世界で一番しあわせ、そう言って隣にいるきみが笑う。そんなへたくそな夢を見た。

夢の中の彼女はいつでも魅力的で、そこに存在するだけなのに心があかるくなる。まあ、僕にとっては悪夢以外のなにものでもない。汗ばんだ肌と不規則になってしまった鼓動がおさまるのを待って、冷たいココアをすすった。

きっと眠りが浅いから夢をみてしまうのだ、もう一度眠りについても同じだからやめよう。もう二度とソファーでうたたねなんかしない。

“リーマスは大変ね。監督生という名のおもり係じゃない、あいつらの”

しかめっ面ではなす、学生時代の同級生である彼女はスリザリンの監督生だった。
在学中、僕は監督生でありながらシリウスとジェームズの悪行を止められなかでたけれど、セブルスにいやがらせをするやつらに彼女は自ら創作した呪文で対抗していたっけ。

“グリフィンドール10点減点!”

凛とした声が通った廊下を、まだ覚えている。
自分にはできない事象を、息をするかのように当然に行う彼女に憧れていたことを思い出す。彼女にグリフィンドール生の個性として伸長させられる正義感があったことを僕は知っている。
そのため、スリザリンでは少し煙たがられていてそれを気にしていることも、セブルスとずっと一緒にいて魔法薬学の優秀生徒として選ばれていたことも、監督生の立場を利用して深夜の誰もいない廊下で静かに泣いていたことも、知っていた。

そして、セブルスを追いかけて薬学の研究室に入ったことも知っている。そのときから僕はセブルスに複雑な感情を抱いている。

「久しぶり」

見違えるくらいきれいになったきみは今更、僕の前に現れた。
てきとうに反応するのが得意だった、上っ面だけの関係が得意だった僕がその場でかたまって何もしゃべらなくなってしまったのは、たぶん、人生でこれがはじめてだっただろう。

変わってないのね、そのチョコレートの山、と言われそうなくらいデスク上に存在する糖分を今更隠せるはずもないし、硬直状態が続いていると、彼女から声が降ってきた。

「…って、覚えてないかな」
「覚えてるよ、久しぶりすぎて驚いちゃって」
「セ……スネイプ教授からホグワーツの先生になったって聞いて」
「ダンブルドアには感謝してるよ」
「そう。わたしにも感謝してよね」
「ああ、だいたいきみがなんでここに来たのかは予想がつくよ。ありがとう」

彼女は小さな小瓶を僕に渡すと、服用に関する事項を僕に説明してきた。その説明が長くなりそうだったので、お茶を彼女に用意しながら聞いていた。以前セブルスが説明してくれた事項と全く変わらないその内容をなぜ今更はなすのか不思議だったけれど、頭のいい彼女のことだ、何か理由があるのだろう。
彼女は僕が淹れたコーヒーに口をつけると、ほっとしたような顔をした。甘いコーヒーでも淹れると思ってたんだろうか、さすがに客人相手にそんなことしないのになあなんて思っていたら、彼女は新しい薬瓶を杖からだした。

「これで説明事項は以上です」
「それで?何かまだあるんだよね」
「…先ほどの説明事項を半分に減らせる新薬があります」
「それはきみの研究かな?」
「そうよ、これからはこの薬を服用してもらいたいのだけれど。いい?」
「そういうことなら喜んで」
「副作用がでたときに対処するため、開発者であるわたしと生活してもらうという条件になるけどいいわよね?」

NOと言わせない口調と空気になっているこの場所で僕に選択肢が欲しかった。彼女と視線を交ざり合わせないように快諾の返事をすると、いつも笑わない彼女がすっと微笑んだ気がした。

彼女が去った後で部屋を見渡して、この部屋にあの女の人が来るのかと思うと、頭が痛くなった。動物もどきでもない彼女に、もし、動物になった時のすがたを晒してしまったら、チョコレートの山を隠すとかなんとかそんな問題じゃない。まして、セブルスのことを好きな彼女と一緒に暮らすなんてどうかしている。彼女はきっとセブルスと一緒に過ごしたかっただろうに研究の関係でこんなおおかみと過ごすことになってしまったのだ。

僕にとって夢じゃない、現実の悪夢をみるかもしれないきっかけをつくってしまった瞬間だった。


20130613;short story 1/2

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