八神家の執事さまっ!〜八神家長男の場合〜1
八神家の執事さまっ!(平凡長身執事総受け)
〜八神家長男の場合〜
八神家と言えば、代々続く由緒正きお家柄です。
世界でも名を轟かせる程の大きな会社を経営する現当主、八神 徹様。
そしてその優秀な血、美しい容姿を存分に受け継いだ三人の息子。
八神家は、会社や仕事の実績だけでなく、親子共々容姿が美しい事でも有名なのです。
同じように、八神家で雇っているシェフや使用人、運転手でさえも優秀で、顔が整っています。
いわば、八神家の屋敷には完璧な人間が集められているのです。
その中では、八神家に専属執事として十年勤めている私、菊宮 アズマは少々異質なのかもしれませんね。
朝、目覚ましが鳴る前に自然に覚めた目をこすり、大きく伸びをする。
柔らかなベットから身を起こし、乱れた布団を直すと、まだ閉められたままのカーテンを開けます。
うん、今日もいい天気ですね
顔を洗いに洗面所に行けば、豪華な宝石で飾られた鏡に、どこにでもあるような、平凡な顔が写る。
容姿が美しい者達ばかりが揃うこの屋敷内で、私ただ一人だけが凡庸な容姿をしているのです。
ね、少々異質でしょう?
顔を洗い、執事服を着込み、一通り準備を済ませると手帳を開き
今日の予定を見直します。
時間を無駄にしたくないですからね。
専属執事に代々受け継がれている腕時計を見れば、もうお坊っちゃまを起こす時刻を刺して居ました。
「さて、行きますか」
専属執事の朝一番のお仕事はお坊っちゃま達を起こす事から始まります。
「あ、アズマ様っ!おはようございますっ!」
「はい、おはようございます。私には様はつけなくてもいいんですよ?」
お坊っちゃま達のお部屋に向かう途中で、何人かの使用人とすれ違い挨拶を交わします。
何故か様をつける使用人の方にクスリと笑うと、何故か顔を真っ赤にしてペコペコと何度もお辞儀をされました。
どうされたんでしょうか?
小首を傾げながらも足先はお坊っちゃま達の部屋に向かう。
八神家には女性がいません。
大事な息子に悪い虫がつかないように、という事らしいです。
少々潤いがありませんが、お屋敷の私以外の方は男性ではありますが綺麗なので潤いの面ではなんの問題もありませんね。
長い廊下を進むと、煌びやかなドアが姿を見せる。
銀色の細工がしてあるドアが、八神家三兄弟の長男でいらっしゃる、八神 椿様のお部屋です。
コンコンコンとリズムよく三回ノックをして、ドアノブを回す。
お坊っちゃまの部屋に入れるのは、専属執事の私だけです。
お坊っちゃまに直接関わってお仕事をするのは私だけですので。
室内に入ると、キングサイズの大きなベットで眠る椿様のお姿。
いつもは起こさずとも既に起床していらっしゃるのですが、今日は休日ですからね。
ベットに近寄れば、椿様のあどけない寝顔が目に入り、思わず舌舐めずりをしてしまう。
さらさらとした柔らかい栗色の髪が、綺麗に整った顔にかかっている。
普段は切れ長な目は今は閉じられており、いつもより幼い顔立ちに見える。
閉じられている瞼の奥にある綺麗な碧色を思い出し、ゾクゾクと身体が震えた。
ぁあもう可愛すぎだろっ!
襲ってしまいたいのを我慢してなんとか自分の欲を押さえつける。
危ない危ない…今は俺は執事なんだ…。
そりゃ執事と言う立場を利用してお坊っちゃまに性教育なんて憧れるけど!
こんな理性に任せてとかやだ!
大人の余裕をたっぷり見せつけたい!
言葉攻めとかもいっぱい考えたんだし!
屋敷内で温厚で仕事ができてお優しい執事と囁かれている俺も一人の男である。
普段は自分の事を私なんて言ったり、丁寧な口調で喋っているが実は口が悪い。物凄く。
そして、お世話をするはずのお坊っちゃま達の事を愛しているのである。
下世話な意味で。
今まで妄想の中でどれだけお坊っちゃま達を汚しただろう…。
お坊っちゃま達が可愛いから仕方ない。
とりあえず先に椿様を起こそう。
優秀な執事の顔を貼り付けると、優しい声音で椿様のお名前を呼ぶ。
「椿様…椿様、朝ですよ?起きてください」
ついでにさらさらとした髪を梳くように撫でつけると、小さく身じろぎ、俺の手にすり寄ってきた。
「ん、んぅー、後少しだけ…」
くっそ!可愛すぎだろっ!
あまりに可愛い事をするから我慢ができない!
お坊っちゃま達に仕えて十年…もうそろそろ我慢しなくてもいいだろうか…
ゴクリとツバを飲み込んだ俺は、口元を椿様の形のいい綺麗な耳に近づけた。
「椿様…起きて下さらないとあなたのこの唇に接吻してしまいますよ?」
椿様の柔らかい唇を指先で撫で、吐息交じりの声で囁いた。
き、決まった!
ずっと言ってみたかったんだよなこれ…!
喜びに浸っていた俺は、いつの間にか完全に目が覚めていた椿様の腕が俺に向かっている事に気づいていなかった。
「…っ、うわっ!?」
いきなり腕を引っ張られ、身体は腕が引かれるままに椿様のベットに向かっていった。
身体に少し衝撃が走り、ぎゅっと閉じていた目を開ければ、目の前には椿様の綺麗な顔があった。
な、なんか椿様を押し倒してるみたいな感じになってるんですけどなにこれ俺誘われてるの?
「まさかアズマから誘ってくれるなんてね…」
「…は?」
椿様の綺麗な唇から理解不能な言葉が吐かれ、思わず間抜けな顔をしてしまう。
俺のその顔が可笑しかったのか、椿様はクスクス笑うと、俺の頬に手を伸ばした。
「ほら、僕とキスしたいんでしょ?」
そう言って妖しく微笑む椿様に俺は確信する。
これは完全に誘われている。
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