いつもこんなことしてんの?

そうやって下から彼が話しかけてきたとき、わたしはびっくりして持っていたたくさんの本を脚立の上から落としてしまった。

わたしの休み時間はいつも図書室とともにある。図書室で書庫の整理をしながら読書したり、利用する生徒の図書カードを棚からだしたり、返却された本を本棚に戻したりする。委員会といえども強制ではないのでやらない人も多いけれど、わたしは図書室が好きだし、委員じゃなくてもここに来ていたと思う。

好きでやってるんだよ。
ほら、みんながどんな本を読んでいるかとか、いろいろな発見があるし。

わたしがそう答えると、大野くんはわたしのことをやさしいと言ってくれた。

大野くんはわたしを脚立から降ろすと、わたしが脚立にのらないと届かない棚の上の方にある本をとってくれて、スカートはいてる女の子が脚立にのったらだめだからもう使わないでと厳しく注意された。
図書室で会うのは今日が初めてなのに、なんでわたしがいつも脚立を使っていたことを知ってるんだろう。なぜだかわからないけれど、それから大野くんは休み時間に図書室へ来てくれるようになった。

ふたりで話しているといつも大野くんのはなしをわたしが聞いているのだけれど、大野くんが黙ってじっとわたしを見る時だけ、わたしははずかしくなっていろんなことをはなしだす。
大野くんはそれがうれしいらしく、やわらかい表情でわたしのはなしに耳を傾けてくれるから、しあわせな日常を一緒につくっていっていると、わたしは思っていた。

「いつもこんなことしてんの?」
「え?」
「昔、大野くんがわたしにそう言ったんだよ」
「……そうだっけ、」
「なんでこういうこと、こんなにつらいこと、言ってくれないの、ねえ、大野くん、」
「関係ないからだよ」
「そっか。関係ないか…わたしは」

いつもにこにこ笑っている大野くん、笑えている大野くんの表情が今日は無に近くて、少し歪んで、わたしから視線を逸らした。

いつもいつも、わたしが大野くんと時間を共有しているのは休み時間だけだった。わたしははじめて大野くんの過ごしている放課後をみた。

埃にまみれて心を抉られるような光景だった。

ねえ、大野くん。
ずっとあの茶色の髪の毛で赤ネクタイをしていた先輩たちに、こんなことをされていたの?いつも笑ってる大野くんの放課後は、こんなにも孤独に溢れたものだったの?

大野くんは表情を保ったまま、わたしは表情を崩したまま、その場に立ち尽くしていた。図書室のそばにあるこの場所で暗くて狭くて人気のないこの場所であなたはいったい何を考えていたの、わたしの知らない大野くんは口を開かない。

「ごめんね」
「なんだよ、穂波はなにもしてないだろ」
「ううん。した」
「何を」
「気づいてあげられなかった。ごめん、ね……ほんとに、」

ぎゅうっと彼のユニフォームを握りしめる。
大野くんの隣に座って髪の毛やズボンについていた砂埃をはらっていると、大野くんのうでがわたしの首にまわされた。
わたしは変わらず髪の毛を梳きながら、大野くんが泣いていない分の涙を流しながら、大泣きしないよう必死にこらえて空を見た。

求める幸いの形すら知らない、強くわたしのことを抱きしめて小さく震える彼のことを、とても愛しく感じた。

「大野くん、だいじょうぶ」
「うん」
「わたし、ここにいるから」
「うん」
「…もう帰ろう、警備員さんが来ちゃうかもしれないから」
「やだ、まだこうしてたい、あと、手、つなぎたい」
「わたしを抱きしめたままじゃつなげないよ、ほら、帰ろう」

ぎゅうっとされている腕をやさしくほどいてから、大野くんのさまよう手のひらをしっかりと掴んだ。

帰り道、大野くんはしゃべらなくていいからという前置きをして、わたしは大野くんにたくさんの「これから」のはなしをした。

わたしは大野くんが笑っている世界で生きていたいと思ってるんだよ。もし、わたしのことを悲しませたくないって少しでも思うなら部活をやめて欲しいな。そうだ、わたしのお父さんに頼んで社会人のサッカーチームに入れてもらうっていうのはどうかな、お弁当作ってふたりの応援したいなあ。それ以前にの問題だけど大野くんがわたしのお父さんのこと、気に入ってくれるといいな。あ、お父さんは絶対大野くんのこと気に入るよ、安心して。ふたりが仲良くなったらお父さんの撮る写真に大野くんが自然と増えていくのかなあなんて思ったりすると、わたし、すごくしあわせ。

大野くんはわたしのはなしにときどき手をぎゅっと握って反応してくれた。返事はいらないよ、わたしは返事が欲しいんじゃない、あなたがしあわせに生きていくとなりにわたしを置いてほしいだけだよ。

それから大野くんは図書室だけではなくわたしの家によく遊びに来るようになる。
それは、わたしが望んでいた未来だ。


data:20130630 title:あなたはわたしのいちぶよ


タイトルはみみさまから、ところどころのことばは白々さまからおかりしました。
ワード整理してたらこんなのがあってたぶん書いたの2年前くらいです、はい。アンケート小説はもっと激あまぷんぷんまるくらいのグレードでおおくりする予定です!お粗末さまでした!!
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