ぱちっ

はじめてあなたと目があった時、あなたはわたしを見て一瞬揺れた。
頭に感情が流れ込んできた気がして、教授のそれがどんなことを意味しているのか、わたしは頭が悪くないのでわかってしまったのだ。
スリザリンの寮監であるスネイプ教授のことはよく知っている。校長先生から宴の時に紹介があったし、同じグリフィンドール寮の先輩が教授のはなしを談話室でしていたからだ。因みに評価が厳しい科目ナンバーワンだった。
入学してから初めての魔法薬学の授業は教授に見られないよう顔を隠すのに必死で何をはなしていたのか覚えていない。ただ、覚えているのはスネイプ教授の存在とスリザリンの生徒と合同授業であるという情報だけだった。
静かにせざるを得ない授業が終了した瞬間、わたしは緑色のネクタイの女の子にぶつかりながらも教室を出た。あの独特な教室の空気と温度と香りと、とにかく全部から離れて、わたしはグリフィンドール寮に急いで帰り、お母さんに全部を報告する手紙を書いた。いつもはパソコンを使っていて羊皮紙に何かを書くことに慣れていないからかなりの時間がかかった。魔法薬の授業は週に2回だから次の授業には間に合わなかったけれど3回目の授業から、わたしはふくろう便でお母さんから送ってもらった栗色の度なしカラーコンタクトをして授業に出席した。わたしの家庭がマグルでよかったと初めておもった。だって強制的に瞳の色を変えない限り、あの人は絶対わたしを見てくれない気がしたから。

そんなことがあったからかわからないけれど、教授のことをよく気にするようになった。
わたしは元々明るいわけでもないし、マグルの子どもだからかこの学校にまだ慣れない、この魔法溢れる環境がまだ、心地よいと思えない複雑な心境だった。まあ、マグルの世界に居てもわたしは異質だったから同じなのかもしれない。
ここに友達がいないわけじゃないけど、わたしは友達が隣にいることを避けた。ここ二週間でわかったことだけれど、わたしはよく思われていない、スリザリンの人たちに。よく思われないのは私だけで十分だ。それを行動で示したら強がりだとかいいがかりをつけて穢れた血を差別する、そんな日常が続いていたら同級生より先輩と仲良くなっていた。今は学校一の秀才ハーマイオニー先輩がマグルの子ども同士というかすごく波長が合うので一緒に居る。さすがに先輩の前ではスリザリンの人たちも何も言わない。言わないけれど、今度は習った呪文を使うという物理的方法でわたしに何かしてくる。マグルでは考え付かない、ずーっとくしゃみが出るとか、音が遅れて聞こえるようになるとか、血が出ないように皮膚をえぐるとか、木に足だけぶつけてみるとか。我慢できないわけじゃない、そんな痛いことじゃない、涙はでなかった。

消灯時間を過ぎてしまったけれどわたしは廊下を歩いていた。減点対象な割には警備がうっすいなあ、なんて思いながら向かったのはあの独特な空間。
そうっと扉を開けて中に入ると、奥まった空間にあるスペースで教授は課題の採点をしている最中のようだった。教授の視線がわたしにきた瞬間、わたしは黙って左腕と右足を教授に見せた。

「教授なら、治してくれると思って来ました」
「……」
「何故来たのか、と聞いてはいけませんよ。教授は頭が良いからわかってらっしゃるでしょう」

眉間にしわがたくさん寄った教授は黙ったまま薬瓶がある棚に行ってしまった。
わたしがこの傷を治しにマダム・ポンフリーのところへ行けば、いやがらせが公になってスリザリンは減点される。呪文を全部知っているけれど正義感の塊のようなハーマイオニーを頼っても同じだ。
わたしは呪文が苦手なわけではないけど、教授の薬のほうが早く治る気がしたし何より教授に関わることの出来るいい機会だと思っているからラッキーだった。教授は迷惑そうな顔をしながらも手当をしてくれてなんかみんなが言うほど嫌な人じゃない、寧ろやさしい気がした。次行くときはアッサムの茶葉でももっていこう。

だんだん、教授に会いに行く機会が多くなった。
いいことなのかわるいことなのかと聞かれればどちらでもない、でもわたしは確かに感じていた。手当てしてもらうことが増えるたびにわたしの心があったかくなっていくこと、教授が最初は浮遊呪文とかいろいろな呪文でわたしに絶対触れなかったけれど最近は口が切れた時など無意識に傷口に触っていること、わたしが訪ねたとき教授がここにいない日がなくなったこと、わたしがねむりにくいことに気付いて薬を調合してくれた、わからないわからないとずっと言っていたら課題を遠回しに(本当にわかるかわからないか程度)教えてくれたり、寮まで送ってくれたり、わたしのパソコンのお絵かきツールをみたり、わたしの脳内がパンクするほど教授との記憶が積み重なっていった。


ぱちっ

教授と緑があったのは2回目、栗色を外したのはレンズ越しで教授のことを見るのが嫌になったからだ。教授にとってこの緑はわたしを連想させる緑ではないはずだけど、わたしもその人と同じくらいの存在になりたいと思ってるんです。いつもの机、いつものカップ、違うのはわたしの瞳だけであとはいつもと何も変わらないこの空間でわたしは身を乗り出した。
ねえ、わたしのことを見て。

「教授」
「…見るな」
「教授、わたし、あなたの心のしみをぬいてあげるなんて言いません」
「見るなと言っているだろう」
「あなたの心の中にあるものはしみじゃない、もっときらきらしたわたしなんかじゃ塗り替えられないものだってわたしは思っているので」
「……」
「それに、あなたの心にあるそれがなくなってしまったらわたしの愛する教授ではなくなってしまうでしょう」

うつむく教授を覗き込んでじっくり見ていたら、お互いにどちらが先に目を逸らすか逸らさないかの遊びみたいになってしまって、わたしはこみ上げる笑いと感情を抑えきれなくて目を逸らした。勝ち誇ったかのような教授をかわいいなあと思いながら、教授が走らす羽ペンを見つめた。

「そうやって、どんどんこの瞳に慣れてください」
「…我輩の何を知っているのだ」
「教授のことなら何となくわかります」
「ほう、それは結構なことだな」

採点をしながらこちらを見ないで答えるいつもと同じ教授に、水玉柄のマグカップで紅茶をのむわたし。いつもと同じようだけれど、いつもと同じではなくなったこの空間にわたしは満足した。
いつもと同じ景色のはずなのに、授業中みんなが釘付けになる振子時計も教授の性格があらわれている薬品棚も少し蜘蛛の巣が張った壁の隅っこでさえワントーン色が明るくなった気がした。

「わたし、穢れた血に生まれてしあわせ」

エメラルドを突き抜けて屈折するわたしの思いも受け取ってくれたらいいのになあなんて思っていたら、教授は本当に嫌そうな顔をしたからわたしは反対に思いっきり微笑んであげた。


data;2013.02.06


つづきます、なっがいなあ
時系列無視してます、呪文じゃなくてカラコン使っちゃうって孫世代ですよねすみません…
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