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ゆるやかにウェーブがかかった毛先に魔法の香りをワンプッシュする。
わたしは毎朝のこの作業を欠かさずおこなっている。いや、魔法の香りとか言ったけれどほんとうはただの香水です、マグル出身のお友だちがくれたんです。
誘われるようにやってくる、かわいげがないわんこに恋をした。
「おはよう」
「おはようございます」
「なんで敬語なんだよ、つれないな」
「シリウスに釣れたことなんてありません」
「そんなこと言うのお前ぐらいだよ、このひねくれ女」
へらへらと笑いながら、ずいぶん近くまで寄っていたわたしのもとを離れるいわゆるイケてるメンズは大広間までたくさんの学生に声をかけていた。悪戯仕掛け人とか浮気者だとかいろいろ悪名?があるけれど、みんなと仲がいいというか、あいさつをするところ等そういうところだけは尊敬する。
この香りを纏うことでわたしに気づいてくれると知ってから、 わたしは毎日香りを纏うようになった。
友達からは本当に香水つけてるの?と疑われる?くらい微妙にしか香らないらしく、黒いわんこは鼻がいいんだなあ、さすがわんこだと思った。
わたしはハッフルパフ生だからシリウスと直接関わりがあるわけではないのだけれど、わたしはクィディッチのチェイサーで、そこそこ成績もいいのでジェームズといがみ合っていたらジェームズのとなりにいたシリウスにも覚えられたので関わりを持ってしまった
のだ。
成績もよくて魔法のセンスも良くてさらに顔も整っている、まあおモテにならないはずがなくいつも違う女の子のアプローチを受けている。それもとびきりかわいい子ばかりだ。ふられるのをわかっていて告白する女の子がたくさんいる。二番目でいい、何番目でもいいから、と言うそうだ。彼女たちのことを最初は滑稽だと思っていたけれど、徐々に彼女たちの気持ちをわかるようになってしまったあたり、わたしも滑稽な女子への仲間入りを果たした。
わたしのことだけ特別好きになってくれないかなあ、今日もそんなようなことを考えながら朝食を食べていたら、金髪にくるくるの髪の毛を完璧にセットしたキャシーがわたしの隣で興奮しているように言った。
「ビッグニュース!シリウスがグリフィンドールのドロシーと付き合い始めたそうよ!」
「またまたうそでしょ、この前だって…」
「今回ばっかりは本当よ!もう3日も一緒にいるんだから!」
3日、と出た具体的なキャシーの言葉にシリアルをすくっていたスプーンを落としてしまった。軽く返していたけれど、ハッフルパフまでまわってくる他の寮のうわさに事の重大さを感じた。
シリウスが特定の彼女をつくらないのは有名なはなしだった、なのにどういう風の吹き回しだろう。何人の女の子が泣くんだろうか。わたしは泣いてなんかあげないけど。
なんでだろう、頭がおもい。
魔法薬学の授業では刻むはずのヒキガエルの内臓をすりつぶしてしまったり、放課後にあったクィディッチのミーティングで聞き漏らしがあった。そのあとの練習も集中力にかけていたからキャプテンから叱責をうけた。
なんでだろう、いつもより視覚でとらえているものがかすんで見える。
ちょっとずつ、ちょっとずつ日常の歯車がずれてゆく。あのわんこのせいで。でかい黒いただの犬に振り回されている。こんなのわたしらしくないし、わたしはこんなことのせいで日常生活がうまくいかないなんて納得できない。
「お疲れさま」
「……いいね、わんこは疲れてなくて」
「やけにつっかかるな、なんかあった?」
「べつに」
「なんだよ、気になるだろ」
「そんなに気になるならわたしのこと探してみやがれこの駄犬!」
わたしは持っていたほうきに跨がって宙をきった。当然シリウスはほうきを持っていないから追いつけやしない。目的なんてないわたしのほうきは森の番人の小屋近くで急旋回し、ふくろう小屋の入口までわたしをのせていった。
いつもよりなんだか肌寒い。
ああ、そうか。いつもならここでシリウスがわたしのことを見つけてくれるのだけれど、いまは香水をつけていないし、誰もわたしに気づかない。かなしくはない、だって、いま誰かに気づかれたところでこんな涙でぼろぼろの顔を見せられない。
かっこわるい、もう寮に帰ろう、汗が乾いて冷えてきてしまう。そう思って顔をあげたとき、モデル並みのながい足がみえた。
「ここにいたのか」
「どこにいても見つけられるに決まってるだろ」
「なんで、鼻がいい、ただの、黒い犬じゃ、なかったの、」
「犬を甘く見るなよ」
ずっと見てたからどこに行くかくらいわかる、なんて、黒い犬がわたしにしか愛想を向けないみたいなことを言うから、わたしはたまらなくうれしくなってしまった。
言葉に出すことが苦手なわたしとあなたは似たもの同士だからお互いさま。言葉にしても届かないものだってあるし、言わなくてもわかってしまうところがもう恋の病に侵されている証拠だ。
きれいなかたちの影をおとす校舎とわたしと時計塔とあなた。
「泣くなよ、うざいから」
そう言った唇とは似つかないやさしい体温に包まれて、あなたの首もとに泪がはりついた。いつもよりあなたの香りがしない身体にすり寄られ、わたしの首もとに髪の毛がかかってくすぐったい。
そんな行動もあなたも愛しくてしかたないからマーキングしてもいいよ、許してあげる。そのかわり消せないくらいたくさんマーキングしてよね。
どうしようもないくらい大好きな、素直じゃないわたしの大好きな人。
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ところどころの言葉は白々さまから、素材はラスト1ページさまからお借りしました。
むかし、高校生の頃、わたしのだいすきな友人がわたしのことを香水?というかラッシュのにおいで気づいてくれていたことを思い出してかきました。ろうかとか、どこにいてもわかってくれるからうれしかったなあ、あれってすごいことだったんだなあと思ってます。
わたし的に急展開すぎるので(笑)いつか加筆修正したいです。