自分の部屋の窓を開けてみると予想通りの暗闇が広がっていて、右上には丸い月が浮かんでいた。綺麗な夜だなあなんて思いながら開けていた窓を閉めた。もう一度寝ようとしたけれど上手く寝付けない。こんな時は椿が描かれている色紙に書き込んである明日の予定をもう一回確認してから布団に入ることにしている、大抵はそれで落ち着いて眠りにつけるから。

明日は、九時から書類を渡しに四番隊へ、きっとこれは昨日の現世任務で負傷者が出たためその報告書を作成してから四番隊へ行かなければならない、ということは八時ごろから仕事をしよう。その次、六番隊での書庫整理、十一時からは一ヶ月に一回の頻度しかない地獄蝶の世話やその建物のそうじをして、十二時半に…

「隊長と食事…」

思わず口に出たその予定にわたしの体温は一気にあがった。六番隊隊長兼わたしの恋人である朽木隊長はもともと休みが少なく、お昼休みもまともに取れない。ワーカーホリックなんじゃないかっていつも心配しているのだけれどわたしがそう言うと、大丈夫だの一言で片づけてしまう。

どういう風の吹き回しか知らないけれど、そんな隊長が、明日だけはお昼休みにあるであろう全ての任務を阿散井副隊長に任せて私と食事してくれるらしい。
いつも多忙なスケジュールをこなしているけれど流石に最初は無謀だと思っていた。でも、完璧主義者である隊長が実行しないわけがない。終わらなかった分だけどっさり阿散井副隊長に押し付けるのかなあ、なんだかわたしのせいみたいで悪いなあ。

敷いてあるふとんにごろんと横になり、まだなまあたたかい熱をもっていたふとんが少しうっとうしかった。両手で色紙を掲げてみても予定が変わるわけでもない。

そういえば、お昼休みを一緒に過ごすという約束をしたあの日の隊長は変だった。
わたしをねこのように甘やかしていた隊長が、いきなりお昼は誰と食べているのか聞いてきて、わたしは、六番隊の隊士みんなです、隊長も一緒だともっとたのしいのに、と小さく笑って答えたけれどそのはなしをしてから明らかに隊長の機嫌は悪かった。お昼休みの時間ぐらいは欲しいのかなあ、わたしは何か悪いこと言ったのかなあ、なんて思っていたら突然のお誘いだ。

隊長はわたしの小さい願いごとをくみとってくれる。
こういう時、愛されているなあって感じることができてわたしはうれしくて心が躍ってしまうのだ。

そんなことより、とよぎった考えに色紙がぱさりと地に落ちた。
書類整理は年度末の大仕事だからはずせないのだけれど、埃まみれになったらどうしよう、いや、書類整理の仕事はたまりにためこんだ書類を整理するわけだから(したっぱが)もちろん埃まみれになるに決まっているけど。その後に隊長と食事だなんて恐れ多くてできない、いつもだって何分かけてこのくるくるの髪の毛をセットしてるかわからないくらいなのに、まさに灰かぶりになっちゃうし、書類整理の仕事が終わったあとに絶対シャワーくらい浴びたいけど、でも、明日は地獄蝶の世話しなくちゃいけないし、代わってもらうのも仕事にやる気がないみたいで嫌だし、

ここではっとして我に返った。

もう日が昇ってきている、寝つけるんじゃないかと思って確認した予定が予想外すぎて朝まで悩む羽目になった。

次の日の朝がきてしまって、結局あれから悩んでもなんにも変わらなかったけれど、書庫での作業が終わってから五分でシャワーを浴びて、地獄蝶の世話をする仕事に少しだけ遅れた。

十二時半、待ち合わせ時間ぴったりに現れた白哉と一緒に小料理屋さんでお昼を食べた。お昼時だから人が多かったのだけれど隊長が離れ?のようなところに案内してくれたおかげでゆっくりお昼をすごせた。こういう小さいところでまた格の差なるものを意識するけれど、きっと隊長が私のためにと思ってこうしてくれたなら何も言わないことにしよう。小鉢もお味噌汁も鮎の塩焼きもおいしかったし、ちゃっかりデザートまで食べた。隊長はお魚ひとつ食べるのもうつくしくて、一緒にいる自分がはずかしくなって食べる気がなくなってしまったのだけれど、隊長が心配そうに覗き込むから何も言えずにお昼の時間を過ごした。

阿散井副隊長に仕事をおしつけた(隊長は代わってもらっただけと言い張っているけれど)御礼としてたいやきを買って帰ることにした。わたしがたいやきの中身を何にしようか考えながら歩いていると、隣にいた隊長がふいにわたしの顔を覗き込んだ。

「今日は顔色が悪いな」
「あ、あまり寝てなくて。すみません」
「寝付けなかったのか?」
「え…あ、はい」

他の誰でもないあなたのせいでね!なんて言える筈もなく、わたしは目線を隊長から逸らすと曖昧に返事を返した。
そう、いつも隊長が私の思考回路にいつもいつもいっつも入っているから眠れないし仕事もあまり進まない。いつか現世任務で死ぬかもしれない、ぼうっとし過ぎて、隊長のことが気になり過ぎて、死ぬかもしれない。ほんとうにどうしてくれるんだ。
ぐるぐるしているわたしの想いなんてしらない隊長はとんでもないことを言い出した。

「今日から一緒に寝るか?」
「はい?」
「私は帰るのが遅いかもしれないが、一晩中寝付けないより良いだろう」

ぽんぽんと頭を撫でた隊長は、羽織をなびかせながら私の前を歩いていった。でも、顔を真っ赤にしたわたしは立ち止まったまま。

あなたのことを考えただけで寝れなかったのに、隣にあなたがいるなんて寝られるわけがない。好きな人が隣で寝ていたら寝息とか聞こえるかもしれないし、わたしがもしかしたらいびきとかくかもしれないし、寝返り打っちゃって隊長のこと殴っちゃうかもしれないし。
それに夜遅くまで帰って来ない隊長を心配していたら、それこそ…

「余計、寝られません…!」
「心配するな、そんなに寝かすつもりもない」
「どういうことですか隊長!」

先に歩いていたのに妄想していた私のために戻ってきてくれた隊長の顔はいたずらをする子どもみたいな、わたしが今まで見たことのないような表情だった。心臓に悪い。

寝れない理由は全部あなたに関係してる、幸せな悩みなんだって自分でもわかってるけれど誰か助けてほしいです切実に。

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