こわい、休み時間は教室にいたくない。いや、いれない。
保健室にはわたし、ひとり。
真っ白のまくらカバーに顔を埋めて寒さとクラスメートのこわさに震えた。
“ごめん、俺、ずっと前から好きな子がいるんだ。一生懸命ですごくかわいい子”
“それって……”
“内緒。じゃあな”
《え、あすかちゃん振られちゃったの!?あんなにいい感じだったじゃない!!こんなにかわいい子振るなんて…!》
《…仕方ないよ…大野くん、好きな子いるんだって。ずっと前から……》
《あ、それ大野くんの友達からきいたことある、なんだっけ……あの最近コンタクトにした子!》
《……穂波さん…》
《そうそう、穂波さん!!えーあんな子より全然あすかちゃんのほうがスタイルいいし、かわいいのに!!あの子さあ……》
わたしにどんなことが起きているのか、隣の隣の隣の隣のクラスのまるちゃんからきいた。
わたしはその内容に納得した。
いつもいつも大野くんがわたしの視界からいなくなった瞬間から、クラスメートがわたしをいないものとして扱う理由がやっとわかった。
最初はわたしの声が小さいから聞こえていないものだと思っていたけれど、それは違った。
お昼の休み時間は55分間もある。
もちろん高校は給食ではないので、わたしと大野くんが一緒のところにいる必要もないし、わたしはお弁当で大野くんは食堂だ。
大野くんがわたしの視界から消える時間は、お昼の休み時間と放課後と登校時だけ。放課後は別にいい。登校もまるちゃんと一緒だからいい。ただ、お昼の休み時間だけは逃れられなかった。
お昼休みだけは55分の時間が長く感じた。
周りがざわめく中でひとり食べるお弁当は、なにも味がしなかった。頭のなかで練習中のピアノの曲を無理矢理ながしてみても、違うことを考えようとしても、だめだった。
わたしは、お弁当を食べれなくなった。
やることがないから本を読んだりした。それでもやっぱり噂話は耳に入ってくるし、笑い声もする。
わたしは、呼吸ができなくなった。
そして、自己防衛のために音楽室でピアノの練習をしたり、保健室で休ませてもらうようになった。
そんなわたしのことが、今は教室中で噂されていて、その噂は20倍くらい盛ってはなされているんだろう。
そんなわたしを、被害妄想がはげしい子とみんな呼んでいる。
今日もいつものように大野くんが教室をでていった後に教室をでて、保健室までの廊下を歩いていた。
いつもとひとつ違ったのは、腕をひっぱられたことだった。
「穂波、どこいくの?」
「え……あ、べつに」
わたしのことを気にかける、わたしのことを穂波と呼ぶひとは、大野くんだけ。
わたしは大野くんから目をそらしながらも、大野くんのことを盗み見た。いつもとは違う、手にはかわいいバック。そういえばさっき、女の子が大野くんのためにお弁当をつくるとかなんとか言っていたよなあ。
わたしの顔をのぞきこんだ笑顔に、わたしの心臓はドキドキと早い鼓動を刻んだ。
「一緒に食べよう」
「わたし、その、」
「…俺じゃだめかな」
「だ、だめじゃないよ!!」
「じゃあ、」
「大野くんがだめなわけじゃないの、なんていうのかな……わたしが…だめなの…」
廊下を歩いているひとたちがわたしたち二人を横目で見ながら通りすぎる。
あのひとたちはわたしをいつかオカシクさせてしまいそうで、わたしのせいでわたしはあのひとたちをオカシクさせてしまった。
わたしは大野くんのことがすきで、大野くんもわたしのことがすきだ。
でも、わたしは耐えられなかった。わたしはあなたを傷つけることで自分を守る臆病者なんだ。
「大野くんといると、つらい」
ストロボラスト
2011.2.9
ぽわぽわPの曲をきいていました。イメージソングでもないのですが一応題名をつけようと思いました。こうなりました。