こいつの姉で得をしたことなんて、ひとつしかない。

トレードマークはめがね、整った顔を持って生まれてきた上に優秀。いじめっこであることが玉にキズ。そんな目立つ魔法使いの姉であるわたしに視線が注がれたことなんて、あまりない。あ、ラブレターの受け渡しはよくやるからそのときだけ大活躍だけれど。よく年上に頼めるなあと思うけれど、引き受けてしまうわたしもわたしだ。

両親ははじめての子どもの誕生にたくさんたくさん可愛がってくれたけれど、世間を冷静にみられるようになった頃、わたしの心にはぽっかり穴があいていた。いつだってみんなの中心はジェームズだったから。

でも、ひとつだけ、たったひとつだけ、得をしていることがある。


「おかえり」
「ただいま……シリウス」


赤い扉を開けると顔の整った男の子がお出迎えしてくれた。
ホグワーツの休みにはホグワーツで一番かっこいいこの人と一つ屋根の下で生活できるということだ。

お家になじめなくて休みの期間は帰れないからうちに住まわせる聞いたときはびっくりしたけど、今はもうすっかりわが家になじんでいる。
両親は心配しないの?と聞いたら、違うもう一人の自分が帰っているから大丈夫、と彼は当然のように言っていた。頭がいいってこわい。

髪の毛を乾かしながら、ぼーっとお父さんのワイシャツにアイロンがけをしていると、夜にもかかわらずふくろうが飛んできて、ジェームズ宛てのラブレターをわたしに渡して返っていった。ああ、ふくろうは夜行性だから別に夜飛んでてもいいのか、なんて考えていたら後ろから明るい光に包まれた。
わたしの髪の毛は一瞬にしてさらさらに乾いて、ワイシャツにはしわ一つないプレスがされていた。

こんなことをするのは、彼だけだ。


「あ、ありがとう…」
「お前は魔法使わないのか?」
「うーん、使いたいんだけど、この前はアイロンから火がでて、その前は…」
「髪の毛から火がでた?」
「そう!そうなの!!」


予想外に大きい声を出してしまってあわてて手で口をふさぐわたしをみてクスクスと笑っているイケメンはどうみても年下には見えない。

生意気な笑い方じゃなく、顔をくしゃくしゃにして笑っている顔は小さい頃から変わっていない。

いつだろう。
たくさんの女の子と歩くときにいつも左にいると気づいたのは、あなたの好きな食べ物と好きな色と好きな風景をわたしも共有したいと思ったのはいつからだろう。

わたしが持っていた手紙に気付いたシリウスは、ご丁寧にも手紙をなれた手つきで紙飛行機にして飛ばしていた。

いつのまにか魔法にかかっていた手紙は、台所とソファーのまわり、食器棚、棚に飾ってあるトロフィーと賞状のまわりをぐるぐるしてからリビングを一周すると、またわたしの元に返ってきた。

リビングには雰囲気を損なわない程度に写真や賞状、トロフィーがたくさんある。シリウスもたくさんもらっているんだろうなと思いながら、ぽつりと本音が漏れた。


「あーあージェームズは成績優秀でチェイサーで顔も整ってるのにわたしは……わたしは、完全に失敗作」
「いいじゃん、失敗作」


「ちょっとはフォローしてよ…」
「いいんだよ、失敗作で」
「………」
「お前がみんなに見つからなくてすむから」


彼はわたしにそう言っていつも女の子と繋いでいないほうの手を差し出してきたから、どうしたらいいのかわからなくなった。

部屋にわたしたち以外いないことを確認してから、ぎゅっと握られた右手。

そういえば、右手を繋ぐのって長所だけじゃなくて短所も弱いところも全部受け入れてくれるって意味なんだって昔このイケメンに教えてもらった気がする。そんなことを思い出して、わたしはたまらなくなった。たまらなくうれしくて、この手を一生離してあげないから覚悟しろイケメンって心の中で叫んでおいた。

実際にはなにも言えなくてうつむいていると、上から心音がきこえて、ああ、わたしなんかにどきどきしてくれてるんだと思った。


「失敗作にならないようにがんばってるところ、ちゃんと知ってる」
「…ほんと?」


顔を上げたわたしの目には少し顔の赤いイケメンがうつった。振り向くなんて反則、あんまり見ないで、って言いながら視線を逸らすあなたは、いままでわたしが見たことのないあなただった。

ここの電気すら魔法で消せないふりをして、もうちょっとだけ、部屋を暗くしないであなたを見ていてもいいかな?気がすんだらそっと魔法をかけるから。

こんなことなら、失敗作も悪くないかも。


data;20131111
title;そっと魔法をかけましょう



「あ、ていうかさ、全然魔法上達してないけど試験通ってんの??」
「うっ…一応」
「教えてあげようかと思ったけど一緒に卒業したいから教えてあげない」
「なにそれ!なにそれ!!」
「うれしいくせに」
「…うれしいやらさみしいやらでやるせないわ」
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