードを見せ、門を開けてもらう。
向う先は生徒会室だ。
現在の時刻は午前の11時30分過ぎ。
体育祭が近い今、仕事が忙しいと言っていたので、葵様は生徒会室にいる確率が高い。
八神家の次男である葵様は、飛鳥山学園で生徒会副会長を勤めている。
異国の王子様のような甘い美しい顔立ちで成績も優秀な葵様は、飛鳥山学園でも人気が高いとか。
さすが葵様!
時計の針が12時を指したのか、ざわざわと騒がしくなってきた。
早く葵様に弁当渡さなきゃ…
ちらちらと俺を見る視線を振り切って、生徒会室へ続くエレベーターに乗り込んだ。
軽い音を立てて止まったエレベーターから降り、ふかふかの赤い絨毯が敷かれた廊下に出て少し歩くと、豪勢な扉が見えた。
コンコンコンと三回ノックすると、入れと低い声が聞こえくる。
それに失礼しますと返し扉を開けると、目的の人物がソファーに座っているのが見えた。
「…葵様っ!」
駆け寄りたくなるのを我慢して葵様の元へ行く。
ソファーには葵様の他に4人の方が座っていたので、深くお辞儀をする。
「おくつろぎの所失礼します。私、葵様の執事の菊宮アズマと申します。以後、お見知り置きを。」
にこりと笑みを浮かべ顔をあげると、お辞儀を返してくれた。
葵様のソファーの前に座っている黒髪のイケメンさんが生徒会長で、その隣に座っている無表情なイケメンさんが書記で、葵様の隣に座っているチャラい子が会計だそうだ。
見事にイケメンだな。
「葵様、お弁当をお忘れになっておりましたよ?」
こちらに視線を向けず紅茶を飲んでいる葵様にお弁当を差し出すと、漸くこちらに顔を向けた。
「忘れたんじゃなくて置いていったんだけど」
「な、何故です?」
睨むようにこちらを見る葵様に怯んでしまう。
あれ?今日弁当いらない日だっけ?
「今日は志乃と食堂で食べる予定なの」
「…志乃?」
聞きなれない名前を呟けば、生徒会長さんが答えてくれた。
「先週うちに編入してきた生徒だ」
「編入生ですか…教えてくださりありがとうございます。」
「分かったんならそのお弁当持って早くここから出て行ってよ」
生徒会長さんに笑顔でお礼を言うと、そのやりとりを睨みながら見ていた葵様が冷たく吐き捨てた。
あ、葵様いつもより冷たい…!
いつも俺に対してだけ口悪いけど睨んできたりはしなかったのに…
「副会長ぉ、そんな言い方したらアズちゃんがかわいそおだよぉ」
葵様の乱暴な言葉に落ち込んでいると、会計さんが庇ってくれた。
書記さんも言葉にはしないけれど、会計さんの言葉に頷いてくれている。
アズちゃんってのは聞き捨てならんけどな。
俺お前よか年上なんだけど。
引きつりそうな顔になんとか笑顔を貼り付けお礼を言うと、ふにゃんと微笑まれた。
う、かわいい…!
こういう子の執事にもなってみたい!チャラチャラ遊びまくってるお坊ちゃんに、少々お痛が過ぎますね…?とか言って性的に躾直しちゃったりしちゃったり!?
妄想を膨らましていると、アズマ!と葵様に強く名前をよばれた。
「いつまでここにいる気?僕は早く志乃に会いにいきたいんだ!言う事を聞かない使えない執事はいらないよ!」
「……っ!」
心底迷惑そうに顔を歪める葵様に、泣きそうになってしまう。
どうしてそんな怒ってんの…?
そんなに志乃って奴に会いたいのかよ…
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