忙しくて、恋や考えごとをしている暇なんてないときに限って恋をしてしまうものだ。


彼女を理事長秘書として雇った。

学校の経営やら経理やらなんやらの処理をやってもらったり、彼女は養護教諭の免許を持っているので会議の時は保健室のことを任せたりして、生徒とも交流を持っている。生徒に人気すぎて彼女に保健室を任せている日は話し声がたえない。


「先生といると、安心する」

「はいはい、そういうことはちゃんと彼女に言ってあげなさいよーきっとよろこぶよ」

「彼女と一緒にいても安心しない。先生がいい」

「そういうものよ。本当に好きなひとと一緒にいたら、疲れるし、安心しないし、緊張しちゃうし。でもそれもいいでしょ?」

「そうだけど…」

「でも、彼女に疲れちゃったらまた休みにおいで」


彼女の手が、すっと伸びる。

細められる目と影が濃くなるまつげを見ていられなくて、彼女が男子生徒の髪の毛に手をおこうとした瞬間、つい声が出てしまった。


「はい、そこまで。もう遅いから帰れ」
  

彼女は理事長に向かってほほえんだ後で小さくおかえりなさいと言い、生徒はバタバタと支度し帰っていった。彼女は立ち上がってさも当然のようにお茶を淹れはじめて静かなこの部屋にお湯の音が響いた。彼女の考え方が好きだ。
例えば、以前なんのはなしから派生したかわからないが彼女と浮気についてのはなしになった。浮気をする方も悪いですが浮気させるような行動をしていた相手も悪いとわたしは思います、韓国では不倫すると罰が与えられますが日本はそれがないゆえ、浮気も不倫も日常茶飯事ですよね。と、いつものようにほほえみを浮かべながら言うのだ。

そんな彼女には、今日何があったとか明日何をするだとか、そんなことを伝えたくなる。小学生の頃でも母親に対してそんなことをしなかったのに。不思議だ。思えばこの気持ちはあの男子生徒と一緒じゃないか。

いつもより今日は彼女が疲れているようにみえた。机の上にことんと置いたコップから湯気がたっていて彼女のほうからは言葉の投げかけがない。会ってから数ヶ月、お互い干渉しないこの距離には慣れたはずだったのに。


「この前頼んだのってどうなった?」

「すみません、今日はもう遅いので…明日に」

「よろしく頼む」

「はい。お先に失礼致します」


いつの間にか帰り支度がすんでいる彼女は保健室の扉をそっと閉めた。

残るのはかすかな花の香り。

どんな気分も彼女がいるだけでしあわせな気持ちになるけれど、その反面、心臓が燃えてしまいそうなくらいあつい。

燃えて燃えて燃えて燃えあがって、燃え尽きそうだ。

この後、彼女はバスに揺られて何を考えるんだろう何をするんだろう恋人に会うのだろうか今日あったことを誰かに話し愚痴を言ったりするんだろうかそれとも安心しない愛しい誰かのとなりで眠るのだろうか

心が灰になりそうだ。


ささやかな副作用



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