あなたの香りが私の前から消えた。
それはわたしの目覚まし時計。あなたがふっと布団から消えれば、わたしは必ず起きる、そういう風にここ何年かの習慣でわたしの身体はなっている。微睡んでいるひまもないくらいわたしの頭は起きなければならない、だってあなたがどっか行っちゃう。
目の前で立ち上がろうとしている着物の裾を引っ張って、わたしが自己主張すればこっちを向いてくれる、わたしの大好きな人。

「おはよう。ねえ、今日はしてくれないの?」
「…何をだ」
「おはようのちゅー」

お布団から顔だけ出しているわたしに、少し微笑んで口を寄せた。
白哉さんはわたしに小さく挨拶をしてから、部屋を出ていった。わたしの視界には余韻と障子と天井しか見えない。

なんだか違和感。変な感じがする。
白哉さんは気づいていない。白哉さんはいつもと同じ朝だと思っている。わたしにとって今日この朝はなんだかやるせない朝だった。だって、一瞬、白哉さんの表情が曇ったから。わたしの見間違いなんかじゃない。見間違えたりしない、むしろ瞬きすらしたくないくらい見つめているから。

ああ、わたしも顔を洗ってこなくちゃ。
そう思って立とうとしたけれど、全身が痺れたように動かない。昨晩飲んだ栄養剤の副作用かなあ、なんて思いながら右足を8回左足を5回叩いてもとの感覚に戻した。着替えて、朝食をとって、わたしは白哉さんと一緒に六番隊へ向かう。

今日はなんだかいろんなことに気付く日だ。
いつもより緋真さんと会話している時間が長いように思えた。緋真さんは白哉さんの前の奥さんで体が弱く亡くなってしまった。それを知ったのは六番隊に入ってすぐ、隊長のことを好きになったのと同時期だった。

あなたと会う度惹かれていった。わたしは黙っていられない性格だし、気持ちも行動にすぐ出てしまうから、白哉さんとわたしに関するうわさが広まる前にわたしから言った。
わたしは絶対死んだりしない、そう言った。
あなたに会いたくて護りたくてここまで来たのです、そう言った。
こんなところでする話ではない。今日うちに来るか、そうあなたは返してくれた。
それからは、一緒にお花見に行った、一緒に月を見て、一緒に夜を過ごした。
わたしは隊長としてのあなたと貴族としてのあなた、ただのあなた、全部好きになった。例えをあげたらきりがないくらい、のめりこんだ。

青い花が咲くお花畑に、月一回、必ず、どんな時でもかかさず、白哉さんは向かう。きっとわたしが死んだその日でも来るだろう。

「隊長、雨の中そこに居るんじゃ風邪をひきますよ」
「…そうだな」
「何故ここに来るんですか?」
「気分転換だ。心配かけたな」

撫でられた頭は熱を持つけれど、わたし、もう、そんなに子どもじゃないよ。
全部知ってるよ、あなたのことなら全部わかるよ、その青いかわいらしいお花の花言葉だって。

今日だけじゃない、わたしが目をそらしていただけで、いつも、わたしじゃないあの人で埋め尽くされている日常にわたしが勝手に入っただけで、あの人と白哉さんの間には何の変化もなかったのに、わたし、受け止めきれなかった、それでもいいって思っていたこの数年間はなんだったんだろう、全部うそじゃないか。大好きな人にうそをついてまでわたしは何をしているの、

家に帰ってきた白哉さんは庭園が見える縁側に座っていて、何かを眺めているようだった。
あなたはそこに座っていつもあの人との未来を考えていたはずです、わたしの好きなあなたならきっとそう。

「白哉さん、隣いいですか?」
「何故、私の許可がいる」
「ありがとうございます。お茶を淹れてきますね」
「別に良い。座らないのか?」
「じゃあ座ろうかな」

少しだけ白哉さんは右にずれてわたしはそこに座った。ここは緑とはじけ飛ぶ水と白が綺麗にみえる特等席だ。わたしは胸がいっぱいになってのどと鼻のおくが変になったけれど、もっと変にならないように堪えた。

あなたに甘えて、ごめんなさい。
明日になったらもう大丈夫だから今日はこうして時間を共有していたい。わたしにとって世界で一番大切だったこの時間この風景この空気を、あなたと。


title:rain stops, good-bye data;2013.01.26



白哉様はやめですが誕生日おめでとうございますそしてもくずも。
向日葵さんのにおPのアルバムに入ってるrain stops, good-bye やばいので皆さん聞いてみてください。
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