真島くんのことはよくわからない。

学年トップの成績で、長いまつげに整った顔、運動神経もよくて、男女問わず憧れの存在である彼だけど、わたしはそんなステータスをだから何?と思ってしまう。まあ、バレンタインデーにチョコレートをたくさんもらえるなんて羨ましい限りではあるけれど太るじゃないにきびできるじゃない。

かるたのこともよくわからない。

綾瀬さんのように試合相手になることもできないし、大江さんのように札を詠むこともできない、菫ちゃんのように教えてもらうこともできないから、わたしはいつも見ているだけだ。

いつからかはわからないけれど、わたしはよくかるた部へ行くようになっていた。

そもそも、わたしのお家では畳を叩く(っていう表現であってるのかな)ことが許されなかった。許されているお家なんてないだろうけど、わたしのお家では猶更許されないだろう。この前、傷んでしまったかるた部の畳と作法室の隅っこにあった今は使っていない畳を交換したとき、はじめて真島くんと話したのだけれど、真島くんはわたしのことを認識していなかった。わたしはそんなに影が薄いのかなあなんて悩んだりもしたけど、今から認識してもらえるだけいいほうかもなあなんて思った。かるたの決まり字は忘れないくせに1年生の時同じクラスだったのにわたしのことを忘れるのか。学年でも目立つ彼と話せたのは、ラッキーだったなと思った。はじめて茶道部の部長をやっていて、女帝と仲が良くてよかったと思った。
いろんなことを思ったんだけど、一番思ったことは、真島くんって綾瀬さんのことが本当に好きなんだなあってことだ。

ほら、その証拠に今日もわたしが部室に来ただけで眉間にしわを寄せた。


「何で来たの」

「綾瀬さんに用があって」

「大会前だし、気が散るんだけど」

「はいはい、邪魔者はすぐに帰りますよ」

「そんなこと言ってないだろ」

「じゃあ何?ずっとここにいて良いわけ?」

「…はー、その性格と見た目のギャップどうにかならないわけ」


大きい音をたてて真島くんは着替えるためか、教室の外へ行ってしまった。

真島くんと私の会話はいつもこんな感じだ。
真島くんはわたしの第一印象、清楚な茶道部部長という印象を持っていたらしい。綾瀬さんから聞いた。
わたしと話しているときはいつもひねくれた答えしか返さない。でもそれは仲がいい証拠だよ!って綾瀬さんが言っていた。

綾瀬さんとの話も終わって教室のロッカーへ寄っていたら、かるた部と帰る時間がかぶってしまった。しかも、部長とキャプテンにばったり。何もしゃべらないのは気まずい気がしたので、わたしは綾瀬さんに話しかけようとしたけれど、綾瀬さんの電話が鳴った。
ちょっとごめん!と言って離れて通話ボタンをスライドさせる綾瀬さん。

千早です、電話ありがとう。今日はいつもより早いね、新、何してた?うん、そっか、わたしもがんばってるし!そう、わたしは部活終わったところだよー、え、勉強はしなくていいの!えー、うん、うん、でも…

新と呼ばれた男の子と電話をする綾瀬さん。
他愛のない話の中にも親しさを感じる電話に、わたしと真島くんはその場に固まってしまった。だって横切って邪魔しちゃ悪いしなあ、なんて思って真島くんを見た。のがいけなかった。


「真島くん?」


目、赤くない?
何でそんなに切なそうな顔するの、私だったらそんな顔させないよ。
ちょっと聞きなさいよ真島、私の提案、受け入れなくてもいいから聞いてほしい、こんな考えの人間もいるんだってことを知ってほしい、自分のことをこんなにたくさん出してしまいそうになるのは生まれて初めてなんだ。


「わたしでいいじゃん」

「…何言ってんの」

「わたしでいいじゃん、綾瀬さんじゃなくてもいいじゃん。かわいいし、誰より真島くんのこと想ってるし、現国なら真島くんに教えてあげられるし。部活の合間の暇つぶしでもいいから、わたしを、」


「彼女にしてください」


「何だよ、それ。いつも全然俺とは目も合わせないくせに」

「え?」

「お前でいいんじゃなくて、お前がいいんだけど」


思ってもみなかった真島くんの言葉に、わたしはぽかんと口を開けたまままばたきもしなかった。ドライアイになりかけていた瞳にうるおいを与えたら、真島くんの顔が真っ赤になっているのに気がついた。

何か言えよって言われても、何も言えない。

かわいくって思わず笑ってしまったら、むすっとした顔をした真島くんがお返しだと言わんばかりに顔を近づけてきた。今度はわたしが顔を赤くする番。

小さな声で好きって言ったら、真島くんはわたしにもっと顔を近づけてわたしのおでこにキスをした。


ねえ、わたしの毎日に魔法をかけて。


何で綾瀬さんが電話してるとき悲しそうだったの?
いや、別に…
はっきり言いなよ男子でしょ
……新は千早ばっかだから…俺から電話してもすぐ切るし
え?真島くんってほも?ほもなの?
ほんと黙れお前

title:某駅ビルのキャッチコピー  data:2013.01.03
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